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第1話 記憶というよりむしろ記録

 ニーナは捨て子だ。

 孤児院の目の前に捨てられていたのを発見され、そしてその孤児院で育てられた。


 ニーナはあまり人付き合いが得意な質ではなく、また変わった桃色の髪を理由に虐められていた。

 一応育てて貰ってはいたが、腫物扱いだったこともあり、いつしかニーナは「世の中、そんなものか」という諦めに似たような感情を抱くようになった。


 さて孤児院というのは必ずしも慈善団体であるとは限らない。

 ニーナのいた孤児院は人身売買に関与していたようで、容姿がそこそこ良かったニーナは十二歳の誕生日と同時に高値で売却された。


 大概、容姿の良い奴隷は娼館に売られるのが普通なのだが……

 運の悪いことにニーナが売られた先は、『闘技場』であった。


 闘技場で戦う者は剣闘士と呼ばれており、人によっては高給取りだったりする。

 が、残念ながらニーナは奴隷であり、しかも十二歳の少女だ。


 ニーナが勝つ見込みがないのは明確であり、つまりニーナに求められているのは観客を喜ばせるための「やられ役」である。


 容姿の綺麗な少女が、リンチされたり、動物に貪り食われる様をみたいという帝都市民の欲求のための、政府による市民への人気取り政策のための、名誉ある生贄。


 それが五等(最底辺)奴隷ニーナだ。


 さて、もう死ぬことが決まっているようなものではあるが、運営側としてはニーナにある程度抵抗して欲しいらしい。

 そこで短い時間ではあるが武器や体術などを教え込まれることになったのだが……


 まあ、死ぬことが決まっているのにも関わらず、そんなことにやる気など出るはずもない。


 そんなやる気のない、反抗的な奴隷は躾ける必要がある。

 そう、愛など一切込められていない、拷問用の鞭で、だ。


 そんなわけで刑罰に用いられるような、打ちどころ次第では人が死んでしまうような鞭で強く背中を打たれたニーナは、その日の夜激痛に苦しみ、一睡もできないという地獄を味わう羽目になった。


 が、鞭打ちはニーナに悪い結果だけを齎したわけではなかった。

 むしろ、ニーナに非常に良い結果を齎してくれた。


 (まさか、ここがゲームの中の世界だったとは)


 そう、ニーナはおぼろけではあるものの前世を思い出したのだ。

 鞭で強く打たれた瞬間、記憶が蘇ったのだ。



 前世のニーナはどうやら、日■という国に生まれたらしい。

 名前は■■■■。

 性別は■性。

 家族は■と■、そして■が■人。思い出どころか、顔や性格も思い出せないが。


 自分の前世の出身国や名前、性別、家族すら虫食いだらけの記憶であるが……

 しかしどういうわけか、『知識』だけは鮮明に覚えていた。


 何の職業をしていたのか、それとも趣味だったのかは分からないが、前世のニーナは相当な格闘技好きだったらしく、様々な武術を身に着けていた。

 それだけでなく、世界中の格闘家と様々なルールで戦っており……

 何と、戦った相手にはライオンやクマまでいた。

 正直、ドン引きするレベルの戦闘狂である。


 そしてもう一つ。

 前世のニーナはあるゲームをプレイしていた。

 なぜ、格闘好きの戦闘狂がゲームなどをしていたのかはニーナは分からない。

 まあ、たぶん怪我か何かで引退でもしたのだろう。

 クマやライオンなどと戦ってれば、後遺症が残りそうな怪我の一つや二つ、負ってもおかしくない。


 そのゲームはレベル制のあるバトルゲームだった。

 というか、ニーナにとっては『レベル』という概念があるのは当然のことなのだが、ニーナの前世の世界には『レベル』というのは基本的にフィクションの世界だけだ。


 絶望し、何もかも諦めていたニーナにとって、この前世の記憶は僥倖だった。

 前世の自分が培った『戦闘技術』と、そして『ゲーム(この世界)の知識』。


 この二つがあれば、もしかしたら……


 生きられるかもしれない。


 (見ず知らずの、よく分からない他人の記憶、いや『記録』だけど、有効活用させて貰おうかな)


 ぶっちゃけ、前世と言ってもニーナには全くもって実感の持てない話だ。

 ニーナにとっては世界と言えば、この世界のことであり、そして異世界は日■の方である。

 

 「……どうせ寝れないし、ステータスでも確認しようかな」


 背中が痛くて横になれないニーナは、一先ず自分のステータスを確認してみることにした。





名前:ニーナ

性別:女

種族:人間/????

職業:剣闘士

身分:五等奴隷


レベル:1


生命力:3

旋律力:5

筋力:1

魔力:5

耐久力:1

耐魔力:5


魔力質:A-

魅力:A-

直感:A

理性:B+

幸運:A


称号・加護・技能


無し

 




 びっくりしちゃうくらいの低ステータスに、ニーナは今更ながらクラクラした。

 もしかしたら生きることができるかもしれない!

 からの、この絶望的なステータスというのはあまりにも落差が大きすぎる。


 

 さて、まずニーナはゲームに於ける設定と、ニーナが知る限りの常識を照らし合わせて考えてみることにした。


 まずは変動値と呼ばれる、六つの数値。

 生命力、旋律力、筋力、魔力、耐久力、耐魔力だ。


 基本的にこの六つの数値はレベルの上昇に伴い、成長する。

 故に変動値である。


 レベルは生き物を殺し、魂を取り込むことによって上昇するが、精々虫くらいしか殺したことのないニーナは残念ながら1でしかない。


 生命力はゲームではスタミナに近い扱いだった。

 つまり継戦能力を示している。ただ、生命力という記述を見る限り、怪我や病気に対する回復力なども兼ねていると考えた方が良いのかもしれない。


 旋律力はゲームでは所謂『素早さ』であり、先手か後手かを決める要素だが……

 当たり前だがニーナのいる世界は現実なので、『ターン』という概念はない。

 

 筋力は『攻撃力』を示していたが、文字通り筋肉量の平均、または総合値と考えた方が良い。


 魔力はMP、つまり魔力量。

 耐久力は防御力で、耐魔力は魔法に関する防御力。


 まあ、そんな感じで良いだろう。

 魔力質、魅力、幸運については一先ず省くことにする。


 (でも、ステータスはあまり信用しない方が良いのかな)


 例えば筋力だが…… 

 全身に均等に筋力がついている人間など、存在しないだろう。

 それを一くくりに「1」と定義しているわけだから、かなり怪しい数値だ。


 それにこの世にはステータスに現れない物が存在する。


 それは例えば頭の良さだったり、体を動かす才覚。

 そして武術などの技術である。


 (この世界では技術は軽視されているから、それが糸口になるかもしれない)


 前世の世界とは違い、『レベルを上昇させてステータスを上げる』という強くなるための方法がはっきりとしているのがこの世界の特徴だ。

 

 故にこの世界では剣術や格闘術などは、小手先の技術と見做されている。

 そんなものを磨く暇があったら、少しでもレベルを上げる努力をした方が良いというのが常識だ。


 無論、ニーナもそう思っていた。

 今は……違う。


 (ステータスが低い分、技術で補わないと……)


 小手先だとか、そんな贅沢を言っている場合ではない。

 生死が掛かっているのだから。


より詳しい説明


生命力……文字通り、『生命の力』つまり体力。怪我などをしたときにこの生命力が高いと怪我の治りが速くなる。また、大怪我を負った時に生命力が高い方が死ににくくなる。生命力が非常に高ければ、生首だけになってもある程度の間は生きることができる(無論、死ぬときは死ぬ)。HPのようにゲージが減るわけではない。命、魂の耐久性のようなもの。


旋律力……『素早さ』とニーナは説明したが、厳密には行動速度ではない。旋律力がどんなに高くとも、足に筋力がなければ移動速度は遅くなる。旋律力は主に反射速度や咄嗟の判断能力などを現す数値。


筋力……その名の通り、筋力。いわゆる攻撃力だが……筋力が多ければその分移動速度も上がる。つまり同時に素早さも兼ねる。某国民的漫画では筋肉が膨れ上がると速度が落ちる云々というのがあるが、この『筋力』が上がっても速度が落ちることはない。むしろ上がる。速さはそのまま力になる。


魔力……魔力の()を示す数値。()というからには、つまり質を示す数値は別にある。量は多ければ多いにこしたことはないが、質が悪いと高燃費になる。


耐久力……物理的(・・・)な耐久性。直接殴られたり、剣で切られたりするのは無論、物理現象としての炎などに触れた時に、怪我や火傷を軽減、場合によっては無効化する。


耐魔力……魔法的(・・・)な耐久性。こちらは魔力によってもたらされた現象を軽減、無効化する。ちなみに「魔力を使って、石ころを飛ばす」攻撃をした場合、運動エネルギーそのものは魔力ではあるが、あたった石ころそのものは物理的なものなので、その場合は耐久力に換算される。


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