第64話 バスケットで命懸けの特訓!?
突然押し掛けてきた河西たちによって体育館を追い出されることとなった5人は、怒りながらアスラの待つ河川敷へと向かった。
河川敷には、アスラと黒崎がいた。
風谷「あれ?イリーナ、今日は病院じゃなかったのか?」
黒崎「ええ。ちょうど今終わったところよ。時間的に体育館よりこっちの方がいいと思ってね。それにちょっと急ぎの話もあったから」
森「なんや?急ぎの話って?」
黒崎「候補者を見つけたからちょっと見て欲しいって」
中山「え?見つけたの?」
黒崎「まぁね。あんまり期待はしないで欲しいけど・・・人間的に」
アスラ「オレに従順であればどんな性格であろうが問題ない。そうでなければソイツは却下だ」
黒崎「とにかくこれでマリーの配下の加入は認めてよね。ちゃんと候補は見つけたんだし、候補探しに手段は問わないって言ってたんだから」
アスラ「ソイツが候補になり得るとオレが認めたらな。しかし探して来いとしか言ってなかったのも事実。とりあえず、いいだろう。それでソイツはどこにいるんだ?」
黒崎は顔を曇らせる。
黒崎「それが・・・普段どこにいるかわからないのよね。たぶん体育館のバスケクラブを片っ端から潰してるって聞いたことあるけど」
5人は顔を見合わせた。
中山「イリーナの言う候補者って河西優希って子じゃない?お嬢様口調の」
黒崎「ええ、そうよ。よくわかったわね」
風谷「やっぱそうか・・・」
黒崎「その様子だと何かあったのね」
先程起きた出来事を黒崎に話す。
黒崎は半ば呆れ気味にうんうんと頷いた。
黒崎「優希とバスケットで勝負か・・・面倒なことになったわね」
森「イリーナがそこまで言うなんてあの河西って相当凄いんか?」
黒崎「優希は常盤孤児院で特殊訓練を受けた殺し屋という噂があるほど身体能力がずば抜けてスゴイの。実際に教師を何人か病院送りにしちゃってるしね。まぁ話で聞くより見た方が早いわ。バスケット対戦するなら嫌でもわかるわよ」
殺し屋という言葉に5人は息をのむ。
実際に河西と対峙したからこそ、その言葉は現実味を帯びていた。
アスラ「殺し屋とバスケットの勝負とはなかなか興味深いな。予定を変更する。この4日間は、バスケットの特訓に専念する」
アスラがバスケットを知っていることに全員が驚いた。
そして対決に向けた特訓・・・黒崎対策の特訓を思い出す。
とてつもなく嫌な予感がした。
アスラ「さて、とりあえず基本的なことから始めないといかんな。平凡な指導はオレじゃなく経験者に命じた方が早いだろう」
数秒してアスラが謎の女子高生と共に現れた。
現れた女子高生はこれまた大きい。
黒崎よりも一回りも二回りも大きかった。
全員が唖然としてその女子高生を見上げる。
女子高生はちょっと気恥ずかしそうに視線を逸らした。
アスラ「コイツがこれからお前らに基本的な技術を叩きこむ。コイツはバスケ界におけるオレの唯一無二の最高傑作だ。人間どもはコイツの事を神のドリブルを持つ者と言っている」
女子高生「さ、最高傑作なんてやめてよ・・・」
拒絶の言葉を言いつつ内心はとても嬉しそうだ。
女子高生はペコリと頭を下げて自己紹介をする。
女子高生「私は竹中あかり。ポジションは主にセンター。身長は203㎝で体重は・・・。とにかくアスラくんの命懸けの特訓を経て一応日本代表でバスケやってます」
命懸けの特訓という言葉に全員が固まる。
自分たちの将来の縮図。
それが今・・・目の前にいる。
竹中「それじゃあ、簡単にパスとドリブルにシュート。本当に基本的なことを教えるからまずは場所を移動しよっか」
景色がパッと変わり見知らぬ体育館へ移動する。
アスラ「そこで基本的なことを教えてもらえ。オレは特訓に必要な準備をしてくる。あの特訓は久しぶりだからな」
竹中「えぇっ!?あの特訓を!?」
竹中は青ざめた顔でアスラに迫った。
竹中「いくら何でもあれはダメよ!!この子たちを殺す気なの!?あれは私が最後にやった特訓じゃない!!」
アスラ「心配するな。難易度の調整はちゃんとやる。オレは理不尽な特訓はさせない。お前の時だってそうだっただろ?」
竹中「どうだろう・・・あれのために色んな特訓をして、さらにアスラくんの説明を聞いて何とか突破って感じだったし、初見であの特訓はやっぱり無理だと思う」
アスラ「だからその辺は調整すると言っているではないか」
しばらく竹中は考え込んだが最後はしぶしぶ納得する形となった。
竹中「わかったわ。いくら私が言ったって聞いてくれるわけもないし、私はアスラくんを信じるよ」
アスラが消えると竹中はクルッと笑顔で振り返る。
竹中「さ、さぁ!!かなり気になると思うけど、始めよっか!!まずはドリブルの練習ね!!ドリブルとシュートはバスケットじゃ重要だけどあの特訓では特に重要よ!!死にたくなければドリブルとシュートの練習は絶対に集中して望まなきゃダメよ!!」
どんな特訓をするのか聞きたいところだが、今はドリブルの練習に集中しようと全員が気を張る。
もともと運動神経がよかったのと授業でやった経験もあって基礎練習を淡々とこなす。
竹中も懇切丁寧に教えた甲斐もあってみるみる上達していく。
その上達の速さに竹中は驚いていたが、安心した様子は一切見られない。
この日は1日中、基礎練習と実戦練習をひたすら行った。
その中で1つ気になったのは実戦練習は、すべて1on1の練習ばかりで連携のパス練習は一切しなかったことだ。
※1on1攻撃側1人と守備側1人が直接対決するプレー状況を指す。
そして次の日、とうとうアスラがやって来た。
アスラ「どうだ?コイツらは?」
竹中「さすがアスラくんが選んだだけあってスゴい成長力だった。でも・・・それでもあの特訓を突破できるとは思えない。あの特訓の突破に必要なのは技術もそうだけど1番は精神力。この子たちはまだ幼過ぎるわ」
アスラ「精神力の強さに年齢は関係ない。それに昨日も言ったようにちゃんと調整してあるから大丈夫だ。さてそれでは山に戻るぞ。もう準備はできている」
竹中は振り返り、1人1人の手を握りしめる。
竹中「頑張ってね。私がこの短期間で教えらることはすべて教えたわ。成長が速いとはいえ、技術面ではまだまだ未熟な部分が多いし不安ではあるけど突破できるレベルではあると思う。後は自分との戦い精神力の勝負よ」
6人共緊張で震える中、真野がゆっくり手をあげる。
真野「あの・・・その特訓に名前とかあるんですか?」
竹中「そうね・・・私はあれを『死の1on1』と呼んでいたわ。でもあれがあったから今の神のドリブルがあると言っても過言じゃない」
死の1on1・・・全員が息をのみアスラと共に愛比売山へと戻る。
戻るとお手製のバスケットコートが現れた。
アスラ「竹中から聞いた通り、これからするのは死の1on1だ。誰が最初にこれを体験する?」
そんなことを言われて志願する者などいない。
見兼ねてアスラが竹中を召喚した。
アスラ「お前が手本を見せてやれ」
竹中「えぇっ!?いくらなんでも無理よ!?私だって100%突破できるわけじゃないのよ!!」
アスラ「この前の試合を見たが、今のお前ならできる。オレが言うんだから間違いない。さぁやるぞ」
竹中「わ、わかったわ」
アスラは竹中にバスケットボールを渡す。
アスラ「それじゃ、始めるか」
アスラが次元を切り裂き、手を入れる。
その空間から獣の唸る声が聞こえて来る。
全員の背筋が凍る。
現れたのは体長2mほどの大きなクマだ。
全員がぎゃぁぁぁぁと悲鳴をあげ後ずさる。
クマは悲鳴をあげた6人の方を向き大きく吠えて襲い掛かろうとする。
アスラがそれを寸前で止めながら、特訓の説明を始めた。
アスラ「これからコイツと1on1をやってもらう。このバスケットボールにはコイツの好きな果実や木の実を混ぜて作ってある。コイツからボールを死守しゴールを決めろ。ただし、シュートを打つのはコイツをドリブルでかわしてからだ。わかってると思うが、コイツはボールだけでなくお前らの身体めがけて襲ってくることもある。十分気を付けろ」
全員が思った。
この人、頭おかしい。
そしてこの特訓を突破した竹中もヤバい。
自分たちもいずれこのような特訓をやるのかと思うと気持ちが萎えてくる。
アスラ「それじゃ始めるぞ」
アスラが手を離すと一直線に6人の方へ襲い掛かって来るがバリアが張ってあり、それ以上は進めない。
それでも何度もバリアに向かって吠えながら突進するクマの迫力に6人は完全に気圧される。
唸り声をあげながらこの先は進めないと学習したクマは、少し辺りをウロウロした後、竹中の方へ向く。
竹中も緊張した面持ちでバスケットボールをつく。
クマも唸りながらボールをマジマジと見て一気に突進してくる。
6人は思わず両手で顔を隠す。
しかし、ボールがつく音は継続しており6人も竹中の様子を恐る恐る見る。
すると6人の目に映ったのは闘牛士のようにクマの突進を軽やかにかわす竹中の姿だった。
ドリブルしながら小刻みに身体を回転させてギリギリのところでクマの突進や引っ掻き攻撃をかわす。
この時点でもはや人間技ではないが一番驚いたのはクマが完全な死角から襲い掛かって来るのを見てもいないのに避けていたことだ。
後ろに目が付いているというのはまさにこのことだろう。
アスラ「全方位を見渡せるような視野の広さと相手にボールを・・・いや身体に触れることすらさせない技術。相手は竹中を捉えることができず、ファウルで止めることもできない。これが竹中が神のドリブルと言われた所以だ」
竹中はクマの一瞬のスキを突いてジャンプせず、高速のシュートを放つ。
放った位置はスリーポイントラインの外だ。
※距離にすると約7.24m
全員「あの距離をジャンプしないでそのままシュート!?」
アスラ「当然だ。ジャンプなんかしたらクマに突進された時、どうすることもできんだろ」
綺麗に弧を描いたボールはネットを通りゴール。
その瞬間クマはボールにかじり付き、むさぼるように食べた。
6人が竹中に称賛の拍手を送るがすぐにハッとなり現実に戻る。
これを今度は自分たちがやらなければならないと。




