第7話 長柄武器
初心者に武器をお勧めの武器は何かと言われれば、ニーナは「短剣」と答える。
というのも軽くて、短いからである。
短いためどのような戦場でも、その性能を発揮することができる。
それに軽いので力のない素人でも簡単に振り回せる。
何より力が伝わりやすいため、相手を傷つけやすい。
逆に素人にあまりお勧めしないのは槍などの長柄武器である。
重い上に、長いので取り回しが難しい。
槍は先端に重心が掛かるため、ただでさえ重いのが、さらに重く感じる。
これを素早く振り回すには相応の力と、力量が必要だ。
素人の振り回す槍など、どうせ当たりはしない。
無論、槍が強い武器なのは事実だ。
長いということはその分リーチがあるということで、そして重さはそのまま攻撃力に転換できる。
特に遠心力を利用した一撃は相当なものだが……
やはり使いこなすのは難しい。
ついでに言えば、同じ槍でも長さによって使い方が全く違う。
自分の身長を超えるような長槍と、自分の身長程度の短槍は別の武器だ。
前者の長槍は遮蔽物のない平らな場所で、集団戦を前提として武器である。
つまりあくまで戦争用だ。
一糸乱れず槍を構え、敵軍へ攻撃するための兵器であり、必要とされるのは個人の武勇ではなく、味方と合わせて行動するための兵士としての練度と、高度な軍事マニュアルだ。
一方後者の短槍はどちらかと言えば一対一を想定した武器である。
突く、切り上げる、振り下ろす、薙ぎ立てるなど、様々な動きをすることができる万能な武器だ。
まあ、逆にその場に応じた動きを選択しなければならないので、やはり玄人向きではある。
それを踏まえた上で……
「ふぅ……悪くない」
ニーナは槍を振っていた。
もうすでに四人の敵を屠ってきたニーナの短剣だが、さすがに短剣だけでは心許ない。
また筋力も伸びてきたので、もう少し重い武器も使えるはずだと考えた。
そこで新しい武器を求めたのだ。
五等奴隷は財産の所有が認められていないが、貸出という形はできる。
今までの労働の対価として、自分の身長と同じ長さの短槍を手に入れた。
長さも重さも、丁度いい具合だ。
今まではリーチ不足がネックであったが、それもこれで解消される。
(とはいえ、その分体力も鍛えないと……)
重い物を振り回すのだから、今まで以上に体力を消耗する。
ペース配分を考えて戦うということが、今まで以上に求められる。
その後も槍の感覚を体に覚えさせるためにひたすら振っていると……
「精が出るな」
声を掛けられた。
誰かと思い、ニーナが振り向くと、そこには腰に剣を吊った男性がいた。
いかにも剣闘士然としている男性である。
「……あなたは?」
「グレイブという。お前の名前は? 五等奴隷ちゃん」
「……」
五等奴隷ちゃん、と言われてニーナは若干不機嫌になった。
奴隷は自らが奴隷身分であることを示す証をつけていなければならないとされている。
帝国では奴隷は一等から五等までに分けられているが、基本的に等級が下がるごとに奴隷である印は増えていく。
一等奴隷は耳にピアスとタグ。
二等奴隷は首輪。
三等奴隷は足枷。
四等奴隷は鉄球。
そして五等奴隷は背中に焼き印を入れられる。
ニーナの服はところどころ破れており、背中の焼き印は背後から見えてしまう。
そのため五等奴隷であることは一目で分かるわけだが……
指摘されるのは腹立たしい。
「ニーナです」
「もしかして、期待の新人のニーナちゃんか?」
「私は私以外のニーナを知りませんので」
ぶっきらぼうにニーナが答えると、男はニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
そして無遠慮にニーナの肩を軽く叩く。
「まあまあ、そんなにツンケンするなよ」
「……あなたは、何者ですか?」
「俺は剣闘士だ」
ニーナは男の耳を確認する。
ピアスもタグも付けられていないことから、彼が自由民の剣闘士であることが分かる。
この闘技場で戦っている剣闘士は二種類いる。
自由民の剣闘士と、奴隷の剣闘士だ。
自由民の剣闘士の場合、試合で死ぬことはあまりない。
と言っても、十回に一度くらいは大怪我をする者もいるが……
剣闘士たちもあくまで職業としてやっているため、互いにある程度手を抜くし、魔物を相手にするときは勝てる魔物と戦う。
奴隷の剣闘士は……今までのニーナの試合を見れば分かるだろう。
大怪我は当たり前で、死ぬこともしょっちゅう。
そして敗北すれば見せしめにされる……と酷い扱いだ。
同じ剣闘士試合でも、根本的に趣きが異なり、当然客層も違ったりする。
ニーナは正規の、自由民の剣闘士が嫌いだ。
親の仇のごとき恨んでいる。
「なんで私の方が危険なことをやらされているのに、私には何の報酬もなく、逆にあいつらはあんなにお金を貰えるんだ!」という……一種の八つ当たり、嫉妬がその理由である。
ニーナ自身もそれを浅ましいことだと思っているので口には出さない。
態度には出すが。
「見ての通り、私は忙しいんです。戦いが三日後に迫っています。戦いの前にこの槍を体に馴染ませなければならない。……こっちは生死が掛かってます。邪魔をしないでいただけますか?」
「ふーん、じゃあ俺が相手になってやろうか?」
「……どういう意味ですか?」
グレイブの意図が図り切れないニーナは尋ねた。
するとグレイブはにやりと笑った。
「俺も槍を何度か、使ったことがある。相手がいた方が、馴染みやすいんじゃないか?」
「……私は筋力が低いです。手加減してくれますか?」
「無論だとも」
せっかくなので、ニーナはこのグレイブを利用することにした。
ニーナは槍の穂先にカバーと布を巻き、そしてグレイブと槍の打ち合いをする。
(……粗削りだけど、悪くはない)
ニーナはグレイブの槍をそう評した。
武術というものが軽視されているこの世界では、槍の流派など存在しない。
つまりすべてが独学になる。
グレイブは長い戦いの中で独自の槍術を編み出したのだろう。
ぶっちゃけ、槍の動きはニーナの方が洗練されているが……しかし我流であることを考えるとかなりセンスが良いと言える。
互いに攻守を入れ替えて、槍を打ち合う。
「いやぁ、しかし上手いな。ニーナちゃん。熟練の剣闘士みたいだったわ」
「……ニーナ、で良いです」
「そうか?」
「ええ、ちゃん付けは気持ちが悪いので」
ニーナがそう答えると、グレイブは肩を竦めた。
そして背中を向けて言った。
「次の試合、頑張れよ」
「ええ……言われなくとも」
さて、試合当日。
やる気十分なニーナの前に現れたのは……
名前:ブー太郎
性別:オス
種族:魔物/オーク
身分:家畜
職業:戦士
レベル5
生命力:35
旋律力:18
筋力:40
魔力:8
耐久力:45
耐魔力:10
魔力質:E
魅力:E-
直感:D
理性:E-
幸運:D
ニーナの数倍は大きい、豚面の怪物がいた。
ニーナを見て興奮しているのか、涎を垂らし、荒い鼻息を立てている。
グッバーイ、私の処女膜。
十二年間、ありがとう……
短い間だったけど、君との日々は忘れないよ。
ニーナは内心でそう思った。
皆さんがきっと待ち望んでいただろうオークさんです




