第67話 殺人バスケvs美沙りんパワー
河西を2人がかりでマークしているため、1人少ない状態で試合に臨む。
普通なら数が多い方が圧倒的に有利になる。
しかし・・・
選手1「あっ!?」
選手2「あ、あれをパスカットするだと!?な、なんて反射神経だ!!これじゃどっちが数的有利か分かんねぇぞ!!」
風谷「よっしゃ!!ボール奪取!!」
真野「このままガンガン攻めましょう!!」
驚異的な身体能力を発揮し、1人少ない中でも互角以上の勝負を見せる。
10点差あった差がみるみる縮まっていき、第2クォーターの終了時点で47対34と逆転し13点差をつけた。
ハーフタイムに入り、盛り上がりを見せる中で黒崎と森は浮かない顔をしていた。
森「(あかん・・・このままだと第3クォーターから殺人バスケが始まる。ウチらは確かにそのための特訓はしてきたけど、特訓の通りの動きをアイツがする保証はあらへん)」
その時、森の背中を黒崎がポンッと叩いた。
黒崎「里奈先輩、気を引き締めていると思いますが、ガチガチになるのも問題です。難しいこと言いますけど少し身体の力を抜いてください」
森「あ、ああ。わかってるで」
アスラ「森」
アスラの突然の登場に森はヒャッと声をあげて驚いた。
森「な、なんやねん急に」
アスラ「お前、殴り合いをしたことはあるか?」
森「あるわけないやん!!」
アスラ「そうか。できれば殴り合いの経験をしたことがある者をヤツの背後に付かせたかったが・・・」
森「やっぱ・・・殴ってくるんか?」
アスラ「それ以外に背後にいる者を排除する方法があるか?」
森「やっぱ・・・そうなるんか。ウチ、めっちゃ怖なってきた」
森は完全に戦意喪失状態。
アスラとしてもこんな精神状態の森をマークに付かせるのは無理だと判断した。
アスラ「まぁ、お前ならそうなるだろうと思っていた。仕方がない・・・安心しろ。代わりの逸材はすでに見つけてある」
森「代わりの逸材?」
アスラ「真野、ちょっと来い」
真野「は、はい。あの・・・何か?」
まさかの真野の指名に森は目を見開き驚いた。
森「み、美沙!?なんで美沙が適任なん!?だって殴り合いの経験はないやろ!?」
真野「殴り合いの経験!?い、一体何の話ですか!?」
動揺する真野と森の間にアスラが割って入る。
アスラ「真野は相手の攻撃を避ける経験をかなり積んでいることがわかってな」
森「どういうことやねん」
真野「そ、そうですよ!!そんな経験私、積んだ覚えありません!!」
アスラ「この前、伊刈から聞いた話なんだがな」
真野「伊刈さんが?」
森「伊刈って誰や?」
真野「メイドカフェに来る常連さんです」
アスラ「メイドカフェではメイドに触れることは禁止らしいのだがそれを無視して隙あらば触れようとする輩が多数いるらしい。中でも真野はかなりその被害に遭っていたみたいでな。そのため真野はそれを回避する技術を見事に身に付けたのだ。しかも客に不快感を与えないようにあからさまに避けるのではなくごく自然に避けるもので、その技の凄さは目を引くものがあると好評だった」
森「いや・・・それと今回のことを結び付けるんは、ちょっと厳しいんとちゃうか?」
アスラ「いつ違反者の手が忍び寄るか分からない中で、しかもごく自然な動きで避けなければならない。これがどれほどの高等技術かお前には分からんのか?」
森「それは・・・そうやけど・・・」
アスラ「その点、今回はそんな余計なことは考えなくていい。ただ攻撃を避ければいいだけなのだからな」
森「せやけど・・・やっぱ違うような気がするんやけど」
真野「わ、私も里奈先輩と同意見です。メイド時代にやってきたことが今回に生きるとはとても思えないんですけど・・・」
アスラ「とりあえずやってみろ。アイツの攻撃をかわしながら背後でマークし続けられるのはお前しかいない」
真野「わ、わかりました。と、とりあえずやるだけやってみようと思います」
森「ほ、本気なんか!!美沙マジで殺されるで!!」
アスラ「少なくともお前がやるよりはマシだ。少しは真野の実力を信じたらどうだ?」
森「いや、信じろいうてもなぁ・・・」
真野「里奈先輩、私は大丈夫です。私たちが何と言おうと変えないのがアスラお兄ちゃんですから」
森「・・・せやな」
こうして勝負の第3クォーターを迎える。
さっそく河西の背後に付く真野だがその威圧感に気圧される。
真野「(す、スゴい・・・まだ始まってもいないのに・・・イリーナもそうだけど本当にこの人私と同い年なの?)」
河西「あらあら随分と可愛らしい御方が私のマークに付くのね。あの関西の御方はどうなさったんでしょうか?」
真野「えっと・・・ちょっと調子が悪くなったというか・・・」
河西「試合には出ていらっしゃいますけど?」
真野「す、すいません!!とにかくよろしくお願いします!!」
河西「ご丁寧にどうも・・・こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
そう言って見下ろした目が真野をしっかりと捉える。
真野は身体を一瞬ビクつかせたがすぐに冷静になる。
真野「(お、落ち着け・・・落ち着くのよ美沙・・・相手はお客様・・・相手はお客様)」
試合開始早々河西がパスを貰いに動く。
黒崎と真野がピッタリと張り付くようにマークする。
マークを外そうと素早く動く河西。
真野もその動きに必死についていく。
河西「(そろそろ仕掛けてもいい頃ですわね)」
河西の目が一気に鋭くなり真野に向かって肘鉄。
真野は瞬時にしゃがみ込み河西の攻撃をかわす。
河西「なっ!?」
真野「申し訳ありません、ご主人様。靴ひもが解けちゃったニャ。美沙りん反省するニャ」
河西「え?」
黒崎「み、美沙?」
真野「(はっ!?しまった!?お客様だと思い込むあまり余計なことを!?)」
気まずい雰囲気が3人を包む。
ピィーという審判の笛の音でその雰囲気が少し晴れる。
竹中「どうしたの?試合中よ?」
真野「な、なんでもありません!!し、失礼しました!!」
慌てふためく真野の姿に河西はふふっと笑った。
そして再び試合に集中する3人。
変わらず河西に対して黒崎と真野が徹底してマークし、一方の河西の方も真野に襲い掛かる。
河西「(先程は失敗いたしましたけど、もう逃がしはしませんわ)」
真野「(うぅ・・・さっきみたいなことは言いたくない・・・でもどうしても癖で口が勝手に・・・)」
河西の肘鉄が再び真野に襲い掛かる。
真野「お帰りなさいませ!!ご主人様!!」
頭を深々と下げて攻撃をかわす。
河西「ちっ!?」
真野「(また言ってしまった!!も、もうこうなったらヤケだ!!)」
河西「(なかなかやりますわね・・・これならどうですの!!)」
今度はリバウンドを捕るふりをしてバックヘッドを真野にお見舞いする。
真野「ご主人様のお手手に向かって美沙りんラブパワー注入!!」
真野は瞬時に両手でハートマークを作って河西の後頭部を抑える。
河西「ま、またっ!?」
真野「(ぐぅ・・・指が痛い!!頭を撫でようとするおじさん相手に使った苦肉の策。頭を触れられないことを代償に手を触られるまさに諸刃の剣)」
重心を低くして何とか河西のバックヘッドを防ぐことに成功する。
河西「(今度は防がれた!?な、なんですの!!さっきからご主人様とかラブパワー注入とか!!)」
その後も真野の脛を狙った後ろ蹴りをするも・・・
真野「ご主人さまの魔力の大きさに美沙りんビックリ!!」
バックステップでかわされ・・・
倒れるふりをして全体重をのせた押しつぶしを試みるも・・・
「美沙り~ん・・・パワー充電!!」
身体を回転させて避けられる。
ここまで攻撃がかわされることは想定外であったのか河西にも焦りが出てくる。
河西「(まさかイリーナ以外にもこんな御方がいらっしゃると思いませんでしたわ。避けるたびに変なことをおっしゃるのが気になりますが私の攻撃をすべてかわすなんて・・・しかも必要最低限の動きでかわすことで、まったく隙を見せない)」
真野「(ちょっとでも気を抜いた瞬間にやられる。最後まで集中力を切らしたらダメだ)」
黒崎「(避けるたびに発する言葉の意味がわからないけど、本当にすごい。私も美沙が優希相手にここまでやれるとは思わなかったわ。このままいけば勝てる)」
第3クォーターも2分が経過し、点差はアスラチームが18点のリード。
真野「(よ、よしこれだけ差が付けば・・・)」
心の中で一瞬そう思ってしまった真野。
その一瞬に出来た隙を河西は見逃さなかった。
たかが1度されど1度。
このたった1度の隙が勝負の命運を分ける。
河西は真野を振り切り、ボールを受ける。
真野「(しまった!?)」
真野も慌てて背後に付こうとするが河西はすでにシュート態勢に入っていた。
そうはさせんと黒崎が飛びシュートコースを塞ぐ。
河西はこの瞬間を待っていた。
河西「(甘いですわね。本当の標的はあなたですわよイリーナ!!)」
河西はボールを思い切り黒崎の顔面目掛けて投げる。
黒崎「ぐわぁっ!?」
空中で身動きが取れない上に河西の右腕から繰り出される剛速球。
バン!!と激しくそして短い音が体育館中に響き渡る。
黒崎は顔を両手で覆いながら倒れ込み全員が総出で黒崎のもとへ駆け寄った。
全員「イリーナ!!イリーナ!!大丈夫!?」
黒崎はうずくまったまま何も答えない。
アスラ「やはり初見で避けるのは難しかったか。近距離ノックを黒崎は完全制覇できなかったし仕方がないと言えば仕方がないか」
森「なに呑気なこと言うとんねん!!」
風谷「当たり所が悪かったら下手したら失明になるかも知れねぇんだぞ!!」
アスラ「いや・・・目には当たっていない。失明の心配はないだろう。ともあれ今日は試合に出ることは出来そうにないな。中山、黒崎の代わりに入れ」
中山「わ、わかった」
黒崎「だ、大丈夫よ・・・私ならまだやれるわ」
黒崎が立ち上がる。
しかし黒崎の右目付近は真っ赤に腫れあがっていた。
アスラ「無理だ。そんな片目もロクに見えない状態のヤツに存在されても迷惑だ」
風谷「そ、存在って!?」
森「そんな言い方はないやろ!!」
アスラに言いよる2人を黒崎が制止した。
黒崎「そうね。今の私がいたところで優希の餌食になるだけだわ。でも・・・勝てるの?この中で優希の高さに対抗できるのは私だけよ?」
アスラ「その点は心配いらない。マリーとモニカがこっちに向かっている。第4クォーターには間に合うはずだ。お前たちが考えることはこの第3クォーターでどれだけリードを守れるか・・・またはどれだけ離されないかだ」
黒崎はふっと笑った。
黒崎「そういうことなら私は下がるわ。みんな、後は頼んだわよ」
全員「わかった」
風谷「けどその前に・・・」
風谷は審判のもとへ向かった。
風谷「審判!!あれはどう見てもファールだよな!!明らかに顔面を狙って投げてるんだから!!どう見ても退場だろ!!」
風谷の抗議に竹中は首を振った。
竹中「たしかに普通に見ればわざとやっている判定になるけど河西さんの場合は例外。黒崎さんは完全にシュートコースを塞いでいた位置にいたし、それに風谷さんも知っての通り河西さんのシュートは常にオーバースローで打っていた。この点を踏まえるとファウルを取ることはあっても退場にするのは難しいわね。それに・・・」
竹中はアスラをチラリと見る。
アスラ「その辺にしろ風谷。向こうがそう来ることは事前にわかっていたことだし、そのために特訓をやってきたんだ」
風谷「で、でもよ・・・」
アスラ「黒崎の仇を取るのでこの試合に意地でも勝て」
風谷「わ、わかった」
しぶしぶ納得した様子で風谷は引き下がる。
河西「意外ですわね、てっきりファウルくらいは取られるものと思っていましたけど向こうから容認してくださるなんて」
アスラ「ここまでお前のやりたいようにやらせているんだ。負けた時は言い訳などするなよ」
河西「負ける?ふふふ、イリーナがいないあなた達に何ができるというのかしらね?この第3クォーターで一気に逆転して差し上げますわ」
風谷「残り4分で18点差を逆転だと?」
河西「ふふふ、すぐにわかりますわ」
中山がドリブルで相手陣地に攻め込む。
その先のゴール下で河西がシュートを打ってくるのを今か今かと待っていた。
迂闊に中へ切れ込めないと判断し、パスを受けた森がスリーポイントラインからのシュートを打つ。
森「おっ!?これ入るんちゃうんか?」
弧を描いたようにボールはリングに吸い込まれる・・・はずが。
バシッ!!と手前で河西によって奪われてしまう。
森「高っ!?なんちゅうジャンプ力や!!ウチ結構高めに放ったんやで!!」
河西「ここから反撃開始ですわ」
河西はそう言って捕ってそのままジャンピングスロー。
ビュンッ!!と風の音が聞こえるボールはガゴンッ!!と激しい音を立てながら入った。
もはや漫画でも見られないような光景に全員が唖然として河西を見た。
河西「この第3クォーター、私はここからシュートを打ち続けますわ。止めたければどうぞお止めになっていただいて構いませんわ。私の高さに対抗できればの話ですけど」
誰も何も言い返せなかった。
シュートしたボールは捕られ、そのまま投げてゴールを奪われる。
こんな有り得ないことを何度も見せられ、短時間で一気に差を縮めてられてしまう。
こうなるともはやボールを回すだけの時間稼ぎをするしか対抗策はなかった。
結局18点もの差があった点差は一気に吹き飛び、試合は第3クォーター終了時点で61対64と3点のリードをされる形で終えることとなった。




