第8話 VSオーク
考えてみると、今まで跳んだり跳ねたりしてきたわけで、この激しい運動の間に処女膜の一枚や二枚くらいはとっくに破れてそうだな。
などとニーナが思うのと同時に戦いのゴングが鳴った。
「■■■■■■!!!」
凄まじい唸り声を上げて、ニーナに向かって突進してくる。
オークの武器は今までの敵と同様に棍棒だったが、その大きさも異なれば、リーチも威力も違った。
ニーナが少し前まで立っていた地面に棍棒がめり込む。
凄まじい音がした。
(これ、もしかして処女喪失で済んだら軽傷じゃないの?)
直撃すればニーナの低い耐久ではあっさり死んでしまうのではないか。
ニーナは冷静にそう考察した。
オークとニーナとの大きな差は、その頭に詰まっている脳細胞の色がピンク色か灰色かだ。
オークはこれから犯す女のことしか考えていないが、ニーナは冷静に作戦を考えることができる。
(まずは自分のステータスを思い出すか……)
ニーナは試合の直前に確認した自分のステータスを思い出した。
レベル:3
生命力:10+2
旋律力:18+2
筋力:6+2
魔力:17+2
耐久力:6+2
耐魔力:17+2
魔力質:A-
魅力:A-
直感:A
理性:B
幸運:A
称号・加護・技能
・格上殺し……レベル差分と同数の数値がステータスに加算される
・短剣使い……短剣装備時、筋力に+1の補正が掛かる
こちらの筋力が『8』、ナイフを抜いたとしても『9』なのに対し、オークの耐久力は『45』。
五倍以上だ。
(これは抜けないな……)
ニーナは敵の攻撃をかわしながら思った。
仮にオークの心臓に対し、まともに槍を突き刺そうとすれば、その分厚い胸筋に阻まれることだろう。
となれば、魔力操作の技術を使い、オークの皮膚と筋肉を突破するしかない。
(幸いにも、敵の攻撃は避けられないわけではない)
基本的に速度というのは筋力に依存する。
筋力が増えればその分重くなって遅くなる……よりも早くなる分の方が多いのが現実だ。
そのためニーナよりもオークの方が速度では上。
しかしニーナは旋律力でオークよりも優っている。
またオークはバカだ。
本能のままに棍棒を振り回しているだけに過ぎない。
オークの無駄の多い大振りな攻撃を、最小限の動きでかわす。
そして反撃として槍を振るい、オークの皮膚を切り裂く。
戦いが始まって十五分もする頃には、オークの皮膚には無数の裂傷ができていた。
「■■■■■■!!!」
オークが怒り狂ったように咆哮を上げる。
そのたびにオークの攻撃は苛烈になるが、同時に雑になっていき、避けやすくなる。
(思ったより、順調だな……)
唯一、文句を言うことがあるとすれば……
まずオークの体臭が臭いこと。
近くで戦っているとオークの体臭をもろに吸い込んでしまい、咽そうになる。
もう一つはオークが時折唾液を飛ばしてくることだ。
正直、気持ちが悪い。
ニーナは短期決着を図るため、反撃に転じた。
オークの視線と筋肉の動きから、迫りくる棍棒の軌道を予測。
通常なら飛びのくことで避けるそれを……敢えて動かずに待ち構える。
そして寸前のところで半歩前に進み、そして体を反らして避ける。
同時に槍を大きく切り上げる。
狙いは棍棒……を持っている右手首。
右手首に、穂先が食い込む。
同時にニーナの両手にとてつもない圧力が掛かる。
(切断、できない!)
想像以上に筋肉と骨が堅かった。
とっさの判断でニーナは手首の切断を諦め、腱のみに傷をつけることにした。
穂先を少しずらす。
ジンジンと手が痺れる。
が、オークはニーナ以上にダメージを負っており、今まで以上の悲鳴を上げた。
チャンスを逃さず、ニーナは穂先をオークの顔面に伸ばす。
狙うはオークの眼球だ。
血が飛び散る。
(これで左目と、右手を潰せた!)
ニーナは心の奥底でガッツポーズをした。
切り札を使わず、オークに大きな傷を負わせることができたのは大きい。
「■■■■■■!!!」
血走った目でオークはニーナへ突進する。
が、そんな攻撃は怖くもなんともない。
ニーナはそれを余裕をもって避けようとし……
(あれ?)
ふと、体に力が入らなくなっていることに気付く。
「あぐっ!!」
そのせいで完全に避けきることができず、右肩にオークの体が当たってしまった。
ニーナはまるでボールのように吹き飛び、地面に転がった。
(な、何で……)
ニーナは右肩を手で押さえながら、何とか立ち上がる。
全身を奮い立たせ、力を入れようとするが……
イマイチ思い通りに動かない。
その上、体が熱を帯びている。
(こ、これは……一体……)
今まで感じたことのないような感覚にニーナは困惑した。
脳味噌が何か未知の感覚に侵食され、集中できない。
「おやおや、ニーナちゃんの様子がおかしいですねぇ……なーんてね。皆さんも、ご存じでしょう。どうやらオークの毒の効果が表れたようですね」
(ど、く?)
その嫌な言葉に、ニーナは全身から冷や汗が噴き出るのを感じた。
「知らない方のために、そして聞いているかわかりませんが、ニーナちゃんのために解説しましょう。実はオークの体液には、人間の筋肉を弛緩させ、同時に性的な興奮をもたらす媚薬の効果があるのです! もっとも濃度が濃いのは……まあ、アレなわけですが、当然オークの汗や唾液にも含まれていますし、体臭にも若干の効果があります。それを至近距離から浴び、そしてあんなに体を動かせば、毒が回ってしまうのは当然です。……これを知らずにオークを侮った、エルフや女騎士が毎回やられてしまうわけですねー。ニーナちゃんは、典型的なパターンに嵌ってしまったというわけですよ」
(そ、そういえば……あったな、そんな設定)
ニーナは前世の知識を掘り起こした。
オークを倒すことで入手できる、『オークの血液』というアイテムにそんなテキストが書かれていた。
「っぐ、ああああああ!!」
ニーナは大声を上げて、どうにか意識を保つ。
大丈夫、まだ体は動く。
意識も……少しの間なら、集中できる。
「■■■■■■!!!」
オークの方は怒りで完全に我を忘れているようで、棍棒を使わず、両腕を振り回している。
(狙うは、短期決戦!)
ニーナはオークの懐に飛び込んだ。
そして両腕に魔力を注ぎ込む。
魔力操作による、強引な身体能力の底上げだ。
オークの首元目掛けて、槍を振り下ろす。
鮮血が噴き上がり、ニーナの体を赤く汚した。
「■■■■■■!!!」
オークは悲鳴を上げる。
(やった!)
ニーナは勝利を確信した。
そしてほっと、一息つく。
両腕はもう力が入らないほど疲弊しており、あともう一度魔力操作を使えば、前回と同じように痙攣を起こしてしまうだろう。
だが、今の一撃でオークに致命傷を与えることができた。
後は逃げ回っていれば、出血多量で自然とオークは動けなくなる。
そう……
油断したのが悪かった。
「■■■■■■!!!」
「え?」
ニーナの体にオークの左手が迫っていた。
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