第66話 河西優希の実力
体育館の使用権争いから始まったバスケット勝負は今後の野球生活にまで及ぶ展開となった。
河西「試合は4クォーター制ですわ。1クォーター6分。クォーター間の休憩は2分。ハーフタイムは5分。タイムアウトの回数は2回。そして肝心の審判ですけど」
アスラ「それはこっちで用意してある。女子バスケットに興味があるヤツなら誰もが知ってるヤツを連れてきた。入ってこい」
アスラに呼ばれて竹中は、恐る恐るといった感じでやってくる。
相手のメンバーは全員驚いた顔を見せた。
歓喜の悲鳴をあげる者やサインをねだる者もいる。
この反応に竹中が、かなりのスタープレーヤーであることがわかる。
その中の1人が何かを思い出したようにアスラを見た。
選手1「もしかしてアスラって竹中選手がインタビューで言ってたあの洩矢アスラじゃねぇのか?」
竹中「あ!?いや、それは!?その話はちょっと待って!!」
竹中が顔を真っ赤にして慌てふためく。
森「なんや?インタビューで一体何を言うたん?」
竹中「そ、その話はもういいでしょう。とにかく私が審判をするからよろしくね。試合開始は今から5分後だから、その間各々作戦を立てるなりしてちょうだい」
河西「それから洩矢アスラ様、あなたの出場は禁止いたしますわ」
全員「えぇぇぇっ!?」
河西「あの竹中選手を鍛え上げた実績がある御方です。実力も相当あるのでしょう」
アスラ「わかった。オレはこの試合出場しないことにしない。それで文句ないな」
全員「えぇぇぇぇっ!?」
まさかのアスラの不出場に全員が不満爆発だったがアスラはどこ吹く風だ。
常盤孤児院ベンチでは河西を中心に円陣を組んで作戦を話し合っている。
一方でアスラは、特に何をするでもなくただ腕を組んでベンチに座っているだけだった。
風谷「いいのかよ。こんな試合受けちゃって・・・アタシたちは本格的にバスケ初めてまだ2日だぞ?しかも向こうは作戦立ててるっていうのにこっちは何もしないし」
アスラ「オレは最強のバスケット選手の育成はしたが、試合で指導をしたことはない。作戦など立てられるわけないだろ」
風谷「じゃなんで勝負を受けたんだよ!!」
アスラ「オレなしでも勝てると思ったからに決まってるだろ。とにかく、オレから言えるのは向こうを前半だけで追い詰めろ。向こうが手詰まりになったかどうかはヤツらの行動を見ればすぐにわかる。とにかく余力を残させないことだ。ちなみに森、お前は控えだ。理由は、お前が一番下手だったからだ」
森「そんなん言われなくてもわかるわ。せやけどホンマに勝てるんかいな?」
真野「もしかして不思議な力を使うとかですか?」
アスラ「使わん」
三崎「ますます勝つ未来が浮かばない」
黒崎「前半で追い詰めろか・・・とりあえず最初で相手の度肝を抜く必要がありそうね」
竹中「それじゃ試合を始めるわ」
ジャンプボールでいきなり黒崎対河西。
ひと際大きい2人とさらにそれを上回る審判。
周りは全員小人に見える。
審判が笛を吹きボールを上にあげ試合が開始。
黒崎、河西ともに高く飛び上がる。
この時、黒崎に相手は・・・いや体育館中がどよめく。
選手1「な、なんだ・・・なんだあの飛び方!?」
選手2「バスケットとバレーを間違えてんのか!?」
黒崎はバレーのスパイクを打つ体勢で飛び上がっていた。
中山「う、うそ・・・まさか」
黒崎の目がギラリと光る。
ボールをバレーのスパイクを打つごとく思い切り床面に叩きつける。
バスケットボールが破裂するかと思われるほどバァァァンッ!!と大きな音が体育館中に響く。
ボールは大きく跳ね上がる。
全員が落下地点までボールを追おうとするが途中で追うことを諦めた。
選手2「お、おい・・・嘘だろ」
選手3「お、おかしい・・・絶対におかしいって!!」
選手4「コイツ・・・本当に人間なのかよ」
風谷「いやいや、アイツが味方で本当によかったぜ」
中山「同感」
ボールはそのまま入ってゴール。
衝撃のプレーで先制点を奪った。
選手1「う、嘘だろ・・・有り得ねぇだろ。こんなのオレたちがどうこうできるレベルじゃないだろ」
選手2「いくら河西さんでもこんなバケモノを相手にするのは不可能だ」
選手3「アイツ・・・なんか薬でもやってんじゃないの。こんなの地球人のできる技じゃないわよ」
選手4「マジでこんなヤツがバレーで負けたのか?どんな手品使ったんだよ」
完全に戦意喪失している中、河西だけ笑みを浮かべる。
河西「落ち着きなさい。あんなことは何度もできるわけじゃございませんわ。あの硬いバスケットボールでスパイクを打ったら手が相当痛いはずですもの。できてもあと1~2回が限度ですわ」
黒崎「(まぁ普通に考えればわかることよね。あのプレーで戦意喪失させてこっちのペースに持ってこようと思ったけどそんなに甘くはないわね)」
河西の言葉に選手全員が納得した様子で戦意が戻る。
常盤孤児院側から試合はスタート。
河西はゆっくりとした足取りで敵陣に攻め込む。
その前に黒崎が立ちはだかる。
黒崎が河西をマンマークする形だ。
河西「先程はお見事でしたわ、イリーナ。バスケットであんなプレーを見せるのは間違いなくあなただけでしょうね。でも手の方は大丈夫かしら?」
黒崎「相手の心配をするなんて白々しいわね。さっさとかかって来たら?」
河西「ええ。言われなくても」
河西はひょいとオーバースローで高々とボールを放る。
黒崎「え?」
ハーフラインの位置からのロングパス。
ドリブルで仕掛けて来ると考えていたため完全に虚を突かれる形となった。
しかし・・・
ボールはそのまま、きれいにリングを通った。
黒崎「なっ!?」
森「なんやて!?」
河西「あらあら適当に放ったら入ってしまいましたわね」
含みのある笑顔でそう語る河西を見るに嘘だということがわかる。
風谷「や、野球投げでそのまま入んのかよ」
真野「しかもかなり上空へ向けて投げて入れるなんて」
三崎「この人も人間じゃない」
中山「嘘でしょ・・・こんなのどうしようもないじゃない」
黒崎「やってくれるわね・・・だけど」
今度は黒崎がドリブルで敵陣に向かい、河西が立ちはだかる。
河西「今度は何を見せてくれるのかしら?」
黒崎「特にないわ。ただ、あなたも知ってると思うけどバスケットは・・・1人でやるスポーツじゃないのよ!!」
黒崎の弾丸パスを真野が取ってそのままシュート。
パスのスピードもさることながらそれを簡単に受け止める真野にも相手チームは驚きを隠せない。
河西「イリーナだけのチームかと思いましたが、どうやらそうでもないみたいですわね。ではこちらもチームプレーで対抗いたしますわ」
ふふっと笑いながら自陣のゴール前でドリブルするが一向に前に進もうとしない河西。
黒崎「(攻めて来ない?どういうつもり?)」
他の選手が敵陣のゴール下まで向かったのを確認すると河西はニヤリと笑う。
河西「それでは、先程のお返しをいたしましょう」
ビュン!!と勢いよく投げたボールはゴール下まで一直線に向かう。
風谷「させるかよ」
風谷が手を出し、ボール奪取を試みるが威力に押されて弾かれてしまう。
弾かれたボールはちょうどいいコースで相手選手に渡り、そのままシュートを決められる。
手を抑えてうずくまる風谷に全員が駆け寄る。
風谷「て、手が痛ぇ・・・くそっ、何なんだよ今のパス」
中山「玲奈の手を弾くなんて・・・えげつないパス」
真野「かえって今のは手を出さない方がよかったかもしれませんね。あの威力だと他の選手だって取れないはずですから」
風谷「むしろ余計なことしちまったってわけか。これからは気を付けるようにしないとな」
アスラ「それはどうかな」
これまで沈黙を貫いていたアスラが口を開く。
アスラ「あのパスは、放っておいても相手の手に渡っていた。このまま何も手を打たないでいると点差は徐々に広がっていくな」
森「え?」
再び黒崎の弾丸パスが炸裂。
今度は中山がボールを受けてシュートを打つがこれは外れて相手ボールになる。
ボールは河西のもとへ。
先程と同様に自陣でボールを持ったまま動かず、他の選手が敵陣のゴール下まで着くのを待った。
三崎「な、なに・・・この人たち」
よく見ると、ゴール下で四方八方に走り回る相手チームの動きに、三崎は目を見開いた。
三崎「走る手が・・・変」
相手チームは全員、両手でボールを持つような形で固定したまま、目線もやや下で手を見ながら走っている感じだ。
森「な、なんやねん。アイツら」
アスラ「見ての通りだ。あの位置にボールが来るってことだろ」
河西の強烈なパスが先程と同じようにゴール下に向かって一直線に。
今度は誰も手を出さずパスを見送るとゴール手前でボールはバウンド。
バック回転が掛かっていてボールは走っている相手チームの両手の中に寸分違わず、すっぽりと収まる。
ボールを受けた選手はそのまま、シュート。
河西の異次元のコントロールにただただ唖然とするだけであった。
黒崎「くっ・・・」
河西「ふふふ・・・私のパスは邪魔されようがされまいが関係ありません。このままだと点差はどんどん広がっていきますわよ?」
黒崎「もはや何でもありね。それにしてもあのパスをどうにかしないと・・・」
その後、試合は進んだ。
アスラチーム個々の身体能力は常盤孤児院側よりも圧倒的に上回っているが、シュート精度に問題があった。
死の1on1で突破できなかったのもシュート精度が原因だった。
しかしアスラはシュート精度向上に時間をかけず、ひたすら死の1on1とバスケットボールを使った近距離ノックに時間を費やした。
一方の常盤孤児院側は、絶対と言っていいほどシュートを外さないため点差は徐々に広がっていく。
河西のパスも多彩で変化球を投じたり、バックボードの反射を利用したり、巧妙に相手の身体にぶつけたりした。
唯一のシュート精度が高い黒崎も河西の徹底したマークの前にドリブルして中へは切れ込めず、パスを受けることもできない。
そして第1クォーターが終了した時点で27対17と10点差を付けられていた。
アスラ「わかっていたことだがシュート精度の差が現れた結果になったな。まぁ特訓の目的は殺人バスケの対策だったわけだから当然と言えば当然か」
森「そない呑気なこと言ってる場合やないやろ!!負けたら野球できなくなるんやで!!」
中山「向こうは全然シュート外さない上にパスもピンポイント。これじゃ打つ手なしだよ」
三崎「パスの軌道を変えても何もせず見送ってもピンポイントじゃ・・・」
風谷「そもそもアスラ兄ちゃんがシュート練習に時間を割かなかったのも悪いし、4日なんて短い期間でやったのも問題だ」
アスラ「その辺は少々オレの考えが甘かったかもしれんな。相手の力量を見くびり過ぎていた。スポーツというのは身体能力だけがすべてではないということだな」
真野「しつこいようですけど負けたら私たち野球できなくなるんですよ?」
アスラ「慌てるな。パスに対する作戦はすでに考えてある。これで多少はマシになる」
全員「ま、マシになるって・・・」
第2クォーターが開始直後、森が中山と交代で入る。
河西「ふふふ、誰が入ろうと同じ事ですわ」
河西がボールを持ち、再び自陣で止まっていると森が河西の背後に回り込む。
河西「あらあら、これでは1人フリーになってしまいますわよ?」
森「けどウチが真後ろにいる限りロングパスは投げられへんで。投げようもんならウチがボールを弾いたるで!!」
河西「ふふふ、ダブルチームならともかくこんな前後挟み撃ちにされたら普通はどうすることもできませんわね。普通なら」
含みのある言い方をした後、河西はパスをもらいに近づいてきたフリーの選手にボールを渡す。
河西「とりあえず第2クォーターは味方を信じることにいたしますわ。ただ・・・」
河西はクルッと森の方へ向き、ニッコリと笑う。
河西「第2クォーターの点差次第では私も相応の手段を取らせていただきますわね」
その言葉に森の背筋は凍った。




