第10話 性の目覚め
「違和感がある……」
それが初めて下着を着たニーナの感想だった。
下着というのは都市部でしか出回っていなく、郊外にあった孤児院では予算不足ということもあり、下着は存在しなかった。
まあ下着など着なくても、見かけ上は問題がなかったのでさほど困らなかったが。
奴隷となった後も、下着など貰えなかった。
奴隷服は丈が短いということと、ノースリーブな上に腋がブカブカということもあり、中身がモロに見えていて、最初は恥ずかしかったが……数週間で慣れた。
そういうわけでニーナは下着などいらないと思っていたのだが……
ファンから貰ったものは着ないと勿体ない。
そういうわけで、小さな布切れを股間に、胸帯を身に着けてみたのだが……
その感想がこれだ。
「うーん、下は脱ぐか」
結局、ニーナは胸帯だけは身に着けて下は身に着けないことにした。
胸帯をつけるのは、最近ニーナの胸が膨らみかけてきたからである。
あの食事内容で、どこから胸に行くような余分な脂肪を捻出しているのだろうかと、ニーナは自分の体の収支内容が気になったが、とにかく膨らんでいるのは事実だ。
前世知識によると、胸にはクーパー靭帯ならぬものがあるらしい。
ちゃんと胸を支える下着をつけていないと、垂れるとか。
それはちょっと嫌だ。
だから違和感はあるが、仕方がないので身に着ける。
下は身に着けない。
違和感があるというのもあるが……これまた前世知識ではあるが雑菌が繁殖しやすいらしい。
女性用の下着は通気性が悪く、女性器も男性器に比べて汚れが溜まりやすいとか。
■■■■さんの暮らしていた日■という国よりも、ニーナが暮らしている国の方が衛生環境が悪い。
ただでさえ汚い中で、より汚くなる必要はない。
などと理屈を捏ねてみたが、結局は「なんか違う」感じがするというのが本音である。
「別に私は変態じゃない。合理的な理由で身に着けていないだけ」
と、ニーナは誰に言われたからというわけでもないのに言い訳を口にした。
ファンからは何着か貰ったので、誰か他の女性奴隷にでもプレゼントしようとニーナは決めた。
食料と交換できれば、ニーナとしてはありがたい。
さてファンからの贈り物は下着だけではない。
あくまで奴隷が身に着けても問題ないような代物ではあるが新品の衣服や、タオル、そして石鹸などの贅沢品もあった。
そして何より、保存のできそうな食べ物もたくさん届いていた。
チーズや干し肉、野菜の酢漬けなど。
栄養がありそうなものも多い。
そしてニーナが特に興奮したのは……
「こ、これ、も、も、もしかして、噂に聞くところの……飴?」
まるで宝石のような玉を手に持って眺めるニーナ。
飴は砂糖の塊であり……つまり超高級品だ。
ニーナは人生で一度も食べたことがない。
見たことすらなかったので、実在すら疑っていたのだが……存在していたようだ。
ニーナは恐る恐る、飴を口に運んだ。
すると濃厚な甘みが口一杯に広がった。
「おお……」
ニーナは口の中で飴を転がしてみる。
すると砂糖が唾液によって溶け出す。
「美味しい……」
金持ちはいつもこんなものを食ってるのか。
よし、私もこの闘技場を抜け出して、金持ちになろう。
ニーナは両手を握りしめた。
さて、ファンからの贈り物は一先ず確認し終えたので、ニーナは自分のステータスを確認することにした。
レベル:5
生命力:18+1
旋律力:32+1
筋力:12+1
魔力:31+1
耐久力:12+1
耐魔力:29+1
魔力質:A-
魅力:A-
直感:A
理性:B
幸運:A
称号・加護・技能
・格上殺し……レベル差分と同数の数値がステータスに加算される
・疾風の短剣使い+2……短剣装備時、筋力に+2、旋律力に+2の補正が掛かる
・疾風の槍使い+2……槍装備時、筋力に+2、旋律力に+2の補正が掛かる
・魔物殺し……敵が魔物の時、全ステータスに+1
・オーク殺し……敵がオークの時、全ステータスに+1
・男の敵……敵の性別が男性、または雄の時、全ステータスに+1
・腹パン(され)マスター……腹部(内臓)に攻撃されたとき、ダメージ二割減。
・露出性癖……履いていない時に全ステータスに+1
・被虐性癖……性的興奮時、耐久力に+1
「失礼な!!」
誰が露出性癖の被虐趣味の変態だ!
ニーナは内心で叫んだ。
確かにニーナの性の目覚めはオークとの試合だった。
だがそれはオークの体液、つまり毒による効果だ。
別に履いていなかったからでも、殴られたからでもない。
「……良いでしょう。しかし……一気にレベルが二つも上がるとは」
オークとニーナのレベル差は二つだった。
これはニーナと初戦の相手と同じだが……初戦の時はレベルは一つ分しか上がらなかった。
(まあ、あのオークは人間で言うところのレベル10はあったからなぁー)
大事なのはレベルではない。
ステータス値である。
レベルが一気に二つも上がったということは、それほど強敵だったということだ。
それから一週間後、骨折が完治したニーナは体に気を付けつつも、『鍛錬』を始めた。
幸いにも労働は免除され、『仕事』もないので時間はある。
が、問題が一つ。
(……耐久力はどうしようか)
今までは殴られたり、鞭を打たれたりしていたおかげ(?)で『鍛錬』ができていたが、これからはそれが難しくなる。
「精が出るな、ニーナ」
「……グレイブ、ですか」
「おお、覚えていてくれたのか」
ニーナが一人で拳立て伏せをしていると、グレイブが声を掛けてきた。
「なあ、ニーナ。実はお願いがあるんだが」
「……何ですか?」
「俺の槍の訓練に付き合ってくれ」
「……」
ニーナとしては練習相手がいた方が良い。
だが……おそらくニーナとグレイブの間にはステータス値の差がある。
グレイブの訓練にはならないはずだ。
「どうして、ですか?」
「お前の槍の技術を盗みたい」
「……なるほど」
随分と向上心がある。
まあ、ニーナは別にこの技術を秘匿するつもりはなかったので、盗ませてやることそのものは良い。
だが……タダとは言えない。
「お願いが二つあります」
「何だ?」
「今度、程良い石を用意しておきますので……それを目隠しした私のお腹に落とす訓練をしたいので、それに付き合ってください」
「何だ、そりゃあ」
意味が分からない。
という顔のグレイブだが、一応やってくれるようだ。
「もう一つは?」
「魔力操作はできますか?」
「まあ……それなりにな」
「教えて貰うことはできますか?」
「お安い御用だ。あれはちょっと、コツが必要でな……」
それから二週間。
ニーナはグレイブのおかげで、魔力操作をある程度使いこなせるようになった。
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