第63話 危険な少女 河西優希
アスラに首を掴まれたまま持ち上げられる児童Aを助けるようとはせず、外に出ようと悪あがきする他の児童たち。
中には児童Aを犠牲にして自分だけが助かろうとアスラに助けを懇願する者もいた。
いざという時に人間性が出るものだが今がまさにそうだった。
しかしどんな懇願もアスラは聞き入れることはしない。
アスラ「お前らへの報いだが、少し痛い目を見せただけでは意味がないことがよくわかった。そこでオレはいいことを思いついたのだ。今後、二度とオレの配下に手出しできないようにする素晴らしい方法をな」
児童A「た、頼む・・・何でもする。もう二度とアンタの配下に手を出さないと誓う。いや、配下だけじゃない。オレは心を入れ替えて誰もこの先傷つけたりしないと誓う」
アスラ「お前の誓いなど必要ない。誓わずともお前たちは永遠に人を傷つけることはできない。むしろお前たちが傷つく側になる」
児童A「い、一体何を・・・」
アスラ「すぐにわかるさ」
アスラの指先に力が入る。
児童A「が、がががが」
児童Aは身体をピクピク痙攣させ始める。
気を失うか失わないかの瀬戸際でパッと手を離した。
アスラ「さて次は誰にするかな」
見た感じ児童Aに大した変化はない。
だが・・・
児童A「あ・・・ああ・・・あぁぁぁぁ・・・」
身体を震わせ、涙を流す児童Aに他の児童たちは顔を見合わす。
児童A「み、見えない・・・何も見えない・・・目が見えない!!」
その一言で児童たちの背筋が凍る。
児童B「お、お前・・・い、一体何しやがったんだ」
アスラ「さぁな。見た通りだろ」
児童A「だ、誰か・・・誰か助けてくれ!!オレの目がぁぁぁ!!」
児童E「ど、どうなってんだよ・・・ただ首を強く締め上げただけだよな」
児童F「な、なんで目が見えなくなんだよ」
アスラ「これでオレの配下はもちろん。他の誰かを傷つける心配もない。さて次は誰にするかな」
児童B「お、おい・・・冗談だろ。勘弁してくれよ。もう十分懲りたよ。だからもう辞めてくれ」
アスラ「辞めるわけ無いだろ。お前らだってさっきそう言って辞めなかったんだから。オレはちゃんと見てたぞ?」
児童B「ひ、ひぃぃぃ」
アスラは児童Bの首を掴む。
児童B「そ、そんな・・・い、イヤだ!!辞めてくれぇぇぇ!!」
アスラ「断る」
児童Aと同様、児童Bも目を抑えながらふらふらと辺りをウロウロと彷徨う。
その様子をアスラは笑いながら眺めていた。
児童たち「ひ、ひぃぃぃ!!だ、誰か!!」
アスラ「助けなんか来るわけ無いだろ。むしろこの光景に喜んでいるヤツの方が多いはずだ。今まで自分がやってきたことを振り返りながらせいぜい逃げ回るんだな」
アスラは1人、また1人と児童たちの視力を奪っていく。
アスラの行為を制止する者は誰もおらず、児童たちがやられていく様をただ黙って見ているだけだった。
アスラ「これで全員片付いたな。おい、お前らも行くぞ」
3人はコクリと頷き、会計を済ませて店を出た。
アスラ「オレはこのまま山に戻る。今日はバレーの日だ。ちゃんと体育館に行けよ」
風谷「あ、アスラ兄ちゃん!!」
アスラ「なんだ?」
風谷「えっと・・・その・・・」
気恥ずかしそうに風谷が口を開く。
風谷「あ、あのさ・・・さっきのことなんだけど・・・視力を奪うのはやり過ぎだと思うけどさ・・・あ、ありがとな。アタシたちのために」
アスラ「それは、お前たちは配下だからな。仇ぐらいは取るだろ」
風谷は頬を赤らめて視線を逸らした。
中山「でもどうしてすぐ助けてくれなかったの?玲奈が殴られてる時に来てくれればもっとよかったのに」
森「それはそうやな。なんでや?ウチらの防御力の特訓でも兼ねてたんか?」
アスラ「違うな。あの時は元を取ることが優先だったから助けなかっただけだ」
風谷・森・中山「は?」
中山「つまり私たちのことより食べ放題で元を取ることを優先したってこと?」
アスラ「当たり前だ。誰がどう考えたって自分の用事を優先するに決まってるだろ。前にも言ったと思うがオレは常に自分が優先だ。他人のことなど二の次だ」
当然のことのように言う自己中心主義にもはや中山と森は笑うだけだった。
風谷「せっかくアスラ兄ちゃんのことを見直したと思ったのにアタシの感動を返せ!!」
アスラ「感動?なんだそれは?そんなものお前から奪った覚えはないぞ?」
風谷は、その一言でガクッとなった。
風谷「・・・もういいよ。なんか怒りを通り越してアタシも笑うしかなくなった」
中山「感動を知らないのに怒りとかは知ってる・・・アスラ兄ちゃんってどこまで言葉を理解してるのかわかんなくなるよね」
良くも悪くも洩矢アスラはこういう人物だと3人は改めて思った。
その頃、食べ放題店では客や従業員がアスラたちの今後を心配していた。
従業員A「あの子たち、大丈夫かな?この子たち常盤孤児院のとこの子だろ?」
従業員B「あそこに喧嘩売って五体満足で帰って来た人はいないって話だ」
客A「なにせ常盤孤児院の後ろには矢場コンサルタントと市議会議員も付いてるからな」
客B「警察に相談しても相手にしてもらえないだろうし、たぶん終わったな」
従業員と客が言っている常盤孤児院は、この町では知らない人はいないほど有名で絶対的な権力を持っている。
その理由は矢場井出兄弟の存在が大きい。
長男の真司は今治市の市議会議員を務めており、次男の奔真が矢場コンサルタントの社長を務めていた。
表向きは日本中の子供を集めて保護している善良な議員と会社を装っているが、実際は、孤児院の子供を使って人身売買を行っているのが実情だ。
優秀な人材は国の中枢を担うであろう人材に育て上げ、容姿が良い者はホストやホステス。
特に秀でた能力がない者は人手不足の職種に強制的に就かせたり、ヤクザの組員にさせられたりして国や企業、組から多額の利益を得ていた。
そのため、孤児院の子供たちは矢場井出兄弟にとっては大事な商品。
それを盾に子供たちがやりたい放題やっているのが現状だ。
そして何より厄介なのが孤児院の子供たちの結束力の固さだ。
1人の孤児院の仲間がやられれば、やった相手を調べ上げて倍にして返す。
しかもそれを取り締まるはずの警察官も軽く注意するだけでまるで機能しない。
だから常盤孤児院の横暴は見て見ぬふりをするのが、この町の暗黙のルールになっていた。
常盤孤児院の情報網も速く、食べ放題で起きたことは、すでに知れ渡っていた。
【常盤孤児院】
児童I「みんな失明になって病院送りになったみたいだけど外傷はなかったみたいだし、一体どうやったってんだ?」
児童J「さすがに今度の相手はヤバいんじゃないか?オレたちも同じ目に遭わされるかもしれないぞ。目撃者の話じゃ首を掴んで持ち上げただけで目には一切触れてなかったって言うし」
児童K「な、なに弱気なこと言ってんだ。ここでビビッたら町じゅうの奴らに舐められるじゃねぇか。やられたら相手が誰であろうと倍にして返すんだ」
??「その通りですわ。こちらは視力を奪われたのです。ならば視力と聴力の両方頂くのが筋というものですわ」
【今治体育館】
風谷「今日はバレーの日だけど・・・イリーナとコーチの姿が見えないけど親子揃って休みか?」
真野「イリーナとコーチは腰の検査をするために病院に行くそうです。リハビリもあるので来れるかどうかわからないと言っていました」
中山「まぁ野球対決で痛めた腰に無理をかけてたし、何ともなければいいんだけど」
森「とりあえず、ウチらだけでバレーの練習するしかないやろ」
方針が決まったところで早速練習に励もうとしたその時、体育館のドアが開いた。
黒崎親子が来るには早過ぎるのではと首を傾げると現れたのは見知らぬ集団だった。
顔つきからしてとても友好的とは思えない。
明らかに喧嘩を吹っ掛けに来た感じだ。
その集団の中に頭2つほど飛び抜けている銀髪の少女がいた。
長い銀髪の髪に赤い目の美少女。
どこからどう見ても日本人ではない。
風谷「(で、でけぇ・・・)」
中山「(イリーナと同じくらいある・・・)」
真野「(でも何か・・・怖い)」
三崎「(この人からかなりの殺気を感じる・・・かなり危ないかも・・・)」
全員が突如現れた少女に警戒しているとその少女は薄っすらと薄気味悪い笑みを浮かべる。
少女「あらあら、この広い体育館をたった5人で独占?ずいぶんと良い御身分ですわね」
森「な、何か文句あるんか。こっちはちゃんと許可取ってるんやで」
少女「いえいえ、文句なんてとんでもない。ただ・・・私たちも今日ここを使う許可を取ってますの」
森「な、なんやて!?」
真野「それは何かの間違いですよ。今日は私たちが貸し切りにしてるはずです。コーチがそう言ってましたもの」
少女「でも私たちは、市長から直々に許可を頂いていますの。優劣は言うまでもないでしょう?」
風谷「てめぇ、一体何者だ。市長から許可を貰うなんて出来ることじゃねぇぞ」
少女「申し遅れました。私、常盤孤児院の河西優希といいます。以後お見知りおきを」
風谷「か、河西優希って・・・完全に日本名じゃん。親ももうちょっと考えたらよかったのにな」
河西「私もそう思いました。親のことは、お話でしか聞いたことはありませんが、2人共日本人ではなかったそうです」
森「じゃあ何でそんな名前になんねん!!」
河西「まぁ私にも色々あったということです。この生まれてから今日までの9年間は本当に色々ありましたから」
中山「きゅ、9年って・・・」
森「嘘やろ・・・」
風谷「アタシたちより1個下なのかよ」
真野「とても私と同じ小学4年生には見えません」
三崎「イリーナ、マリー、モニカ・・・海外の人って顔の成長が早いのかしら?」
河西「まぁ、それはともかく一つ私たちと勝負いたしませんか?」
中山「勝負?」
河西「はい。負けた方は1ヶ月ここの体育館の使用を勝った方に譲るということで」
全員「い、1ヶ月も!?」
風谷「勝負って・・・バレーボールか?」
河西「いいえ」
河西がふふっと意味深な笑みを浮かべ5人をゆっくりと見渡す。
河西「殺し合い」
殺気に満ちた目でそう言う河西に5人は金縛りにあったかのように動けない。
河西「と言いたいところですけど、それでは私の圧倒的有利で面白くありませんわ。ですのでバスケットで勝負というのはどうでしょう?」
全員「ば、バスケット!?」
河西「はい。一度は、おやりになったことがあるでしょ?」
森「そりゃ、そうやけど・・・」
河西「それではそれで決まりですわ。言っておきますけど他の提案は却下いたします。だって譲歩しているのは私たちの方ですもの」
風谷「くそ~・・・こんなヤツらに許可証を渡すなんて市長のヤツ何考えてやがんだ」
バスケットの勝負を受けるべきかどうか悩んでいると意外にも三崎が声をあげる。
三崎「今日は私たち・・・もう帰る。ここはあなたたちが好きに使ってちょうだい」
風谷「ちょっ!?」
森「なんでや!!」
三崎「帰りましょ」
風谷「で、でもよ・・・」
真野「私も成美先輩に賛成です。こっちの戦力が十分でない状態で戦うのは危険です」
風谷「仕方ない」
しぶしぶ納得した形で体育館を後にする5人。
ただその中で真野だけがピタリと足を止め、振り返った。
真野「今回は帰りますけど、私たちは逃げたわけじゃありません。必ずあなた達にバスケットの勝負を挑んで勝ちます」
河西「あらあら威勢がいいわね。それを完膚なきまで叩き潰す・・・興奮しますわね」
風谷「そのふざけたお嬢様口調もアスラ兄ちゃんの手にかかれば一瞬で吹き飛ぶだろうぜ」
河西「アスラ?聞かない名前ですわね。まぁそんな方がいらっしゃっても結果は変らないということを教えて差し上げますわ」
しばらく睨み合った後、5人は愛比売山へ向かった。
絶対に勝つ。
5人は心の中でそう誓った。




