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第22話 VSなめくじ

正直、作者の蛞蝓は嫌い(というか好きな人はいないだろうけど)なので、ニーナちゃんには同情します

 ニーナは蛞蝓が苦手だ。

 

 あのウネウネしていて、テカテカしているのが気持ちが悪い。

 ぬめっとしていて、通った後がねっちょりとする様を見るとぞっとする。


 孤児院にいたころ、悪戯でヤマナメクジを服の中に放り込まれたときは半狂乱で転げ回ったほどだ。


 そんなニーナにとって、今回の対戦相手は最悪だった。


 「無理、むりぃ、むりぃ、むりぃ!!!!! お願いだから、お願いだから、あれだけはやめて、ひぃいいいいいいいい!!!!」


 ニーナは泣き叫んだ。

 粘液を垂らす蛞蝓の姿を見ただけで、鳥肌が立ってしまう。


 あんな蛞蝓に触るくらいならば、スライムに口から肛門まで串刺しにされた方が百倍マシに思えた。


 「ニーナちゃんも大喜びしてくれていることですし、試合を開始しましょう。では……」

 「始めるなぁ!!!」


 ニーナは叫んだ。

 すると司会兼審判はニーナに問いかけた。


 「では棄権する? ニーナちゃん」

 「する! します!! あんなの無理!!」

 「その場合はあの蛞蝓と交尾することになるけど良い?」 

 「へぇ?」


 ニーナは顔を青ざめた。

 交尾する? 

 蛞蝓と?


 「まあ、負けてもそうなるけど……戦わずして、そう言う目に合いたいというのであれば、仕方がないか。では今回はニーナちゃんの敗ぼ」

 「戦います! 戦わせてください!!!」


 ニーナは必死の形相で叫んだ。

 すると司会兼審判はニヤリと笑った。


 「では、試合を始めましょう。……開始!!」


 ゴングが鳴った。


 ニーナは大きく深呼吸する。

 要するに触らなければ良いのだ。


 接近せず、遠距離攻撃で完封すればいい。

 敵の耐魔力が高い?

 

 知らん、そんなもの。


 ニーナは両手に魔力を注ぎ込み、巨大な火球を作り出す。

 それを蛞蝓に向けて放った。


 「焼け死ね!!!」


 火炎が蛞蝓の表面を炙る。

 だが……


 「くそ……効いてないし……」


 全身を粘液に覆われている蛞蝓には、炎が効きずらいようだ。

 無論、粘液すべてを蒸発させるような大火力ならば効果は上がるかもしれないが、しかし耐魔力の高い蛞蝓の水分を蒸発させるほどの火力は魔力質:A-のニーナであっても難しく、現実的ではない。


 (蛞蝓の弱点は確か塩とか銅だけど……そんなのないしなぁ)


 しかし前世知識の蛞蝓の生態について記憶を掘り起こしていると、あることを思いついた。

 

 (蛞蝓はほとんどが水分……スライムと同じように、電気はよく通るはず)


 しかし耐魔力の高さを考えると、単純に電気を真正面から浴びせてもさほど効果はないだろう。

 

 (一度、金属を通して、純粋な電気に変える必要があるな……)


 耐魔力。

 というのは要するに魔法や魔術に対する抵抗だ。


 例えば魔法で炎の玉を作り出し、それを当てても耐魔力の高い相手には効きにくい。

 だがそれは炎に耐性があるというわけではない。

 あくまで耐性があるのは、魔力で作られた炎である。


 つまり、だ。

 魔法で火を灯した松明など、最初のきっかけは魔力によるものでも、それそのものは魔力とは関係ない純粋な自然現象としての炎である場合……


 耐魔力ではなく、物理的な耐久力の問題になる。


 ニーナの電撃魔術も同様のことがいえる。

 つまり直接作り出した電撃を浴びせた場合は耐魔力で威力が大幅に落ちてしまうが、電撃を一度金属に通してそれを相手に通した場合は耐魔力による威力の減衰が起きにくい。


 無論だが、金属に流れているのはニーナが作り出した電撃であり、魔力の供給を止めても燃え続ける松明とは異なる。


 先程のたとえで言う松明が、物理:魔力=10:0となるのに対し、ただ金属に通しただけの電撃は物理:魔力=4:6ほどの割合になる。


 魔力とは幻想の存在であり、物理は現実の存在だ。

 この魔力を、魔法・魔術をより現実に近づければ、それだけ耐久力の勝負に持ち込むことができる。


 (槍に電気を通して流せば、ずっと効きやすくなるだろうし……それに電気で金属も熱せられて、熱によるダメージも期待できる)


 だけど……


 「ひぃ……」


 ニーナはゆっくりと、触手を動かしながらこちらへ近づいてくる蛞蝓を見た。

 これに近づかなければならない。


 近づけば当然、触手の射程圏内に入る。

 あのベトベトの触手が、ニーナの体に触れる可能性さえ出てくるのだ。

 

 「き、気持ち悪い……」


 が、仕方がない。


 ニーナは意を決して槍を構え、蛞蝓に接近した。 

 すると早速、無数の触手がニーナに襲い掛かった。

 

 (見た目にそぐわず、早い!)


 移動速度は蛞蝓だから遅いが……

 触手を伸ばせる範囲内での攻撃速度は、旋律力:300に恥じないだけの速度だ。

 

 もっとも旋律力は純粋にニーナの方が速い。

 加えて相手の行動を予測して動くことができるニーナに、蛞蝓の攻撃が当たることはない。


 だが……

 だからといって、接近できるかというと、少し話は変わる。


 (うぅ……気持ち悪くて、近づけない……)


 近づけば触手が当たる可能性が高くなる。

 相手がオークやヘカトンケイルならば、リスクを冒してでも! という気分になるのだが……

 相手が蛞蝓だと、中々そういう気持ちになれなかった。


 ニーナが攻めあぐねていると……

 

 「うわぁ! な、何?」


 突然、足が何かに拘束された。

 ニーナが自分の足元を見ると……そこには蛞蝓の触手が纏わりついていた。


 「ひぃいい!! ど、どこから?」


 よく見ると、その触手は地面の中から伸びていた。

 蛞蝓はこっそりと、地面の中に触手を潜らせ、機会を伺っていたのだ。


 「い、いや! お、お願い、放して!!」


 ねっとりと纏わりつく触手を強引に引き剥がそうとするニーナ。 

 完全にパニックに陥っていた。


 そんなニーナに対し、蛞蝓はその口をすぼめて……


 ビュシュー


 粘液を浴びせた。 

 触手に気を取られていたニーナはこれを避けることができず、頭から浴びる羽目になった。


 「いやぁあああああああああ!!!!」


 全身に蛞蝓の粘液を被ることになり、ニーナは悲鳴を上げた。

 しかも……ニーナの体に纏わりついているのは粘液だけではなかった。


 「いや、いや、いや!!! 気持ち悪い、ひぃいいいい!!」


 蛞蝓が吐き出した粘液の中には、小さな子供蛞蝓が含まれていたのだ。

 合わせて数十匹の蛞蝓がニーナの体を這う。


 「い、いや……うっ、おうぇ……」


 あまりの気持ち悪さにニーナは胃の中のものを戻してしまう。

 いつの間にか、槍がニーナの手から離れていた。


 そんなニーナに対し、蛞蝓は触手を伸ばした。


 気分を悪くしていたニーナはあっさりと蛞蝓に囚われてしまう。


 無数の触手でニーナを弄びながら、蛞蝓はニーナを自分の頭上へと運んだ。

 蛞蝓の体表面には無数の小さな触手が蠢いており、ニーナを今か今かと待ちわびているようだった。


 (うぅ……気持ち悪い、のに……)


 催淫触手大蛞蝓。

 それがこの蛞蝓の名前である。


 つまりこの蛞蝓の粘液には強力な催淫成分が含まれている。

 いくら蛞蝓が生理的に受け付けないからといっても、その毒の効果はニーナを蝕んでいた。

 

 だからこそ、ニーナはとてつもない嫌悪感に襲われていた。

 よりにもよって、蛞蝓に、と。


 これならオークやヘカトンケイルの方が数段マシである。


 (絶対に……許さない!)


 ニーナの心に火が付いた。


 「離れろや、このゴミムシが!!!!」


 ニーナは体内で練った魔力を解き放ち、全身から放電した。

 いかに耐魔力が高くとも、痛いものは痛い。

 つい、蛞蝓はニーナを手放してしまう。


 ニーナは蛞蝓の体表面に着地し、バスターソードを蛞蝓の体に突き刺す。

 耐久力は弱いこともあり、蛞蝓の体にあっさりと刃が突き刺さった。


 無数の触手がニーナに襲い掛かるが……

 ニーナは一切それを気にせず、再び放電した。


 金属を通して、大量の電撃が蛞蝓の体内に侵入する。

 体のほとんどが水分でできている蛞蝓には、電気がよく通った。


 魔力によって作られた電撃は、金属や水分といった物質を通すたびに、『魔力』から『物理』へと近づく。

 ニーナの体内、バスターソード、蛞蝓の体液という具合に物質を経由した電撃による攻撃は、耐魔力だけでなく、耐久力をも大きく削る。

 加えて熱せられた刃は蛞蝓の体液を急速に蒸発させた。


 もっとも、ニーナも無傷とはいかない。

 電撃はニーナから放たれており……つまりニーナの体をも焦がしているのだ。


 無論、ニーナは蛞蝓ほど体内の水分量は多くないし、『雷使い』のスキルを有しているため雷への耐性は高い。

 だが蛞蝓と比べると、耐魔力も耐久力も低い。


 「はぁあああああああ!!」


 朦朧とする意識の中。

 ニーナはひたすら、雷を放ち続けた。


 あるのは蛞蝓への不快感と怒りだった。

 それだけがニーナを立たせていた。


 そして……






 「勝者、ニーナ!!!!」

 

 勝ったのはニーナだった。

心に火が付かず、屈服してたら

「やったね、ニーナちゃん。家族(赤ちゃん)が増えるよ!」

ということになっていました


すべては幸運Aのおかげです

なめくじとの巡り合わせは運命Eですが

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