第2話 VS性犯罪者
ついにこの時が来てしまった。
ニーナは緊張した面持ちで、闘技場に立っていた。
丁度、時間は昼頃。
観客たちは無残に負ける美少女を見ようと、弁当を片手に歓声を挙げている。
頭上から照りつける太陽の熱と緊張により、じんわりと体から汗が滲み出るような気がした。
衣服はノースリーブの、ぼろ布を紐で巻いたような、風が飛べば吹き飛んでしまうような代物。
靴などという贅沢なものは履くことはできず、当然裸足。
足首には先ほどまでつけられていた足枷の跡が残っている。
武器は包丁サイズの短剣。
首には十二歳には少し重い首輪が取り付けられている。
「嬢ちゃんには悪いが……俺も死にたくないのでね」
全く悪いと思ってなさそうな様子で、ニーナの対戦相手の男は言った。
ニーナは知っている。
この男はもうすでに二回、ニーナのような境遇の少女と戦い、それを叩きのめしているのだ。
闘技場の勝敗条件は、死ぬか気絶か降参かの三種類。
さすがにそれなりの価格がする奴隷を使い潰すのは勿体ないということか、二回とも奴隷の少女は殺されていない。
ただ、どんなに泣き叫んでも、降参と言っても、審判に聞こえていないフリをされ、気絶するまでボコボコにリンチされるが。
尚、敗北者には『罰』がある。
『罰』の種類は様々だが、奴隷少女の場合は観客参加型の『罰』で、最終的に公開輪姦されるということだけは実際に見せられたので知っている。
敗北を重ね、どこかで強姦されて死ぬか、それとも頭がおかしくなって発狂するか、自殺するかの三択が少女奴隷の末路だ。
ということをニーナの調教係の男はニコニコ笑顔で語ってくれた。
その時は平静を装っていたが、夜は震えて眠れないほど内心では恐怖していた。
「さあ、皆さん! 本日、第四試合を開始します! 挑戦者は奴隷の少女、ニーナちゃんです! お相手は皆さんご存知、女奴隷壊しの称号を持つスクワード!! さあ、ニーナちゃんはどれだけ意識を保つことが……いや、勝つことができるでしょうか?」
思わず敗北前提で語ってしまった……という体で言い直す司会。
何が面白いのかニーナには分からないが、観客には受けたらしく、笑い声が周囲から響く。
「さて、まずは二人のステータスを確認しましょう。まずはニーナちゃんのステータス。えー、レベル:1、生命力:3、旋律力:5、筋力:1、魔力:5、耐久力:1、耐魔力:5、魔力質:A-、魅力:A-
、直感:A、理性:B、幸運:Aとなっておりますね。ふむ、まあレベル1にしてはかなり高い部類なのではないでしょうか?」
レベル1なのに『5』の数値があるのはそこそこ良い部類に入る。
もっとも、だからといって弱いのは変わらない。
「さてさて、スクワードのステータスは……」
司会がスクワードのステータスを読み上げる。
それはニーナを暗い気持ちにするのは十分な数値だった。
レベル:3
生命力:10
旋律力:8
筋力:11
魔力:5
耐久力:10
耐魔力:5
魔力質:C
魅力:D
直感:B
理性:C
幸運:C
低レベルの人間にとって、『1』の差は大きい。
それが『2』となれば、割と絶望的な数字だ。
レベル以外の詳細を見ると、さらに絶望的だ。
例えばニーナの筋力は1だが、スクワードの耐久力は10もある。
まともに傷をつけることができるかすらも怪しいだろう。
逆にニーナの耐久力が1なのに対し、スクワードの筋力は11。
一撃でも食らえば、ニーナは戦闘不能になる。
「ちなみにスクワードは技能に『絶倫』と『女泣かせ』を持っており……おっと、まだニーナちゃんが負けるとは決まってませんね! 皆さん、応援してあげましょう!!」
そう、まだ負けると決まったわけではない。
少なくともニーナは負けるつもりなど、一切なかった。
短剣はまだ抜かず、腰に吊ったまま構える。
その様子を見た司会が、笑いを含んだ声で言った。
「おお! ニーナちゃんはやる気のようです。では、早速始めましょう。……試合、開始!!」
合図と共に、何の情け容赦もなく、スクワードはニーナに向かって棍棒を振り下ろした。
これをニーナは間一髪で避ける。
そして……足で砂を蹴り上げた。
舞い上がった砂がスクワードの目に入る。
「っつ、いてぇじゃねぇぁ!!」
ニーナの予想通り、眼球を鍛えることは無理なのか、それとも難しいらしい。
とにかく、一時的に視界を奪い、そして激昂させることに成功する。
「舐めやがって、クソガキがぁあああ!!」
目を瞑りつつ、怒鳴りながらスクワードはニーナに向かって突進した。
旋律力には『3』も差があるが、こんな大振りな攻撃はニーナには当たらない。
そして男の腕を掴み、スクワードの勢いをそのまま利用し、男を背負い投げた。
勢い+体重+重力がスクワードの背中を襲う。
「けほっ」
スクワードは肺から息を吐きだした。
相当な衝撃だったのか、スクワードの動きが一瞬止まる。
ニーナの狙い通りだ。
ニーナの筋力は1しかない。これではスクワードの耐久力を突破することはできない。
では、どうすれば良いか。
簡単だ。
スクワードの筋力を、攻撃を利用すれば良いのだ。
そして……もう一つ、ニーナの低い筋力でスクワードの耐久力を突破する方法。
それは……
「はぁあああ!!」
ニーナは渾身の力を入れて、白い足をスクワードの弱点――睾丸――に叩きつけた。
蹴りは突きに比べると、高威力を出すことができる。
そして……睾丸は男にとって最大級の弱点。
いくら耐久力がそれなりに高くとも、直撃すれば相応の痛みが伴う。
「ぐぁあああああああああ!!!」
確かな手応えをニーナが感じると共に、スクワードは絶叫を上げた。
痛みにのたうち回るスクワード。
そして……ニーナは追撃の手を緩める気はなかった。
ニーナは短剣を抜き放ち、スクワードの体に飛び込んだ。
「この、クソガキが!!」
スクワードは怒りの声を上げながら、短剣を振り上げて襲い掛かるニーナに反撃を試みる。
二人の攻撃が交錯する。
そして……
ニーナは大きく吹き飛んだ。
「け、ほ……」
ニーナはお腹を押さえ、蹲った。
内臓が破裂してしまったのではないかと思うほどの激痛。
いや、もしかしたら実際に傷ついているのかもしれない。
これ以上、ニーナは戦うことはできない。
「や、った……」
ニーナは朦朧とする意識の中、自分の手に付着した血液を見て笑みを浮かべた。
それはニーナの血液ではなく、スクワードの血液だ。
ニーナはスクワードの方へと視線を移す。
スクワードの喉には短剣が突き刺さっており、そこから血液が溢れ出ていた。
しばらくの間スクワードはのたうち回っていたが……やがて動かなくなった。
同時に、ニーナは自分の中にスクワードの命が取り込まれていくのを感じた。
レベルが上がった。
どれほど上がっているかはステータスを確認しなければ分からないが、レベルが上がったという事実だけは確かに自覚できた。
「しょ、勝者……に、ニーナ!!」
司会が困惑した様子で、しかし最後には驚きを振り切るように大きな声でニーナの勝利を宣言した。
シーンと静まり返る観客席。
そして少し遅れて……沸き起こる歓声と拍手、賛辞。
「おおお!! 凄いぞ、奴隷ちゃん!!!」
「二つもレベルに差がある相手を倒すなんて!!」
「やるじゃねぇか!!」
「ピンクちゃん、すげぇぞ!!」
「よっしゃあああ!! 賭けに勝った!! ニーナちゃん、愛してる!!」
「「「ニーナ、ニーナ、ニーナ、ニーナ!!」」」
何という、都合の良い連中だろうか。
ニーナは思わず苦笑いを浮かべてしまった。
そして……意識が暗転した。




