60.決意
『……話がそれてしまったな。話を戻そう。ここからナツ個人の問題ではなく、君にもかかわってくる話なのでしっかり読んでほしい。また、ここから先はあくまで私の仮説だ。必ず起こるとも限らないことも、頭に入れておいてほしい。先ほども話したように、異邦人は戦争の道具として扱われることが多い。そのため、ナツが異邦人であると知れ渡ると……どうなるかは目に見えている』
そっか……そういうことね。
ナツが異邦人だってことが周りの人たちに知られると、よからぬことを企む奴らが自分の利益のためにナツを連れ去ろうとする可能性がある……ってことだよね。
『そこで、君の力を借りたい。おそらく、今後君たちが先に進んでいくうえで、数多の刺客が現れるだろう。なので、君とナツ、2人の力を合わせてどうにか切り抜けていってほしい。この先何が待っているかは私にもわからん。が、君たち2人ならきっと無事に帰ってくるだろう。健闘を祈る。-アーロン-』
なるほど、やっとアーロンさんが何を言いたかったのか分かった気がする。
僕はナツの方を見る。
手紙を読んでいる間に、辺りは夕焼け色に染まっていた。
ナツのきれいな茶色がかった黒髪も、夕日が反射していて、まるで女神様みたい。
どうやら相当疲れていたらしく、ほっぺをつんつんしても起きる気配がない。
あと、初めてナツのほっぺを触ったけど、すっごい柔らかかった。
「…………たい…………」
寝言かな……?……”たい”ってなんだろう……?
「……かえ…………い…………」
また寝言……?
なんと言っているかよくわからなくて、ナツの顔を覗き込もうとして驚いた。
泣いていた。
嗚咽を漏らすわけでもなく、静かに涙を流していた。
「…………りたい…………かえりたい…………」
そして、譫言のように”帰りたい”と言っているのが聞き取れた。
……ナツが、この世界に来る前にどんな生活をしていたのか。どんな環境で生まれ育ったのか、僕は知らない。
けど、きっとかなり辛いんだろう。
どこかもわからないような環境に一人で放り出されて、何をするべきなのかもわからないまま、必死に生き延びようとする……それがどれだけ辛いことなのか……
僕は馬車の窓を開ける。
草原はいつの間にか薄紫色の花で埋まり、夕日も相まってか、とても幻想的な風景になっていた。
「オダマキですか、こんな時期に珍しいですね」
アリシアさんが馬車の操舵席からそんなことをつぶやいているのが聞こえた。
オダマキの花園と僕たちの頬を風が撫でていく。
風が吹く度、花びらが空を舞っていく。それはまるで僕たちのことを元気づけようとしているようだった。
ナツの涙は、いつの間にか乾いていた。
もう、泣かせたりしないから。
紫のオダマキの花言葉、決意




