58.異変
間に合わなかった……申し訳ありません……
「さて、そろそろ出発しましょうか」
アリシアさんの号令で、私とアッシュ君は馬車に乗り込む。
「気をつけてな」
「はい!アーロンさんもお元気で!」
馬車は走り出す。
車のように早くはないけど、歩くよりもずっと速い速度でどんどん進んでいく。
アーロンさんの立っている正門がどんどん離れていく。
王都までの道はしっかり舗装されているらしく、街道沿いにはいくつか野営できるところが設けられているらしい。
そこで休憩しつつ、4日ほどかけて王都”シャングリラ”へ向かうらしい。
街道周りには草原が広がっていて、時々吹く風が頬を撫でていき、とても心地よい。
少しでも気を抜くと、ついつい寝そうに……
『……か………聞こえますか……』
急に頭の中に、いつか聞いたことのあるような中性的な声が響く。
この声……いつぞやの予言くれた人?
『そうです……余裕がないのであの空間を創り出すのが難しくなってしまい……かなり賭けですが、あなたの脳内に直接メッセージを送っています』
直接って……まぁいいや。
そんな切羽詰まった状態でわざわざ私に連絡よこすってことは、何か緊急で伝えたいことがあるんじゃないの?
『話が早くて助かります。実は……』
実は……?
『私、もうあなたと話せないと思います』
……………………………HA?
ちょっと待って、どういうこと?
『前に、限界が近いという話をしたのを覚えていますか?』
え?うん……一応覚えてるけど……
『もう限界なんです』
……………………………HA?
いやいやいや、いくらなんでも急すぎるでしょ!
『ですので最後のお別れに、挨拶と、最後のお告げを、と思い……』
勝手に話を進めないでよ!第一限界って何さ!あんたこの前まで結構元気そうだったじゃない!!
『限界は限界なんです。残り時間も少ないので、端的に言いますよ?王都で不穏分子の動きが見られます。巻き込まれぬように気をつけてください』
不穏分子?王都で?ちょっと、まったく何言ってるか分からないんですけど?!
『確かに伝えましたからね……では、お元気で』
ちょっ、待ってよ!まだ話は終わってないでしょ!!
「待って!!」
「うぇっ?!な、ナツ急にどうしたの……?」
私の引き止めも虚しく、あいつの気配は消えてしまった。
くそっ……まったく何言ってるか理解できないじゃない……
王都で……一体何が起ころうとしてるってのよ……
ーーーside???ーーー
「はぁ……っ……はぁ……っ……」
薄暗い部屋の中で、一つの影が息をするのも苦しそうに悶えながら倒れる。
「……もう限界かの?」
そこに音もなくやってくる、新たな人影。
「……っ!も、申し訳ありません……私は……もう……っ」
「よいのじゃ……お主は今までよくやってくれた。……ナツ、といったかの?あの娘が王都まで無事に辿りつけそうなのも、全てお主のおかげじゃ」
「……もったいなきお言葉……恐悦至極で……ございます……」
「よいのだ……もう喋るでない……もう肉体を維持するので精一杯じゃろうて」
倒れている人影はほとんど透けていて、今にも消えて無くなりそうだった。
「ここまで……よく頑張ってくれたな。あとは妾に任せるのじゃ。お主の頑張り、無駄にはせん」
そういうと人影は、今にも消えそうな人影の胸に手を当て、一言つぶやく。
「妾の中で眠れ」
次の瞬間、消えかけていた人影はもうひとりの人影に吸い寄せられていき、そして、一つになった。
「あとは……妾に任せるのじゃ」
人影は、音もなく部屋から消え去った。




