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第9話 VSオーク その二

 気付いた時には、ニーナは地面に叩きつけられていた。

 まるで蚊を潰すかのように、オークは左手でニーナの体を強く叩いたのだ。


 一瞬、呼吸が止まる。

 全身の骨が軋む。

 そして激痛が走る。


 「っぐ、くそ、ああ……」


 オークは左手に体重をかけて、ニーナを押しつぶそうとする。

 肺が外側から押され、上手く呼吸ができない。


 酸素不足でニーナの動きが弱まると、オークはニーナの体を離した。

 ニーナは四つん這いでその場から逃げ出そうとするが……

 毒が回ってきたせいで、上手く力が入らない。


 「うぐっ」


 再びニーナは体を押さえつけられた。

 オークが足でニーナを踏みつけたのだ。


 グリグリと、オークはまるでニーナを足ふきマットか何かのように扱う。

 苦しさと痛みと吐き気、そして毒による興奮でニーナは自分の頭がおかしくなっていくのを感じた。


 そして……

 

 「な、何を……や、やめろ、や、やめて、お願い!!」


 オークがニーナの右手を掴んだ。

 何をしようとしているのか察し、ニーナは顔を青くさせた。


 ミシミシと、ニーナの右手が軋む。


 「がぁああああああ!!」


 ニーナの右手が曲がった。

 そしてだらりと、力なく地面に垂れ落ちる。


 「……」


 ニーナの目から生気が消えた。

 何もかも諦めてしまったような、そんな表情を浮かべている。


 オークは自分の勝利を確信した。

 そして左手でニーナを掴み、ひっくり返した。


 「■■■■■■!!!」


 血走った目でオークはニーナの体を見る。

 オークに比べてニーナは随分と小柄だが、そんなことはオークには関係ない。


 オークは滝のように唾液を分泌させ、ニーナの体に振りかける。

 ニーナは抵抗する様子を見せない。


 大人しくなった獲物に気を良くしたオークはニーナの体に覆い被さり……

 

 「■■■■■■!!!」


 絶叫を上げた。

 そして泡を吹いて倒れ込んだ。


 「知ってるか、豚野郎。最初に勝ったと思った方が、負けるんだよ」


 ニーナは笑みを浮かべた。

 そう……すべてはオークを油断させるための演技だ。

 

 オークの最大の弱点、睾丸を蹴り上げるチャンスをずっと狙っていたのである。

 魔力操作で威力を最大限にまで上げた蹴りは、睾丸を潰すに足るだけの威力がある。


 「去勢してやるよ!!!」


 ニーナは腰から短剣を抜き、両手でオークの股間に突き刺した。

 興奮で血流が集まっていたオークの男性器を切断する。


 どくどくと血が溢れ、血溜まりができた。 

 オークは体をビクビクと痙攣させ……やがて動かなくなった。


 そしてニーナは地面にへたり込んだ。

 もう、体が動かない。


 「おおおお!!! 奇跡の、奇跡の大逆転だ!! さすが、我らのニーナ!! 私はニーナちゃんなら勝ってくれると信じていましたよ!!! さあ、皆さんも見事な逆転劇を見せてくれたニーナちゃんに拍手!!」


 割れんばかりの歓声と拍手。

 それは悪くないものだった。


 (……そう言えば意識保ったまま勝つのは初めてだな)








 三連勝により、ニーナは晴れて五等奴隷(家畜未満)から四等奴隷(家畜相当)に出世した。

 さて、五等と四等の違いは焼き印があるかないかである。


 ニーナはてっきり、魔法か何かで焼き印を消してくれるのかと思っていた。

 だが……


 「ざつぅー、雑過ぎぃー、乙女の背中、なんだと思ってるのー」


 ベッドの上でうつ伏せになりながら、ニーナは呻いた。

 背中には包帯が巻かれている。


 なんと、新たに上から焼き印を施されたのだ。

 上からバッテンを入れるという、驚くほどの雑な処置。


 聞けば、五等奴隷は殆どの場合は四等奴隷になる前に死ぬので基本的に焼き印を消すことは想定していないらしい。

 想定していないのであれば仕方がない。

 許してやろう。

 

 「絶対に許さない……どんだけ痛いと思ってるのぉー」


 なんて、許せるはずもない。

 まあ許さないからと言って、五等奴隷が何かできるのかと言えば、そんなことはないのだが。


 「それはすまないね、 N-2344」

 「っつ、こ、これはオーナーさん!」


 ニーナは慌てて起き上がろうとするが、オーナーに手で制された。


 「いや、起き上がらなくていい。その怪我では辛いだろう。 N-2344」

 「……ご配慮、ありがとうございます」


 右腕の骨折と背中の火傷。

 ある程度治るまでは動きたくないというのが、ニーナの気持ちだ。


 「次の試合は一か月後ほどになるだろう。それまで傷を癒すと良い」

 「……分かりました」


 一応魔法薬が使われるので、骨折そのものは一週間で治る。

 それなのに試合までの期間が長いのは、一種の褒美のようなものだ。


 骨折を理由に、休暇を与えられたと考えて良い。

 無論、休暇中は労働は免除となる。


 「この後、三勝すれば君は三等奴隷になれる。頑張り給え」

 「……はい」

 「それと……君は晴れて四等奴隷となったことで、日用品や消耗品を受け取ることができるようになった」


 奴隷は等級によって、その自由の制限が異なる。

 

 五等奴隷は財産・移動の自由がすべて禁じられ、所有者に何をされても逆らえない。


 四等奴隷は財産・移動の自由は禁じられているが、日用品や消耗品に限っては贈与されたものを受け取ることができる。所有者は理不尽な理由での殺処分のみが禁じられる。


 三等奴隷は移動の自由が認められる。また所有者は理不尽な理由での私刑が禁じられる。


 二等奴隷は土地財産を除く財産と移動の自由が認められる。また理不尽な扱いを受けた時に所有者を訴えることができるようになる。


 一等奴隷は土地財産の自由も認められる。また所有者から自分自身を買い上げることができるようになる。



 という具合である。


 「君のファンからすでにお見舞いの品が届いている。あとで受け取りに行き給え」

 「……ファン?」

 

 ニーナは首を傾げた。

 自分にファンができるなど、想像できない。


 オーナーはそんなニーナの様子を見て静かに笑みを浮かべ、踵を返した。


 「では、次の戦い(ファイト)が良いものであることを期待しておこう」


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