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第4話 努力って大切

 ニーナの前世の人物、■■■■さんがやっていたこのゲームには『基礎値』という概念が存在した。

 ゲームには『鍛錬』という修行をすることができ、その『鍛錬』には六種類……つまり生命力・筋力・旋律力・魔力・耐久力・耐魔力をそれぞれ鍛えることができ、レベルアップ前にあらかじめ鍛えておくことで、レベルアップの上昇値に色を付けることができる。


 まあ、微々たる差ではあるのだが……

 積み上げていくと割と馬鹿にならない差になるのだ。


 尚、ゲームとは違うニーナの世界では『鍛錬』など存在しない。

 ゲームではボタン一つで『鍛錬』できたかもしれないが、ニーナの世界では当然時間の流れというものも存在するし、それに何をすれば、その値の基礎値が増えるのかも分からない。


 何より、『生き物を殺して魂を吸収するのが強くなる最善の道』というのがこの世界の常識である。

 暑苦しい筋トレなんぞ、やってる奴がいればそれは変人だ。


 「27、28、29、30! ふぅー」


 ニーナは拳立て伏せを終え、ベッドに横たわった。

 薄いボロボロの奴隷服が素肌に吸い付いて、気持ちが悪い。


 (少なくとも、夏のうちは悪くないかな……)


 生地が薄い上に少ない奴隷服であるが、夏のうちは涼しいのでそこそこ快適だ。

 しかし冬になればさすがに寒いので、それまでに身分を上げて、もう少し暖かい衣服を貰えるようになりたい。


 (しかし、視線が鬱陶しいなぁ……)


 奴隷に一室が貰えるはずもなく、ニーナのいる部屋は大部屋だ。

 同年代の戦闘奴隷の子供たちと、寝食を共にしている。


 前回の勝利で目立っていたニーナだが、筋トレ(きこう)を始めたことでますます注目を浴びるようになってしまった。

 もっともやめるつもりはない。


 拳立て伏せ。

 腹筋。

 背筋。 

 スクワット。


 これをそれぞれ三十回、一日三セットやるのが今の目標である。


 ちなみに拳立て伏せと腕立て伏せの違いは、手を閉じてグーでやるかと、手を開いてパーでやるかだ。

 拳立て伏せの方が、パンチの威力は高くなる……はずだ。


 「筋力はこれで良い。生命力は……まあランニングで良いか。問題は魔力と耐魔力、旋律力、耐久力かぁ……」


 一先ず、魔力と耐魔力に関しては置いておくことにする。

 旋律力と耐久力は何とかなりそうで、どうすれば良いのか分からない。


 旋律力は……反復横跳びでもすれば良いのだろうか?

 しかし反射神経も重要な気がする。

 だが何の器具もないこの場所で反射神経を鍛える方法が思いつかない。


 耐久力は……まあつまり殴られれば良いのだ。

 ある意味、とても簡単だ。

 一日一回、誰か男性でも捕まえて「腹パンしてください」と頼めばいい。

 ……が、それは変態への道に繋がっている。

 道行く男性に腹パンをしてもらいたがる十二歳の女の子。

 控え目に言ってヤバイ。

 

 というわけで今は筋力と生命力のみを鍛えている形になっている。


 「……すんすん」


 ふと、ニーナは鼻を動かした。

 妙に臭い。

 酸っぱい臭いがする。


 一対、だれだ。

 こんな臭いのは……


 と現実逃避してみるニーナ。

 考えずとも、誰が臭っているのかわかる。


 自分だ。


 ニーナが持っている服は一着だ。

 それを毎日、汗まみれにしているのだから、そりゃあ臭う。


 体は一日に一回、水浴びをさせて貰えているが肝心の服が臭いようでは臭いままだろう。

 とはいえ、全裸で筋トレをすれば変人を通り越して変態になってしまう。

 

 「……誰かに相談するか」





 他の先輩奴隷に相談してみたところ、『仕事』をすることができるらしい。

 戦闘奴隷の本職というのはつまり戦うことだが、試合がない日はずっとぐーたらしているというわけではない。

 最低限の掃除や野菜の皮むきなどをやらされる。


 『仕事』というのは、それ以外の有志でやる労働のことだ。

 それは野菜の皮むきや掃除などのそこまで体力を使わないものから、重い荷物を運ぶ仕事や、果ては性的な奉仕をするものまであるそうだ。


 基本的に財産を持って良いのは二等奴隷からなので、『仕事』をしたとしても賃金が貰えるわけではない。

 が、便宜は図ってもらえるようになるらしい。


 例えば食事の量を増やして貰えたり、替えの衣服を貰ったりなどだ。


 どうせやるなら、肉体労働が良い。

 その方が体も鍛えられる。


 そういうわけでニーナは自分にも肉体労働ができるのか、尋ねてみた。

 すると、筋力が『5』もあれば何とかなるらしい。

 成人男性の筋力の平均が『10』程度で、『5』はお世辞にも高いとは言えないが足手纏いにはギリギリならない程度のようだ。


 成人男性で『10』って低いなぁ……

 とニーナは思わず思ってしまったが、冷静に考えてみるとそもそも一般人は『人』や『魔物』を殺したりはしない。

 殆どの人は年齢経過によるレベル上昇、つまり二十歳でレベル『3』程度でそれ以上レベルを伸ばしたりすることはない。


 しかしニーナの筋力は『3』である。

 少し……いや、かなり少ない。

 が、何とか頼み込んでやらせて貰うことにした。

 無論、足手纏いになった段階で即クビ、少しでも仕事ぶりに不備があった場合は殴られたり、鞭で打たれても良いという条件の上だが。


 ニーナが任されたのは、炎天下で重い荷物を持ち運ぶ仕事だ。


 成人男性の奴隷が多い中で一人美少女が混じって働く様はかなり異様だった。

 あまりの過酷さに、時折意識が朦朧となることすらあった。


 が、辛い分だけ、それなりの便宜を図ってくれた。


 食べ物で言えば、シチューの量が少し増えた。

 そしてパンに塗るバターを少量だが貰えるようになった。

 替えの服も、労働で汚れたり破れたりするということもあり二着も貰えた。


 もっとも……食事の増加量は労働に比べれば微々たるもので、そして奴隷服も使い古した雑巾を縫い合わせたような代物である。

 それを考えると、かなり搾取されているなー、などとニーナは他人事のように思った。


 例の『オーナー』さんにニーナが搾取されている金額と、■■■■さんの世界で最貧国の労働者が搾取されている金額なら、どちらの方が上なのだろうかと、どうでも良いことを考えてしまう。

 

 割と良い勝負しているんじゃないか?

 などと、半分自虐気味に思えてくるあたり、ニーナもかなり奴隷として『調教』されてきた感がある。


 尚、足を止めたり荷物を落としたりすると容赦なく殴られたり、鞭や棒で叩かれるので……

 地味に耐久力の『鍛錬』になったりした。


 問題は旋律力だが、これは自作の鍛錬道具によって解決した。

 『仕事』で貰ったロープに石を括り付け、それを何本も木の枝に吊るし、振り子のように動かす。

 そしてその中に飛び込み、必死に石を避けるのだ。

 顔面……はさすがに危ないので、お腹の位置に当たるように調節している。

 ヒットすると「ぐへぇ」となってしまうので、必死に避けるしかなく、必然的に反射神経が上がるという寸法である。

 ついでにもし当たってしまったとしても、それは耐久力の『鍛錬』になるので無駄がない。



 そんなこんなしているうちに二週間が経過し、試合の日になった。


 前回ほどの緊張はニーナにはない。

 そんな中、現れた敵は……

 


レベル:3

 

生命力:9

旋律力:6

筋力:9

魔力:8

耐久力:9

耐魔力:7


魔力質:C

魅力:C

直感:D

理性:C

幸運:D

 


 

レベル:3

 

生命力:9

旋律力:8

筋力:8

魔力:6

耐久力:9

耐魔力:8


魔力質:C

魅力:D

直感:D

理性:C

幸運:C

 


 

レベル:4

 

生命力:12

旋律力:13

筋力:13

魔力:10

耐久力:10

耐魔力:10


魔力質:C

魅力:D

直感:D

理性:C

幸運:D



 三人はいくら何でも多くないだろうか?

 ニーナの全身から冷や汗が噴き出た。


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