第72話 名医師キーガン・ハヴェルツ
アスラと河西は松山病院へ来ていた。
松山病院・・・愛媛で1番大きな病院で設備も最新設備を搭載。医者も名医と呼ばれる人材を多く抱えた病院だ。
入り口のすぐ傍には宣伝と言わんばかりに医師の名前が記された大きな掲示板がある。
河西「相変わらず、すごい数の医師ですこと」
ここへ来た目的は河西の肩を治すためだが、河西は浮かない表情をする。
アスラ「どうした?」
河西「ここはダメですわ。私・・・真っ先にここの病院で肩を診てもらいましたもの。でも私の肩は2度と治らない、どこの大病院に行っても同じだと言われましたわ。結果的にその通りでしたけど・・・ですから行ったところで」
アスラはふっと笑う。
アスラ「それはそうだな。普通に行ってもアイツと会えるわけがない。アイツは特定の地位にいる人間かよほどの希少な病でもない限り、診ることはないからな」
アスラは病院のエレベーターに乗り込む。
受付をしないアスラに河西は首を傾げる。
河西「あの・・・どちらに?」
アスラ「行けばわかる」
アスラは8階のボタンを押す。
8階に着くと病院内であることを忘れるようなビル内構造で仕切られた部屋がいくつもあった。
それぞれの部屋のドアには医者の名前であろうネームプレートが貼ってあり、アスラはある名前の書かれた部屋で止まった。
河西「キーガン・ハヴェルツ?そのような御方・・・整形外科の医師欄には載っていませんでしたわよ?」
アスラ「基本的に知られてはいけない医者だからな。特定の患者しか診ない」
ドアノブに手をかけようとしたその時、部屋の中から怒鳴り声が響いた。
??「ナ~イン!!」
聞いたことのない言葉で叫ぶ男の声。
声の主は間違いなくキーガンのものだと分かる。
キーガン「いくら相手が首相であろうと、病院の多額寄付者であろうと私はそんなチンケな病気の治療を受けるつもりはありまセ~ン」
医者「し、しかし患者が是非ともキーガン先生に診てもらいたいと言っているのにそれを無碍にするのは・・・」
キーガン「ハルト ディ クラッペ!!(黙れ!!)」
医者「ひっ!?」
キーガン「この私に診てもらいたいのであれば、難攻不落な未知の病を患ってから来ることデ~ス。いいデスカ?」
医者「わ、わかりました」
はぁ~とため息をつきながら、40代前半の男性医がキーガンの部屋を後にする。
河西「随分と気難しい方でいらっしゃいますのね」
アスラ「オレ以外にはな」
河西「え?」
アスラは部屋のドアノブに手をかける。
河西「ちょっ!?ノックぐらいしてから入った方がよろしいですわよ!!」
河西の忠告も虚しく、アスラはドアを開けた。
中にいたのは40代半ばくらいの外人男性だった。
案の定、怒りの表情で部屋の主であるキーガン・ハヴェルツはアスラに怒鳴った。
キーガン「オー マイン ゴット!!どこの誰デスカ!!この私を誰と心得マスカ!!」
アスラ「その言葉をそっくり返してやる。このオレを誰だと思っているんだ?」
キーガン「ワズッ!?」
キーガンはアスラの顔を見て目を見開く。
キーガン「オハ!!ヘル、アスラッ!!グーテンターグ!!」
先程の怒りの態度を一変させ、アスラの手をしっかり握るキーガン。
キーガン「こんな汚いところで申し訳ありまセ~ン。どうぞ、お座りくだサ~イ」
河西「(これは驚きましたわ。さっきまでの御方と同じ人物とは思えないくらいの変わりようですわね)」
キーガン「今日はどういった用件デスカ?この前みたいな大金持ちのドナー患者の件デスカ?」
アスラ「いや、今回はオレの配下を治してもらいに来た。お前の本業だ」
キーガン「つまり手術デスネ?」
アスラ「ああ。コイツの肩を治してやって欲しい」
キーガン「肩デスカ?」
キーガンは河西の肩の方をマジマジと見てから、う~んと考え込む仕草をする。
キーガン「スポーツ選手の肩が壊れる案件はいくつもありマ~ス。ヘル、アスラ・・・あなたは知ってるはずデ~ス。私が平凡な手術は受けることができないことが」
アスラ「そんなことは知ってる。しかし、お前のところの医者を始め、どこの病院もコイツの肩は治せないと言ったそうだ」
キーガン「ワズッ!?」
アスラ「そういうわけでお前の出番だ」
キーガン「そういうことなら了解デ~ス。ですが手術は早くても2か月後になりマ~ス」
アスラ「ダメだ、手術は最短だ1週間以内にしろ。よくて2日以内だ」
河西「い、いくらなんでもそれは無理な相談かと思われますが・・・」
キーガン「ヘル、アスラの命令ならば仕方ありまセ~ン。本当なら、この松山病院のスポンサーである院長の弟さんの手術予定なんですがそんなものは後回しデ~ス」
河西「わ、私の手術のためにそんなお偉いさんの予定を後回しにしてしまわれますの?」
キーガン「私、あの山で自殺するところをヘル、アスラに助けられマシタ。コーチもしてくれました。今の職場も紹介してくれマシタ。今後の解決法も考えてくれマシタ。今の私があるのもヘル、アスラのおかげデ~ス」
河西「お、お医者様をコーチ!?一体どんなことを!?」
キーガン「それよりもさっそく精密検査を行いマ~ス。この先の予定を全部キャンセルしてあなたの治療に専念しマ~ス」
河西は、そのままキーガンに連れられ、レントゲン室へと向かう。
アスラはそれを見送り愛比売山へと戻って行った。
【愛比売山】
中山「へぇ、それじゃ肩は治るの?」
アスラ「キーガンがやるんだから間違いなく治る」
真野「それはよかったです」
マリー「でも喜んでばかりもいられないんじゃない?」
黒崎「そうね。肩にメスを入れるんだから完治するのは約1年。来年の大会の2か月前だから相当厳しいわ」
アスラ「大会にさえ間に合えば十分だ。それまでアイツは右腕のみで特訓を受けてもらう。それに1年間で両利きになれるのであればこれ以上の成果はない」
風谷「そう言われれば、そんなような気がするけど・・・」
森「まぁ物は考えようやな」
その頃松山病院では検査結果が出ていた。
【松山病院】
キーガン「精密検査の結果から言わせていただきマ~ス」
河西「お、お願いいたしますわ」
キーガン「確かに難しい手術になるのは必至デス。ですがだからこそ私には自信がありマス。絶対成功させマス」
この上なく真面目に話すキーガンの目は今までとは違い完全な別人だった。
キーガン「手術は3日後行いマ~ス。期待していいデスヨ?」
河西「よ、よろしくお願いいたしますわ」
こうして手術は3日後に決定した。
河西は手術が始まる前日までアスラの特訓に参加していた。
それは山登りの最終試験が間近に迫っており、河西に一刻も早く山登りのコースを体験させたかったからだ。
そして手術前日・・・
河西の病室にチーム全員が集まりそれぞれ声をかける。
黒崎「優希、肩治ったら真っ先に私に全力投球してくれない?復活第1号を受けてみたいから」
河西「ええ、約束しますわ」
マリー「肩が治ったら覚悟しなさい!!アンタの投げるボールを見事にスタンドに叩きこんでやるからエースで4番はこのアタシよ!!」
アスラ「言っとくが打順もポジションも固定はしないぞ?その日その日で変わる。試合も同様だ」
マリー「んなバカな!!」
モニカ「私もあなたの投げるボールを打ってみたいデ~ス。肩が治った時はよろしくお願いしマ~ス」
河西「ええ、よろしくお願いしますわ。あなたにはバスケットの借りもありますしね」
三崎「手術・・・ガンバ」
河西「はい、ガンバしますわ」
真野「手術頑張ってね。私も手術が成功するよう祈ってるから」
河西「ふふふ、それじゃ美沙りんパワーで私をパワーアップさせてもらおうかしら?」
真野「え?・・・じゃ、じゃあ・・・ゴホン・・・優希様のために美沙りんパワーを注入!!美沙り~ん!!パワー!!こ、こ、これでいい?」
河西「ふふふ、これで明日の手術は大丈夫ですわ」
真野「あはは・・・そ、それならよかった・・・」
スムーズに1人ずつ河西に声をかける中、風谷、森、中山の3人は少し気恥ずかしそうに黙って俯いていた。
河西はベッドから降りて3人の方へ歩く。
河西「言い辛いことなら無理はしない方がいいですわよ?」
風谷「あ、あのさ・・・覚えてないかもしれないけど、去年の決勝の時、アタシたち・・・対戦したことあるんだよな」
河西「帽子を被っていましたので、あなた方とは気づきませんでしたけど決勝で当たった女性選手という形で印象には残っていますわ。いいスイングもしてらしたし、将来のライバルになり得るかもしれないとは思っていましたわ」
森「そう言われると何か照れるで」
中山「私たち・・・正直言うとあなたのピッチングを見て憧れてたんだよね。女の子でこんなスゴイ球投げれるんだって・・・だから同じチームでやれるのはすごく嬉しい」
河西は笑って3人の手を取った。
河西「そう言ってもらえて光栄ですわ。私もこのチームで・・・あの御方のもとで指導を受けることができて大変嬉しく思っていますの。それから・・・」
河西は突然頭を下げ始めた。
河西「食べ放題での件は本当に申し訳ないことをいたしました。失明になった方々に代わって私がお詫び申し上げます」
風谷・森・中山「え?」
河西「話は孤児院で聞きましたわ。あの子たちも根は決して悪いわけではないのですが孤児院に対するどうすることもできない怒りの鬱憤を外で晴らすしかなく・・・」
風谷「けど外で問題を起こしたら、孤児院側が怒るんじゃないのか?」
河西「いえ、私たちがたとえ公共物を破損しようが人を傷つけようがその分は国の経費で賄うことになっていますの」
森「何やそれ!!そんなことあるんか!?許されんのかいな!!」
マリー「当然許される訳ないでしょうけど、国の細かい財政事情なんて一般人がわかるわけないし・・・でもそれが本当なら優希たちがたくさん問題を起こせばその分、経費も増える。水増しして請求してるならむしろ問題を起こしてもらった方が常盤孤児院側には都合がいいわね」
真野「子供はストレス発散できて孤児院側も、お金が増えてお互いWinWinの関係ですね」
中山「でも子供の方は将来キツい仕事を任される人生が待ってるし、最終的には孤児院側しか喜ばない仕組みだよね」
アスラ「世の中は、そういう仕組みで成り立っているものだ。重要なのはその仕組みをどう上手く利用するかだ。それが出来るヤツがこの世界では強者となる」
三崎「この世界の人間じゃないのに・・・この世界の何たるかを説いてるのは不思議な感じ」
真野「この世界の闇の部分は誰よりも知ってそうですもんね」
アスラ「とにかく手術は間違いなく成功する。お前は肩が治った時のことを考えろ」
そう言って病室を出て行くアスラ。
他のメンバーもゾロゾロと部屋を後にする。
河西「あ、あの・・・待ってくださりませんか!!あなた様にお話があるんです!!」
河西はアスラを引き止めた。
アスラ「どうした?」
河西「2人きりでお話がしたいのですが・・・」
アスラ「わかった。お前らはいつも通り山登りをやっていろ。最終試験までもう残りわずかだ。今の内すべきことはやっておけ」
2人きりになり静かになった部屋でアスラが先に口を開く。
アスラ「それで話とはなんだ?」
河西「あの・・・えっと・・・ま、まずはあなた様をどうお呼びすればいいのでしょうか?」
アスラ「オレが気に入らない呼び方以外であれば好きに呼んでいい」
河西「では皆さまアスラ様のことをお兄さん呼びしているので私もアスラお兄様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
アスラ「ああ、構わん。話はそれだけか?」
河西「そ、それから・・・えっと・・・き、キーガン先生とのことも教えていただけると・・・」
目を泳がせながら、そう話す河西を見るに明らかに本題を避けているように見えた。
アスラもそのことは見抜いていたが特にこれといった用事もないので河西に付き合うことにした。
アスラ「いいだろう。あれはオレがこの世界に追放されて少し経った時のことだ。静かな森の中で騒がしい声が聞こえてな。そこにアイツがいたんだ」
アスラがキーガンとの出会いを話し始める。




