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第5話 VS性犯罪者×3

 「さあ! まずはこちらから……綺麗な桃色の髪の美少女、ニーナ! 前回の戦いでは容赦ない金玉蹴りと追撃でレベル差が二つもある敵を倒した、期待の超新星です!! いやー、感情の浮かんでいない表情がとてもクールですねぇ! あの顔が苦痛に歪むと考えるとゾクゾク……いえ、何でもありません!!」


 司会がニーナを紹介する。


 すると観客席から下品な笑い声が聞こえる。

 ニーナはその澄ました顔を、一瞬だけ不愉快そうに歪ませた。


 「そして、こちら! この三人は愚かにも、帝都で数々の犯行を行った性犯罪者です! まさに、社会のゴミですねー。彼らはあと二勝すれば、罪が許されることとなっております。是非ともニーナちゃんには勝っていただきたいものです」


 笑い声に紛れて、ヤジが飛んでくる。


 「よし、ニーナちゃん、やっちまえ!!」

 「その性犯罪者共を去勢しちまうんだ!!」

 「やられんなよ、ニーナちゃん! 俺はお前に全財産賭けてるんだからな!!」

 

 割とニーナを応援する声が多い。

 が、ニーナとしては「お前ら人のことあまり言えないだろ」と言いたい。


 (というか、私が勝たなくても、こいつらは死ぬでしょ)


 ニーナは内心で目の前の三人の性犯罪者をジト目で見た。

 三人は呑気なことにニーナを倒し、そしてその次の敵を倒せば助かると思っているようだが……


 世の中、そう甘くない。


 最後の一戦はおそらく、この三人を簡単に食い殺せてしまうような魔物だろう。

 最後の最後まで希望を持たせて、地獄に叩き落す。


 それがこの闘技場のシステムだ。

 そして観客たちもそれを見たくて来ているわけだ。


 何とも悪趣味な話だ。


 (今、ここで楽にしてあげましょう)


 ニーナは短剣を抜いて構える。

 そして戦いの前に自分のステータスを確認した。



レベル:2


生命力:6+2

旋律力:11+2

筋力:3+2

魔力:11+2

耐久力:3+2

耐魔力:11+2


魔力質:A-

魅力:A-

直感:A

理性:B

幸運:A


称号・加護・技能

・格上殺し……レベル差分と同数の数値がステータスに加算される


 


 どうやら集団戦の場合は、『格上殺し』の効果は敵のうち一番レベルが高い者を基準にされるらしい。

 +4(全員分のレベル差の加算)だったら良いのになぁと思っていたニーナは、少し残念に思った。

 しかしこれで少しは敵と戦える数値になった。





 そして……

 試合のゴングが鳴った。



 

 敵の武器は、三人とも棍棒である。

 おそらくニーナを殺さずに昏倒させるように、指示が出ているのだろう。

 ニーナを殺させないようにするのは、死ぬよりも酷い目に遭わせるためだ。


 相手を殺しても良いニーナと、ニーナを死ぬよりも酷い目に遭わせるためにニーナを殺せない三人。

 そこが勝敗の鍵であるとニーナは認識していた。


 「うぉおおおお!」

 「死ねぇえええ!」

 「うりゃあああああ!」


 棍棒を振り上げて襲い掛かってくる三人。

 あまり息が合っているとは言えない三人の攻撃を掻い潜るのはそこまで難しいことではなかった。


 ニーナの旋律力と対等なのはレベル4の敵だけで、他はニーナよりも数段遅い。

 技術の差もあり、避けることはできる。


 しかし攻撃ができない。


 太陽が照り付ける中、ひたすら鬼ごっこが続く。

 観客も、そしてニーナと三人の敵に疲労が溜まり始める。


 特に三対一の中、一人避け続けるニーナは疲弊し切ってしまい……

 

 「はぁ、はぁ……」


 途中から苦しそうに息をしていた。

 ぼろ雑巾のような衣服は汗でびっしょりと濡れ、肌に張り付いている。

 綺麗な桃色の髪を汗が伝う。


 「っく……」


 一瞬、ニーナは疲労で足が縺れ、よろけてしまった。

 それを見た三人のうちの一人が、満面の笑みを浮かべる。


 「隙やりぃいいいい!」


 そして大きく棍棒を振り上げた。

 当然、棍棒を大きく振り上げれば……振り下ろし切るまでには時間が掛かる。


 ニーナはニヤリと笑みを浮かべた。

 そう、足が縺れたのは油断を誘うためだったのだ。


 ニーナは身を屈め、そして敵の足の間を滑り込むようにすり抜けた。

 そしてすれ違いざまに男の大切な場所を短剣で切り裂いた。


 「ぎゃああああ!」


 男性器を切り裂かれ、絶叫を上げる。

 仲間の悲鳴、そして男性器を切り裂かれるという男ならば同情・共感せざるを得ない状況に直面した他の二人は一瞬だけ硬直してしまった。


 ニーナはすかさず短剣を投げつけた。

 まさか短剣を投げつけてくるとは思わなかったのだろう。


 男の防御は間に合わず、短剣は深々と柔らかい喉に突き刺さった。


 「あとは、一人」


 最後に残るはレベル4の敵だ。






 「なるほど、上手い戦い方をするものだ」


 闘技場のオーナー、ヨーゼフ・フェルベルンは葡萄酒を飲みながらそう呟いた。

 観客席のうち、一番眺めの良い場所、特等席に彼はいた。


 戦いの様子は魔導具によって、手元の画面に映し出されているので表情もよく分かる。


 「ふむ、しかし……疲労が溜まっているようだな」


 ヨーゼフは汗をびっしょりと掻いているニーナをそう評した。

 先ほどの足の縺れは演技だったようだが…… 

 疲れそのものは本物のようだ。


 まあ、当然と言えば当然だ。

 格上の相手三人と長時間に渡って格闘しているのだから。


 「できれば、勝って貰いたいものだ」


 前回の戦いでニーナは一部の観客を虜にしているため、もしニーナに『罰』を与える権利を売り出せば、きっと高値で売れる。

 そういう意味ではニーナには負けて貰った方が儲かるが……


 それは一時の利益だ。

 できれば、もっともっとニーナの人気を上げてから……ニーナを負けさせたい。

 その方が『罰』を売りに出した時に、より高い値段で売ることができる。


 静かに戦いを見守っていると……

 ニーナの体が一瞬、硬直した。


 その唇から少しだけ悲鳴が漏れ、そして表情も……ほんの僅かな間だが苦痛で歪んだ。

 ヨーゼフはニーナが自分の左足に視線を移したのを、見逃さなかった。

 

 「勝負、あったな」





 (こ、このタイミングで……)


 ニーナは左足に走った激痛を誤魔化すために、歯を食いしばった。

 左足の筋肉がわずかに痙攣していることが分かる。


 つってしまった。


 必死に表情を取り繕い、戦いを継続するが……

 どうしても左足を庇ってしまう。


 「どうやら、もう限界みたいだな」

 

 気付いたときには腹部に棍棒がめり込んでいた。

 ニーナの体がボールのように吹き飛ぶ。


 朦朧とする意識の中、必死に体を丸めて受け身を取った。


 「うぐっ……」


 ずきずきする左足の痛み。

 吐き気を催すような腹部の鈍痛。

 そして脱水症状のせいか、ズキズキと痛む頭。


 それでも……ニーナは立ち上がった。


 「ふふ……」

 「……何を笑っている?」

 「……」


 ニーナは答えない。

 ニーナ自身もどうして笑っているのか、分からなかったからだ。


 幸運なことにニーナが吹き飛ばされた先には、ニーナが短剣を投擲して殺した男の死体があった。

 首から短剣を引き抜く。

 これでようやく、武器が手元に戻った。


 「死ねぇええ!!!」


 男が棍棒を振り上げて襲い掛かる。

 ニーナは内心で叫んだ。


 (絶対に生きてやる!!!)


 その瞬間、ニーナは体の奥から力が湧き出てくるのを感じた。

 内側から溢れるそのエネルギーを右足に注ぎ込む。

 そして右足で強く地面を蹴り、同時にそのエネルギーを足から放出した。


 それにより右足の筋肉までがこむら返りを起こしてしまったが……

 問題なかった。


 もうすでにニーナは男の懐まで潜り込んでいたのだから。


 「はぁあああ!」


 ニーナはエネルギーを右手と短剣に注ぎ込み、男が反応するよりも早く……

 心臓部に短剣を突き立てた。

 そして……






 「勝者、ニーナ!!!!!」


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