第62話 食べ放題での騒動
あの隕石の出来事から一夜明けた。
8人の体の痛みは嘘のように消えており、マリーとモニカはアスラに会うため朝早く愛比売寺を訪れていた。
しかし、いざアスラと対峙すると気まずい顔をしながらマリーは視線を逸らし何も言えない。
見かねて横にいたモニカが先に口を開いた。
モニカ「昨日の隕石撃破にノック、モンスターとの攻防・・・本当にファンタスティックデ~ス。私たちも最強の野球選手を目指してマ~ス。あなたのもとでなら最強の野球選手になれると確信しまシタ。ぜひ私たちも参加させてくだサ~イ」
マリー「その・・・この前のことは謝るわ。最初、アンタが最強の野球選手を目指すって言った時、ふざけてんの?って思った。そんなのできるはずない。夢物語だって。それに従っている他の連中もバカみたいに思えた。でもアンタ達と試合をやって、そして昨日の出来事でアンタの見る目が変わった。アンタの指導を受ければ間違いなく最強の野球選手になれるって思った」
マリーとモニカはアスラに頭を下げる。
マリー「お願い!!アタシも最強の野球選手になりたいの!!最強の野球選手になって女性初のMLB選手になりたいの!!それがアタシの夢なのよ!!」
モニカ「私もデ~ス!!」
アスラはゆっくりとマリーとモニカを見る。
アスラ「遊びとはいえ、あれだけボコボコにやられてオレの特訓を受けたいと思えるところを見ると覚悟は本物のようだな。だが・・・」
アスラはマリーを指差す。
アスラ「お前を配下にするは1つ条件がある」
マリー「な、なんでアタシだけ!!」
アスラ「このオレに対して、ずいぶんな態度を取っていたからな。昨日のノックで、ある程度気分が晴れたとはいえまだ完全に気が晴れたわけではない」
マリーはグッと怒りを抑える。
マリー「そ、それで・・・何よ。その条件って」
アスラ「必要な配下は、あと1人。その1人を3日以内に探して来るのだ。手段は問わない。だが小学4年か5年で身体能力はオレが認めるレベルの者に限る」
マリー「はぁぁぁぁぁぁ!?何よそれ!!」
アスラ「別にやりたくないならやらなくてもいい。お前の自由だ」
マリー「ぐっ!!」
アスラ「それでは3日後を楽しみにしているぞ」
アスラは森の奥へと入っていき、マリーとモニカはポツンと取り残される。
モニカ「い、一体どうすれば・・・こうなったら『サラ』に入ってもらうしか・・・」
マリー「ダメ!!絶対にそれはダメよ!!アイツに入ってもらったら特訓を受ける意味がないわ!!MLB選手になる前にサラ達を叩き潰すのがアタシたちの目的でしょ!!」
マリーの鬼気迫る表情にモニカはグッと息をのむ。
緊張感漂う中、後ろから誰かがやってくる。
クルッと振り返ると居たのは黒崎だった。
黒崎「あら意外ね。あなた達も最強の野球選手を目指す気になったの?」
モニカ「そ、それが・・・」
モニカは先程のことを黒崎に話した。
黒崎は、しばらく考え込み顔を曇らせた。
黒崎「実はね・・・私には1人、心当たりがあるの」
モニカ「ほ、本当デスカ!?」
黒崎「だけどハッキリ言って私はおすすめできない。できればメンバーには入れたくない。だから、彼女を推薦するのはあくまで最終手段として考えておきたいの」
黒崎の表情を見る限り、人間性にかなりの難がある人物であるようだ。
黒崎「私は別の候補を探しておくわ。昨日の借りもあるし、出来る限り協力するわ」
モニカ「センキュー!!」
マリー「い、一応礼は言っておいてあげるわ。借りを返してもらってるだけだけどね」
マリーとモニカは転校の手続と選手探しのため一旦アメリカに帰った。
黒崎から事情を聞いた他のメンバーも限られた時間の中で探し回る。
しかし、そんな簡単に逸材が見つからず2日目が経過。
風谷、森、中山の3人は隣町にある食べ放題で今後のことを話し合っていた。
中山「明日でタイムリミットか」
風谷「だいたい、3日で何ができるっていうんだよ。そんな短期間で人が集められれば今頃9人揃ってるっての」
森「頼みの綱はアメリカにいるマリー達やな。アメリカならたくさん野球やってる子も多いはずや」
中山「でも野球の為だけにわざわざアメリカから日本へ来る人なんか絶対いないでしょ」
風谷「そこなんだよな」
森「まぁ、何とかなるやろ。食べる時ぐらいは明るい顔して食べんとマズくなるで」
風谷「楽観的だな」
各々好きな物を取ろうと席を立つ。
すると何やら人だかりができていることに気付いた。
中山は関わらない方がいいと言ったが、風谷と森はその人だかりの方へ向かった。
人だかりの中心には大泣きしている5歳くらいの子供とその母親が小学校高学年くらいの男子児童の集団に絡まれているようだった。
集団の人数はざっと10人。
周りの人たちはその様子を気の毒そうに見ているだけでその児童たちを止める様子はなくそれどころか店員まで黙って見ている。
警察に電話しようとする人たちを制止する姿もある。
その異様な光景に風谷と森は顔を見合わせた。
児童の1人が母親の足を蹴る。
母親は苦痛の表情を浮かべながら床に倒れ込んだ。
母親「す、すみません。後ろに並んでいたのがあなたたちだって知らなくて・・・もう勘弁してください。子供もいるんです」
児童A「だったら早く土下座して謝れよ。気づかなくてすいませんでしたってな」
児童B「ひでぇよな。オレたちの目の前でアイスを空にしちまうんだもの。そこは譲って次が来るのを待つのが常識だろうがよ」
風谷「なんだそりゃ?アイツら一体何様なんだ?」
森「どっかの金持ちってわけやなさそうやし、何者なんや?」
母親は、ゆっくりと土下座の態勢を取る。
悔しさと屈辱のためか体は小刻みに震えている。
その姿をあざ笑う男子児童たち。
児童たちもそうだが何もしない周りの大人たちの対応に風谷と森は我慢の限界に達する。
風谷「おい!!」
風谷の声に男子児童たちがギロリと視線を向ける。
風谷「いくらなんでも言いがかりもいいところだろ!!後ろにいるお前らの方こそ次が来るのを待つんじゃないのかよ!!」
児童A「は?誰お前?オレたちとやろうっての?」
風谷「ああ。やってやるよ。こっちは毎日山登りで身体を鍛えてるんだ。お前らみたいなヤツに負けるかよ」
その直後、他の仲間が風谷を後ろから羽交い絞めにする。
風谷「お、おいちょっと待て!!1対1で勝負しやがれ!!て、てめぇら、卑怯だぞ!!」
児童A「なんとでも言えよ。下手な正義感が仇となったな」
風谷を助けようと森も参戦するが、同じように捉えられてしまう。
助けを呼ぼうと中山は電話を取り出すが動揺していてボタンが上手く押せない。
風谷をサンドバックのように交代で殴っていく男子児童たち。
その1人が集団から抜け寿司のコーナーへと向かった。
他のメンバーの分もなのか大量に寿司を皿に乗せていく。
その時、背後にいた人物がその皿を強引に奪う。
児童C「何すんだよ!!いきなり!!」
??「それはオレが今、食べようと思っていたものだ。お前はオレの後にしろ」
児童C「はぁ?寝ぼけてんのかてめぇ。寝言は寝て言えって・・・」
言い終わる前に児童は蹴り飛ばされ、壁に突き刺さったままピクリとも動かない。
有り得ない光景に店中の視線が蹴り飛ばした人物に注がれた。
??「食べ放題は時間との勝負。限られた時間でいかに元を取るかだ。オレの邪魔をする者は誰であろうと許さん」
聞き覚えがある声に風谷、森、中山がハッとする。
??「何だこの人間どもは・・・道を開けろ。次は牛肉だ」
ざわつく人混みをかき分けて現れたのは、頭、手、肩、腕に皿を乗せたアスラだった。
えぇぇぇぇと3人は声を上げて驚いた。
皿は時間だけが止まったかのようにピクリとも動かず、アスラの身体に吸い付いているかのようだ。
風谷「なんだそりゃ!!有り得ないだろ!!」
森「そんな状態で、どうやって吹き飛ばしたんや!!」
中山「というか何でこんなところにいるの!?」
アスラは3人には目もくれず、牛肉のローストビーフを皿に盛りつける。
風谷「え?」
森「アスラ兄ちゃんウチらの声聞こえへんのか!!」
中山「ちょっと助けてよ!!」
アスラは持参した計量器でローストビーフを計っていることに集中しているのか無反応だ。
森「ちょっ!?何で計量器で計ってんねん!!」
風谷「そんなの使ってんの食べ放題で見たことないぞ!!」
児童A「なんだあの野郎・・・この状況でローストビーフなんか盛り付けやがって」
森「いや、それ以外にツッコむとこあるやろ」
児童D「てめぇ、オレの仲間にあんなことしてただ済むと・・・」
アスラの肩を掴もうとした瞬間、児童Dの身体は浮き上がり天井に突き刺さる。
児童A「あ・・・・あぁ・・・」
児童B「な、何なんだよコイツ・・・バケモノかよ」
アスラ「よし重さは完璧だ。次だ」
何事も無かったかのように次へと向かうアスラに男子児童たちは後ずさりする。
児童E「アイツ・・・絶対おかしいぞ。ひとまず帰った方がよくないか?」
児童F「ああ。関わらない方が身のためだ」
あまりに現実離れした事態に男子児童たちは店の外へ出る。
ところが、店の外に出たはずの男子児童たちが店の中へ戻ってきた。
児童G「え?」
児童H「ちょ、ちょっと待てよ・・・オレたち外に出たよな?何でまた店の中に戻るんだよ」
周りからは児童たちが引き返してきたようにしか見えず、外に出てはまた店の中に入っていくの繰り返し。
児童I「お、おい・・・何なんだよこれ!!いつまで経っても出られねぇじゃねぇか!!」
児童J「嘘だろ!!オレたち閉じ込められちまったってのか!?」
児童A「どけ!!こうなったら窓を壊して外に出る!!」
椅子を持ち上げ、窓に向かって思い切り振り下ろす。
窓はガシャンと音を立て割れる。
児童A「ドアから出られねぇなら別の場所から出ればいいだけよ」
だが窓から出ても結局同じだった。
この状況に男子児童たちは恐怖と絶望で声を荒げる。
児童A「な、何がどうなってんだよ!!どうすりゃいいんだよ!!呪いか!?呪いなのか!?」
児童B「たぶん呪いじゃねぇ・・・考えられるとすれば」
そう言ってチラリとアスラを見る。
児童A「くそ、あの野郎の仕業か」
寿司を頬張るアスラを児童全員で囲む。
しかし天井と壁に突き刺さった仲間のこともあって誰もアスラに触れようとする者はいない。
児童A「お、おい・・・お前がオレたちをここに閉じ込めたんだろ?何が望みなんだ。どうすれば外に出られる」
先程のような威勢の良さはなく、弱々しく怯えた様子でアスラに話しかける。
アスラ「オレがやったと思うなら黙って座ってろ。オレは元を取るのに忙しいんだ。邪魔すればどうなるかは言うまでもあるまい」
ギラリとアスラの目が光る。
男子児童たちは、ビクッと身体を震わせトボトボと自分たちの席に座る。
待ってる間、誰も喋らず黙ってアスラが食べ終わるのを待っていた。
間違いなく無事では返してもらえない。
それを想像して涙を流す者もいた。
風谷、森、中山の3人もアスラに話しかけることはせず、黙って時が来るのを待った。
そして・・・1時間が経過し、どこからかアラームが鳴る。
アスラ「よし、目標は無事達成した」
男子児童たちは、ギョッとした目でアスラの方を見る。
誰もアスラの方には向かおうとはしない。
むしろアスラの方が男子児童の方へとやってきた。
アスラ「さて、今度はこっちの用事を済ませんとな」
そう言うと、突然アスラは児童Aの首を掴んでそのまま持ち上げる。
児童たちはヒッと声をあげ、アスラから距離を取る。
アスラ「確か風谷を一番殴ってたのはお前だったな」
アスラの指の力がどんどん強くなる。
児童A「た、た、助け・・・」
アスラ「助けるわけ無いだろ。オレの配下に手を出したんだ。相応の報いを受けてもらう」
風谷「アスラ兄ちゃん・・・」
森「やっぱりウチらのことちゃんと見てたんや」
中山「見捨てられた時は、どうなるかと思ったけど、やっぱりアスラ兄ちゃんはアスラ兄ちゃんだ」
アスラの男子児童たちへの報復宣言に風谷、森、中山の表情は明るくなった。




