第69話 殺人バスケ敗れる
河西「(私の・・・私のボールが・・・弾き返された・・・夢?・・・これは夢ですの?・・・こんなこと・・・こんなこと・・・絶対あってはなりませんわ・・・許さない・・・殺す・・・絶対に・・・殺す!!)」
倒れている河西に誰も近づくこうとしない。
マリー「薄情なヤツらね。アイツらに仲間意識とか無いのかしら?」
わざと聞こえるようにマリーはそう言うと、相手チームも少し戸惑いながら河西の傍へ駆け寄る。
選手1「お、おい・・・大丈夫・・・ひゃぁっ!?」
相手の1人が情けない声をあげて後ずさる。
ただ事じゃないと感じた他のメンバーも河西から距離を取った。
風谷「どうしたんだ?」
森「よっぽどスゴい顔して倒れてんやない?」
マリー「当然よ。アタシの一撃をもろに喰らってるんだから」
河西「ふふ、ふふふふ」
河西が手を使わず跳ね起きる。
河西の顔を見た全員がヒッと声をあげる。
微妙に曲がった鼻から鼻血が出ており、口の中も切れているのか血が出ている。
河西はその場で曲がった鼻を力ずくで戻し、鼻血と口から流れている血を拭く。
どんなに外見が大人に見えようとも中身は9歳。
痛みで泣き叫ぶほどの激痛であるはず。
河西の恐るべき精神力には驚きを通り越して恐怖すら感じるものがあった。
その場に居る人々は青ざめながら河西をまじまじと見る。
河西は笑いながらフラフラと歩くとマリーに近づいた。
マリー「ひっ!?」
マリーはアスラの後ろに隠れてガクガク震える。
河西はアスラの前で足を止め、マリーに指さす。
河西「あ、あなたの・・・あなたのお名前をお教えくださいませ」
マリー「ま、ま、マリーよ・・・」
河西「そうですか・・・マリー様・・・ですか・・・ふふふ、あはははは」
そのままクルッと後ろの方へ向き、ベンチの方へ戻っていく。
マリー「な、なによアイツ・・・気味悪い」
アスラは全員を集める。
アスラ「残りは4分。ここからだぞ。この4分が死の1on1の成果が問われる時だ。ヤツは間違いなくお前らを殺しに来る。ボールを持っていようが持っていまいが隙を見せればヤツの餌食だ。いいかヤツをクマだと思うんだ。できないヤツは死ぬぞ」
全員「う、うん・・・」
そうは言われても実感が湧かないのが実情。
竹中が全員の想いを代弁する。
竹中「あんな言い方したら誰も納得できないと思う。死ぬだの餌食だの、河西さんが具体的に何をするかハッキリ言わないと」
アスラ「言ってもいいがオレの言ったことと同じ戦法を取るとは限らない。それでもいいと言うなら答えるが?」
マリー「そっちの方がいいわ。言ってちょうだい」
アスラの憶測を聞き、全員が目を見開いて驚いた。
風谷「いや、いくら何でもそこまでするか?」
森「たかがバスケやで?」
中山「でもさっきのあの様子を見たらやりかねなくもない」
黒崎「いいえ、優希なら絶対にやるわ。その憶測はおおむね間違っていないと思う」
真野「私・・・怖いです」
三崎「まさに殺人鬼」
モニカ「アンビリーバボー!!」
アスラ「今、言った憶測を踏まえて試合に臨め。いいか油断したら死ぬぞ」
全員「わかった!!」
いいタイミングで河西も鼻血が止まったようで試合が再開される。
河西「ふふふ、あははははは」
中山「(うわぁ・・・)」
風谷「(完全に目がいってやがる)」
森「(これはあかんわ)」
マリー「味方でさえアイツを避けてるし、本当に死の1on1が実現しそうだわ」
河西がこの試合初めて個人技で突っ込んでくる。
中へは入れさせまいとマリーが前に立ちはだかる。
河西はニヤリと笑い、ボールを味方にパスし、自分はゴール下まで走る。
マリーも河西にくっつくように並走。
その直後だった。
マリー「痛っ!?」
ギリギリのところでかわしたが服は破れ、皮膚にはくっきりと爪痕が残っている。
本当にクマに襲われた時と同じ感覚だ。
その隙にフリーになった河西にボールが渡ってシュート。
75対72と3点差に差が縮まる。
マリー「アンタ・・・爪を刃物に改造して・・・」
河西「ふふふ、あはははは」
マリー「ちっ、言葉が通じないのかしら?薄気味悪さに拍車がかかったわね」
モニカ「それよりその傷大丈夫デスカ?」
マリー「大丈夫よ、この程度」
河西「ふふふ、殺す・・・殺して差し上げますわ」
ここでアスラは最後のタイムアウトを使う。
マリーの傷に全員が驚愕した。
森「これで憶測やないことがハッキリしたで」
中山「この爪痕・・・本当にクマと瓜二つだ」
アスラ「いいか、攻める時は特訓でやった通りだ。何より重要なのは必ず相手が動き始めるのを待て。24秒付近になっても来なかった場合はその場でシュートを打つんだ。だが絶対に飛ぶな。外れてもいいから絶対に飛ぶな。飛んだら最後ヤツが着地地点で待ち伏せして爪の餌食だ」
全員「わかった」
アスラ「そして守りの方だが、ヤツとは基本的に距離を取れ。自分が攻撃を避けれる範囲で距離を取るんだ。他のヤツらは、いないものとして扱え。見ての通り爪の被害に巻き込まれないようにお前たち以上に距離を取ってる。最も危険なゴール下には絶対に近づくことはしないはずだ。そしてボールを取るタイミングだが・・・」
竹中「(なんか・・・あの子たちが羨ましいな。できれば私もあんな感じでずっとそばで指導して欲しかった。いや、そばに居るだけで・・・)」
アスラ「オレの思惑通りならボールを回していればヤツは絶対に痺れを切らして向かって来る。アイツの頭には試合の結果よりもお前らを殺すことしかない」
タイムアウトが終わりコートへと戻る。
竹中「ちょっと聞いていい?アスラくん」
アスラ「なんだ?」
竹中「私、最強のバスケ選手になれたかな?」
アスラ「お前はオレの試練を突破した。オレの中での最強ラインは超えた。間違いなく最強だ」
竹中「じゃあ、その上を目指すって言ったら指導・・・してくれるかな」
アスラ「オレはお前との約束は守った。今のところオレが教えることは何もない」
竹中「そっか・・・」
アスラ「だが敢えて指導するというならこの試合をよく見ておくんだ。あそこまでとは言わないが、いずれお前も似たような状況に出くわす時が来る。妬みを持った人間は手段を選ばないからな」
竹中「・・・わかった」
アスラ「だがもし、お前が勝てない相手が現れた時はまた指導してやる」
竹中「うん・・・ありがとう」
そう言った竹中の表情は少し寂しげだった。
その頃、試合の方では河西が狂気に満ちた目で次の獲物を探す。
ボールを持っているマリーは指示通り攻めには行かず、河西が来るのをジッと待った。
マリー「(来る・・・絶対にアイツは痺れを切らして向かって来る)」
アスラの思惑通り河西が痺れを切らして襲い掛かってきた。
マリー「(来たわね。でもやっぱりクマより全然遅い)」
河西の攻撃をかわしてゴール下まで突っ走る。
そして相手チームにマリーを止めようとする者はいない。
それもそのはず、河西が奇声をあげながら爪もはや刃物と言っていいもので後ろから迫って来ているのだから。
マリー「(全然遅いわね。しかもハッキリと距離感もわかるわ。そんな奇声をあげてたら自分の位置を教えているようなもんよ)」
マリーは高速でシュートを打ち、後ろから迫る河西の攻撃をかわす。
シュートは決まり、77対72と再び5点差に戻す。
マリー「さぁ、次はディフェンスよ」
河西の動きを注視しながら距離を測る。
相手チームは全員スリーポイントラインから中へ入り込もうとはしない。
選手1「(中へ入って万が一河西さんとぶつかったりしたら・・・)」
選手2「(間違いなくブスリと腹に刺さっちまう)」
選手3「(そんなの死んでもイヤ)」
選手4「(ここは絶対安全圏にいないと)」
選手1がボールを持ちながら河西の動きに合わせてパスを出す。
河西がフリーの位置でパスを受けてシュート態勢に入る。
モニカ「今デス」
河西の真後ろ・・・つまり完全な死角の位置からボールを奪う。
河西「!?」
ボールはマリーが取り、そのまま敵陣へ走るがそこでピタリと足を止め中山にボールを渡した。
中山はゴクリと息をのみ河西が来るのを待つ。
その行動に敵チームは驚愕する。
選手1「アイツらまさか・・・」
選手2「河西さんを使って・・・」
選手3「ドリブルの練習でもするつもり?」
選手4「完全にイカレてやがるぜ」
真後ろから襲い掛かる河西を中山は身体を回転させてギリギリで避ける。
少しかすって服が破れてしまうが身体に傷はない。
そのまま、マリーと同様素早くシュートし後ろから迫る河西の突進をかわす。
シュートしたボールは外れ、慌てて風谷が拾いに行く。
河西は方向転換させて風谷に襲い掛かる。
風谷は迷うことなくボールを捨て、攻撃をかわすことに集中。
その間に近くにいた森が拾って、河西が来るのを待った。
完全に遊ばれている光景に相手チームは口をポカンとあけたまま見ているだけだった。
このやり取りを繰り返して3分が経過・・・
河西「く、くそ!!くそ!!」
アスラ「交代だ。モニカとマリーは下がれ。変わりに真野と三崎が入れ。お前らにも特訓させないといかんからな」
河西「と、特訓ですって・・・わ、私を・・・この私を練習台に・・・ゆ、許せない・・・絶対に許せませんわ!!」
ボールを貰って今度は真野が河西を待つ。
河西は怒り狂いながら真野に突撃する。
真野は冷静に河西の突進を避ける。
河西はそのまま頭から勢いよくベンチに突っ込んだ。
ガシャンと音を立てベンチが破損。
さすがに立つのは不可能だろうと思われたが河西は何事もなかったかのように立ち上がり壊れたベンチを怒り任せに投げ捨てコートへと戻ってくる。
額から血を流しながら真野の方へと向かう。
同じ要領で避けながらシュートを決め、さらに点差を広げる。
河西「ち、ちくしょう!!ちくしょう!!」
河西はドリブルする反対の手をブンブン振り回しながら攻める。
しかし、三崎が真後ろにそっと回り込んでボールを取り河西がバランスを崩して倒れる。
三崎はボールをつきながら河西が立ち上がるのを待った。
河西「ふ、ふざけやがってぇぇぇぇ!!」
アスラ「三崎、焦るなよ。じっくり引き付けろ。情けはいらん。無様な姿を曝け出させてやれ」
河西はアスラの方へ視線を向ける。
河西「お、おのれぇぇぇぇ!!」
河西は方向を一転させてアスラの方へ向かう。
河西「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
爪を思い切りアスラの心臓めがけて突き刺す。
ところが爪はバキッと音を立てて砕け散った。
河西「え?」
一瞬何が起こったのか理解できず、呆気に取られた顔をする河西。
アスラは河西の胸倉を掴んで持ち上げる。
河西「うっ、うぐぐぐ」
アスラ「今は試合中だ。相手を間違えるなよ?ゴミめ」
河西「!?」
この時、河西はアスラの何かを直感的に感じ取った。
コイツはヤバい・・・ヤバ過ぎると。
始めて心の底から感じた恐怖に河西の目からは次第に涙が溢れ出す。
河西「洩矢・・・アスラ・・・様・・・私の・・・負けです・・・わ」
消え入りそうな小さな声で河西はアスラにそう言った。




