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第24話 VS剣士

 戦いが始まった。


 まず始めはヴィルヘルムによる剣の猛攻だった。

 ニーナよりもステータス、特に筋力が大きいだけあり、その一撃一撃は早く、重い。

 

 ニーナはそれを持ち前の技術と直感と経験則で迎え撃つ。

 武器はヴィルヘルムに合わせて、バスターソードだ。


 「へぇ……やりますね」


 技術が軽視されるこの世界では、異例とも言える素晴らしい太刀筋だ。

 ニーナは内心でヴィルヘルムへの評価を上げた。


 「っく……どうして筋力に二倍のステータス差があるのに倒れない!」

 「魔力操作を使ってますから」

 

 魔力操作の技術がなければ、ニーナの剣はヴィルヘルムによって弾き飛ばされていただろう。

 何しろ、筋力に二倍の差があるのだ。


 (しかし……魔力操作を使えないのか)


 魔力操作はかなり繊細な技術だ。

 技術がこの世界で軽視されていることを考えると、使えないのも無理はない。


 魔力操作の訓練をする時間でレベル上げをした方が強くなれる、というのがこの世界の常識だ。


 (しかし……単調だな)


 戦っているうちにニーナはヴィルヘルムの剣に違和感を感じていた。

 最初こそはその綺麗な太刀筋に見入っていたが……


 (……何だろう、人を相手にしているような気がしない)


 ヴィルヘルムの剣はまさにお手本通り。


 敵がこうすれば、ああする。

 こうしたら、次はああする。


 とまるでプログラミングされているかのようだった。

 堅実ではあるが、面白みがない。

 そこには駆け引きも何もない。


 と、そこでニーナは気付いた。


 『剣術』というスキルと、『生まれながらの天才剣士』の意味に。


 つまり……

 彼は生まれながらにして『剣術』のスキルを持っていたのだ。

 おそらく、この『剣術』というスキルは剣の扱い方をプログラミングするようなスキルなのだろう。


 だから彼は“生まれながらの”天才剣士だ。


 「はぁ……つまらないですね」


 ニーナは少し冷めてしまった。

 発動していた『戦闘狂』のスキルが解除されるのを感じる。

 

 「あなたの剣はもう、分かりました」

 「は! そんなハッタリが通用するとでも……」


 ニーナはそこで雷魔術を使用した。

 全身から放電すると、電流がニーナの剣からヴィルヘルムの剣へと伝わる。


 あまりの痛みにヴィルヘルムは剣を落としてしまった。 

 ヴィルヘルムは顔を青くする。


 やはり剣がないと、まともに戦えないようだ。


 そんなヴィルヘルムの股間をニーナは蹴り上げる。

 さらに続いて脛を蹴り、そして次に喉を二本の指で突く。


 「おうぇ!」

 「まだまだ!」


 さらに顎を下から強く打ち上げる。

 脳震盪を起こしたのか、ヴィルヘルムは倒れた。


 そんなヴィルヘルムの上に馬乗りになり、ニーナは顔をタコ殴りにした。

 そして五分後。


 「気絶したみたいです。判定をお願いします」

 「あー、終わっちゃった? さすがニーナちゃん」

 「結果、分かってたんですか?」

 「これでも殺し合いは何度も見てきたからね……勝者、ニーナ!!」


 司会は声を張り上げて宣言した。

 観客席から大歓声が上がる。


 この時、ニーナは内心で思ってしまった。


 (犯される危険のない試合って、つまんないな)


 





 その後、ニーナはかなりの大金を手にすることに成功した。

 そのほとんどは一等奴隷になったときに自分を買い上げるために貯金しておく……


 と言いたいところだが、ニーナには買わなければならないものがあった。


 「よっしゃあああ! ついに、これが私のものに!!」

 「まさか、本当に売ることになるとは」


 武器屋の店主は驚き半分、呆れ半分という様子で言った。

 するとニーナはドヤ顔を浮かべた。


 「ふふん、宣言通りに買ってみせたでしょう?」

 「……」


 武器屋の店主は何とも言えなさそうな表情を浮かべた。

 

 ニーナが買ったのは白銀に輝く短刀である。

 ヒヒイロカネとミスリルという二種類の鋼からできたこの短刀は使用者の魔力をよく伝導するのに対し、逆に使用者以外の魔力を遮断する。

 

 武器としては最高品質と言える。

 まあ、これでニーナの全財産は吹っ飛んでしまったのだが……


 どうせ次の戦いで大金が手に入る。


 「この短刀さえあれば無敵! 私、もう何も怖くない!」


 ニーナは意気揚々と闘技場へと帰っていった。






 「えっと、『神の子はおっしゃった。天国が金持ちに行くには難しいラクダの穴を針で通すよ』ナニコレ、意味ワカンナイ」

 「だって間違えてますし……」


 困惑するニーナに、クリスティーネは正しい文章の読み方を教える。

 

 ニーナはクリスティーネに文字の読み書きを習っていた。

 奴隷であるニーナは文盲なので、字の読み書きが覚束ない。


 自分の名前すらも読めないのだ。

 なお、ステータスを読むことができるのは、ステータスは見るだけでその意味が理解できるようになっているからである。


 「いや……字って難しいわ」

 「いえ、ニーナさんは覚えが良い方だと思いますよ?」

 「そうなの? だったら嬉しいけどね」


 クリスティーネに励まされる。 

 ニーナは自分のことを馬鹿ではないと思っていたが、さりとて頭が良いとも思っていない。


 理性はB+と高いが……

 理性の高さと頭の良さはあまり関係ない。


 馬鹿でも理性的な人間はいるし、賢くても感情的な人間はいる。


 「字は覚えようと思えば、習得の早い遅いはありますが、誰でも覚えられます。大事なのはやる気です」

 「そうかな? まあ、やる気はあるよ。あまり興味は湧かないけど」


 字の読み書きができなくとも生きてはいける。

 が、不都合は多いだろう。

 騙されるリスクも増えるし、いろいろと人生の機会を逃すことにもつながる。


 だからニーナは字を覚えようと考えた。


 つまり学問的な意欲や探求心があるというわけではない。


 「何か、本を読んでみたいと思ったりは?」

 「本かぁ……うーん、あまりないんだよね」

 「じゃあ書いてみるというのはどうですか?」

 「書く!?」


 ニーナは首をブンブンと大きく横に振る。


 「無理無理、私、無教養だよ?」

 「そんなことありませんよ。例えば……ニーナさんの戦闘技術はすごいと思います。それを本に書いてみるとか」

 「需要あるかなぁ……」

 「低ステータスの人のための護身術、という感じで発表してみては?」

 「それは……うん、面白そうかも」


 ニーナは少しだけやる気が出てきた。

 自分の技術を他者に教えるのは嫌いではない。


 すでにグレイブやマルクス、そしてクリスティーネに自分の技術を伝授している。


 「興味、湧きました?」

 「そう……だね。少しは気分が盛り上がったかも」


 ニーナは再び勉強に戻った。


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