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第21話 敗北

 「勝者、オーク!!」


 そんな司会兼審判の声を薄れる意識の中でニーナは聞いた。

 そう、ニーナは敗北してしまったのだ。


 ブヒブヒと鳴きながら、オークがニーナに近づく。


 「くそ、……体が、動かない……」


 オークの体液を全身に被ってしまったことで、ニーナは全く動けなくなってしまっていた。

 全身の筋肉が弛緩している。

 同時に妙に体が疼いている。


 これから起こる行為にニーナの体が期待してしまっているのは、否定することのできない事実だった。


 オークは歓喜の声を上げながら、ニーナを抱き上げた。

 そして観客に見せびらかすように、ニーナの衣服を破く。


 白く、美しいニーナの裸体が公衆の面前に晒される。

 ニーナはあまりの恥辱に顔が真っ赤に染まっていくのを感じた。

 

 無論、屈辱の時間はこれで終わりではない。

 むしろ、これからが始まりだ。


 「っく、たとえ、体は屈しても……心は屈しない!!」


 ニーナは叫んだ。

 そして……ついにその時が来た。


 






 「いやぁあああああああああ!!!! あ?」


 いつの間にか、ニーナはベッドの上にいた。

 起き上がり、辺りを見渡す。


 そこはニーナに与えられた個室だった。

 そして目を擦り……自分の頬を軽く叩いて、意識を覚醒させる。


 「えっと、私はオークに敗北……いや、オークには大分前に勝ったな? 確か、昨日戦ったのはスライムで……」


 ニーナはそれに勝利したのだ。

 つまり先程のは……


 「なんだ、夢か……」


 ニーナはため息をついた。

 




 

 早朝、ニーナは頭から冷水を被った。


 「おお、寒い……」


 火照った体が急速に冷まされ、そして意識もはっきりする。

 ニーナはファンから貰った柔らかいタオルで体を拭き、そしてファンから貰った暖かい衣服を身に包んだ。


 「それにしても、あんな変な夢を見るとは……」


 夢の内容を思い出した途端、ニーナは自分の下腹部がキュンとするのを感じた。

 思わず顔を赤くする。


 「お、おのれ、あのセクハラスライムめ……」


 昨日、大量に飲まされたスライム粘液が今でもニーナの体を蝕んでいるのは間違いない。

 

 実際、ポイズンスライムの毒はオークの体液と同様に媚薬の原料となる。

 薄めて使用するのが普通だが……

 ニーナは濃密なそれを、大量に摂取してしまったのだ。



 体がおかしくなってしまうのは当然だった。


 「まあ、良いでしょう。とりあえず、先にステータスを確認しよう」


 ニーナは自分のステータスを開いた。


 

 

 

 

レベル:25


生命力:190+30

旋律力:280+30 

筋力:140+30 

魔力:280+30

耐久力:140+30

耐魔力:280+30



魔力質:A-

魅力:A-

直感:A

理性:B+

幸運:A

運命:E


称号・加護・技能

・格上殺し×2……レベル差分の二倍の数値がステータスに加算される

・打たれ強い疾風の短剣使い+5……短剣装備時、筋力、旋律力、耐久力に+5の補正が掛かる

・打たれ強い疾風の槍使い+5……槍装備時、筋力、旋律力、耐久力に+5の補正が掛かる

・打たれ強い疾風の剣使い+5……剣装備時、筋力、旋律力、耐久力に+5の補正が掛かる。

・雷使い……雷の魔術を使用したとき、使用魔力三割減、威力三割増加、電気耐性三割増加。

・魔物殺し+5……敵が魔物の時、全ステータスに+5

・オーク殺し+2……敵がオークの時、全ステータスに+2

・ゴーレム殺し……敵がゴーレムの時、全ステータス+1

・ヘカトンケイル殺し+5……敵がヘカトンケイルの時、全ステータスに+5

・スライム殺し……敵がスライムの時、全ステータスに+1

・男の敵+5……敵の性別が男性、または雄の時、全ステータスに+5

・腹パン(され)マスター……腹部(内臓)に攻撃されたとき、ダメージ二割減。

・腹パン(される)天才……腹部(内臓)に攻撃されたとき、ダメージ半減。

・露出性癖+10……履いていない時に全ステータスに+10

・被虐性癖+10……性的興奮時、耐久力に+10

・変えられてしまった体+5……全身の感度上昇、性欲増進。全ステータスに+5

・媚薬中毒+5……媚薬摂取時、全ステータスに+5

・戦闘狂+5……戦闘時、全ステータスに+5、および性興奮。

・ゲロイン+5……吐瀉後、全ステータスに+5

・魔力操作……魔力を呼吸するように操作できる

・属性付与……呼吸をするように武器に属性を付与できる

・二重属性付与……呼吸をするように二重属性の付与ができる

・心眼(洞察)……敵の本質を見抜く

・心眼(攻撃)……攻撃時に最適解を導き出す

・心眼(回避)……回避時に最適解を導き出す

・心眼(防御)……防御時に最適解を導き出す





 「……何よ。『媚薬中毒』と『変えられてしまった体』って。そこは毒耐性でしょうが。何で受け入れてるのよ」


 ニーナは相変わらずの自分のステータスに文句を言った。

 しかも『露出性癖』と『被虐性癖』までパワーアップしてしまっている。

 

 「……まあでも、ステータスが上がっているから良いか」


 媚薬中毒。

 変えられてしまった体。

 露出性癖。

 被虐性癖。


 その合計によって、全ステータスが三十も増加している。

 決して悪いことばかりではない。


 なお、一応有用な技能としては『雷使い』と『二重属性付与』が新たに加わっている。

 どちらも技術の技能化による産物だ。


 ニーナがステータスを見ながら一喜一憂していると……


 「あの……ニーナさん、ですよね?」

 「うん? ……あなたはクリスティーネ?」


 そこには以前、ニーナが助けた腹ペコシスターがいた。

 クリスティーネはニーナに駆け寄る。


 「ニーナさん、昨日の試合、観戦させていただきました。その、何というか、お疲れ様です」

 「あ、うん……ありがとう」


 ニーナは少し顔を赤くし、頬を掻いた。

 そして改めて自分が公衆の面前で痴態を晒したことを自覚し、恥ずかしくなった。


 「というか、クリスティーネはどうしてここに?」

 「ここで治癒魔術師として働かせていただくことになったのです」


 そう言ってから、クリスティーネは事の経緯を話す。


 クリスティーネは修行のために放浪の旅をしている修道士であり、治癒魔術師らしい。

 帝都では旅の資金が尽きたことで、行き倒れていたとか。


 「このような場所で、このような非人道的な行為に手を貸すのは……少々不本意ではあります。ですが、ここには怪我や病気で苦しんでいる剣闘士の方たちが大勢います。結果的に悪に加担することになったとしても、それでも私は皆さんをお助けしたいのです」


 「へぇ……」


 何と、ご立派なことだ。

 ニーナはクリスティーネの高潔な精神に感嘆してしまった。


 「自分さえ良ければ後はどうでも良い」と心の底から思っているニーナにはできない発想である。


 「クリスティーネ、あの……」

 「クリス、とお呼びください」

 「あ、うん。えっと、クリスは治癒魔術師なんだよね? 実は少し気になってたことがあって……聞いて良いかな?」


 ニーナが尋ねると、クリスティーネは柔らかい笑みを浮かべて頷く。


 「私に答えられることなら」

 「じゃあさ、聞くけど……治癒魔術師とかってどうやってレベル上げてるの? 敵とか、倒す機会ってあまりないよね?」


 レベルというシステムは、相手を殺すことでその魂を吸収する、ということにある。

 だが完全な裏方である治癒魔術師には敵を殺すチャンスなど早々来ない。

 これではレベルを上げることができない。


 「殺めるだけが、レベルを上げる方法ではありませんよ。ニーナさん」

 「そうなの?」

 「だって、加齢と共にレベルが上がることはあるでしょう?」


 特に生死に関わることがなかったとしても、二十歳までにはレベル3になれる。

 レベルは魂が大きくなれば上がるので、つまり魂さえ大きくなれば、それは戦闘の結果である必要はない。


 「例えば、相手を殺さなくても……それが本気の生死を掛けた殺し合いであったならば、互いに魂が共鳴し合い、魂が成長します」


 「へぇ……」


 「治癒魔術師は治療によって、患者さんの魂に触れます。それによってレベルを上げることができるのです」


 「なるほど……」


 敵を(ころ)すことで経験値を得られる。

 というゲームの先入観に囚われていたニーナにとって、これは目から鱗だった。


 考えてみれば集団戦では大活躍したものの、直接止めはさしていない……

 ということは十分にあり得る。

 これで戦闘に殆ど参加せず、最後に止めだけをささせて貰っただけの人間がすべての経験値を貰うようでは不公平にも程がある。


 「クリスって、年齢はいくつ?」


 ニーナの見立てでは、ニーナとさほど変わらないか、それとも少し上程度だ。

 どちらにせよ若いわけで、その年齢で一人旅をしているのだから、相応のレベルがあると考えても良い。


 「十四歳です」

 「じゃあ、私よりも一歳年上か……」

 「ニーナさんは十三歳なんですか?」

 「ううん、まだ十二。でもあと少しで十三歳になるから」


 ニーナは誕生日を二週間後に控えているのだ。


 (しかし考えてみれば、同年代の女の子と話したのは久しぶりだな……)


 ニーナは少し感慨深い気持ちになった。

 そもそも孤児院にいたころはちょっとした虐めを受けていたこともあり、まともに同年代女子と会話したのは今回が初めてなのかもしれない。

 


 「あの、クリス」

 「ほかに何か?」

 「回復魔術って、教えて貰うことはできる?」


 ニーナはよく怪我をする。

 闘技場専属の回復魔術師は優秀なので幸いにも死には至らず、傷にもならないが…… 

 治療できるのは試合が終わった後だ。


 (試合中に腕を怪我したりして、片腕しか使えないなんて、洒落にならない)


 試合中に傷を癒すことができるようになれば、戦術の幅も広がる。

 ある程度、怪我を許容できるのと、できないのとでは、大きな差がある。


 「えっと……ニーナさんの性質は『聖』ですか?」

 「え? いや……『獣』だけど……」

 「あー、それでは残念ながら無理です」

 

 曰く、回復魔術は性質が『聖』でなければ基本的に習得できないようだ。

 言われてみれば、ゲームでもそんな設定があった。

 

 「そうなんだ……」

 「落ち込まないでください。性質が『獣』ならば、『自然治癒力増加』とか、そういうスキルが手に入りやすいはずです」

 「それは……うん、そうだね」


 言われてみると、思い出す。

 何と、あやふやで役に立たない前世知識なんだろうとニーナは思った。

 もっとも、前世の知識がなければ今、こうしてここに立っていないのだが。


 「じゃあ、怪我をしたらクリスに頼むよ」

 「はい、お任せください。……でもあまり無理はなさらないように」

 「分かってるよ」


 無理をしなければ勝てないんだけどね。

 ニーナは内心で呟いた。






 さて、二週間後。

 丁度、ニーナの十三歳の誕生日の日に試合となった。


 「皆さん、緊急報告があります……なんと、今日でニーナちゃんは十三歳の誕生日を迎えたのです!! 皆さん、祝福してあげてください!!」

 「おおお!!」

 「おめでとう、ニーナちゃん!」

 「十三歳……尊い!!」

 「やっぱりロリって最高だよな!」

 「ついにニーナちゃんも婆になってしまったか……ファン止めます」

 「ニーナちゃん、可愛い!!」

 「結婚して、ニーナちゃん!!」

 「「「ニーナ! ニーナ! ニーナ! ニーナ!」」」


 ニーナは酷く複雑な気分になった。

 何しろ、そんな誕生日の日の試合である。


 ロクな対戦相手では……まあ今までロクな対戦相手など一度もいなかったのだが、今まで以上に変な相手なのは間違いなかった。


 内心でニーナが身構えていると……

 それがついに姿を現す。


 「さあ、記念すべき誕生日のお相手! 二等奴隷昇格を賭けた戦いの相手はこちらです!!」

 「……え、嘘、でしょ? そ、そんな……」


 ニーナは顔を真っ青にさせた。

 それは一見、以前ニーナが戦ったスライムのようだった。


 しかしスライムとは違い、液体ではなく、しっかりとした肉体を持っている。

 だがねっとりとした、粘液を全身に纏っている。


 ゆっくりと、それは二本の触覚を動かしながら地面を這う。


 「ひぃいいいいいいいいい!!! いやぁあああああああああ!!!」


 ニーナは涙目で叫んだ。






名前:なめろう

性別:雌雄同体

種族:催淫触手大蛞蝓

身分:家畜

職業:無し


レベル:35


生命力:500

旋律力:300

筋力:500

魔力:400

耐久力:200

耐魔力:500


魔力質:D

魅力:E

直感:D

理性:E

幸運:D

 



 高さ三メートル。

 横幅二メートル。

 全長十メートル。


 の、毒々しい色をした巨大な蛞蝓がそこにはいた。


敗北(夢オチ)


植物系の触手と動物系の触手のどっちにしようかと思いましたが、ニーナちゃんのメンタルをゴリゴリ削るには動物、とくに不快害虫系が良いだろうと思い、こっちにしました

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