第14話 VSヘカトンケイル
ふと、ニーナは思った。
これだけ体が大きいの、ナニも相応にデカいのではないかと。
ニーナは恐る恐る、ヘカトンケイルのナニを確認する。
(oh……)
これ、人の中に入ったら死ぬんじゃね。
というレベルのものがそこにあった。
しかも二本。
ヘカトンケイルのお相手はヘカトンケイルさんにしてもらいたいなと思うニーナだが、ヘカトンケイルはニーナとする気満々のようで、涎をだらだらと垂らしながら、臨戦モードに入っている。
調教師が攻撃の合図を出したら、すぐにでも襲い掛かってきそうだ。
「……やるしかない」
確かにステータスには七、八倍の差がある。
これほどまでに差がある相手と戦ったのは初めてだ。
しかしニーナは実戦経験を重ねており、その実力は以前よりも大きく伸びている。
攻撃手段も初戦の頃より多い。
「やってやる……」
絶対に奴隷身分から抜け出してやる。
ニーナはそう思い、槍を構えた。
「おお、ニーナちゃんはやる気十分のようです! では……始め!!」
試合の開始を合図するゴングが鳴る。
するとヘカトンケイルは強く地面を蹴り、一瞬でニーナに肉薄した。
(早い!)
ニーナは最小限の動きでヘカトンケイルの拳をかわす。
筋肉が多い分重くなり、動きが遅くなる……という理論はヘカトンケイルには通用しない。
反応速度を示す旋律力、そして筋力値も高いヘカトンケイルはニーナよりも動きが速い。
常に相手の攻撃を予測し、攻撃を避ける。
一瞬でも気を抜けば、それが命取りとなる。
ヘカトンケイルとの試合はそういうものだった。
(っく、どこかのタイミングで反撃したい……)
しかし腕が六本あるというのは中々厄介だ。
攻撃の間の間隙がその分少ない。
加えてヘカトンケイルは体が大きい分腕も長く、槍を持っているニーナよりもリーチが長い。
(仕方がない、少し賭けになるけど……)
リスクを冒さなければ勝てない。
そう考えたニーナは全力で魔力を槍と全身に流す。
そしてほんの一瞬、僅かな隙を突く形で槍をヘカトンケイルの顔面に向かって投擲した。
ニーナはヘカトンケイルから見て右斜め下にいたため、槍は斜め方向から真っ直ぐ突き進んだ。
高濃度の魔力を帯びた槍はヘカトンケイルの右中段の腕を貫通し、そして左目を切り裂いた。
「■■■■■■!!」
槍の中に含まれていた風の魔力が暴発し、ヘカトンケイルの右中段の腕を内部から破壊した。
ニーナは痛みに悶えるヘカトンケイルに肉薄し、長剣を抜き放った。
魔力を纏わせ、ヘカトンケイルの表皮を切り裂く。
分厚い肉を切り裂くことはできなくとも、僅かな表面を切り裂き、そこから風を送り込むことで傷口を広げ、出血を強いることは可能だった。
ヘカトンケイルは鬱陶しい敵をどうにかして捕らえようとするが、中々捕らえられずにいた。
(やっぱり、懐に潜り込まれると痛いのね)
狙い通りに行き、ニーナはほくそ笑む。
ニーナはヘカトンケイルと比べると非常に小さく、その身長は頭が臍の部分にギリギリ届くか届かない程度しかない。
そのためヘカトンケイルの長く、そして数の多い腕では、懐に潜り込まれると逆に攻撃しにくいのだ。
「■■■■■■!!」
拳で攻撃できないなら、蹴り上げればいい。
ヘカトンケイルは唸り声をあげ、その丸太のように太い右足を大きく蹴り上げた。
ヘカトンケイルの足の動きを常に注視していたニーナにとって、それを避けるのは容易かった。
そして……ヘカトンケイルが蹴りを放ったことは、ニーナの計算通りであった。
ニーナは蹴りを避けながらバスターソードを持ち替えた。
本来手で持つ『握り』ではなく、『刃』の部分を両手で持つ。
元々長剣を武器に選んだ段階で、この持ち方を想定していたニーナは分厚い手袋をしていたため、手が切れるようなことはない。
そしてニーナは大きく剣を振りかぶり……
ヘカトンケイルの左足を剣の柄の部分で強打した。
脛、いわゆる『弁慶の泣き所』の部分を重い金属で打たれたヘカトンケイルは悲鳴を上げた。
すでに右足を蹴りとして放っているため、ヘカトンケイルは左足を動かすこともできない。
抵抗も反撃もできないヘカトンケイルに対し、ニーナはさらなる追撃を試みる。
剣を大きく振り上げ……ヘカトンケイルの左足の小指を目掛けて振り下ろした。
さすがのヘカトンケイルも小指はさほど丈夫ではない。
強烈な一撃はヘカトンケイルの小指の骨にヒビを入れるのに十分だった。
ヘカトンケイルは右足を戻し、左足を腕で抱え上げた。
あまりの痛みに我慢できなかったのだ。
無論、ニーナは容赦するつもりはない。
蹲ろうとする動きを見せるヘカトンケイルの右足の脛を、先ほど左足にやったのと同様に剣の柄で殴りつける。
続けて、先ほどと同様に右足の小指を柄で強打する。
「■■■■■■!!」
両足の痛みに混乱したヘカトンケイルは、すでに左足を両手で抱えているのにも関わらず右足を抱え込もうとし、結果として大きく背中から倒れ込んだ。
ニーナはバスターソードの柄で、無防備になったヘカトンケイルのある部分を上から殴りつけた。
そう……ヘカトンケイルの睾丸だ。
「■■■■■■!!」
ヘカトンケイルの口から泡が溢れる。
尋常じゃない悲鳴を上げるヘカトンケイルと、バスターソードから伝わる感触から、ニーナは確信を抱いた。
(潰れた!)
睾丸は精巣という、立派な内蔵だ。
つまり睾丸が潰れるということは内臓が破裂したということであり……それは十分に人を、生き物を死に至らせることができる。
意識を朦朧とさせているヘカトンケイルに対し、ニーナは冷静に剣を持ち替えた。
そして止めの一撃と言わんばかりにヘカトンケイルの忌々しい陰茎を切り裂いた。
股間を強打されたことでヘカトンケイルの陰茎はすっかり萎縮し、柔らかくなっており……
これを切断することは容易だった。
鮮血が溢れ出る。
「ふぅ……」
ニーナは動かなくなったヘカトンケイルを見下ろし、ホッと一息ついた。
睾丸を潰し、さらに陰茎まで切断した。
後は大量出血で勝手に死ぬだろう。
(よし、これで三等奴隷だ!)
解放まで一歩近づいたことにニーナは喜んだ。
そして……一瞬、気を緩めた。
ニーナは気付くべきだった。
まだ、審判と司会がニーナの勝利を宣言していないことに。
気付いた時にはニーナは空中にいた。
「……え?」
地面に背中から落下し……
遅れて強烈な吐き気と痛みに襲われた。
「うっつ、おうぇ……」
胃の中の物を吐き出すニーナ。
その吐瀉物には大量の血液が混じっていた。
「な、何が……」
すぐ目の前にはヘカトンケイルが迫っていた。
状況は理解できなかったが、ニーナはとっさに地面を転がり回ることでヘカトンケイルの攻撃から逃れる。
そして痛む体に鞭を打ち、どうにか立ち上がった。
「ど、どうして……」
ニーナはヘカトンケイルの股間を確認する。
そこからは未だに血液が溢れ出ていた。
確かに攻撃は通っている。
「ま、まさか……技能?」
ニーナの脳裏にある技能が思い浮かんだ。
『起死回生』
致命傷を受けた時に発動するスキルだ。
効果は『一時的に延命すると共に、全ステータスを大幅に上昇させる』というもの。
見た限り、それだけでなく痛みすらも一時的に取り除くようだ。
「こう、なったら……」
逃げるが勝ち。
ニーナはヘカトンケイルに背を向けて、全速力で逃げた。
小指の痛みは感じていないらしく、ヘカトンケイルも全速力で追ってくる。
ニーナはあっという間に壁際に追い込まれる。
「ええい! こうなったら、かかってこいや!!」
やけくそ気味にニーナは叫んだ。
それに答えるかのようにヘカトンケイルはニーナの頭を握りつぶそうと、拳を繰り出してきた。
ニーナはそれを間一髪で避け、そしてぽたぽたと血を垂れ流しているヘカトンケイルの股間の間を転がるように潜り抜ける。
「これでもくらえ!!」
そしてバスターソードをヘカトンケイルの肛門に差し込んだ。
しかしそれでもヘカトンケイルは倒れない。
ニーナに向かって後ろ蹴りを放つ。
ニーナは後ろに飛び退くことでダメージを受け流そうとするが……
「おうぇ……」
しかし如何にダメージを受け流し、そして体に魔力を纏うことで防御力を底上げし、そしてスキルで腹部への攻撃を弱めようとも……
ニーナの貧弱な耐久力と、ヘカトンケイルの強化された筋力では差があり過ぎる。
「げほ、げほ、おうぇ……う、っぐ、おうぇ……」
血の混じった吐瀉物を地面に吐き出す。
最初に受けた腹へのダメージも重なり、ニーナは動けなくなった。
それでもその目には強い意志を宿していた。
短剣を引き抜き、動けないのにも関わらず両足で立ち上がり、ヘカトンケイルを睨んだ。
そしてどういうわけか、その表情には笑みが浮かんでいた。
それは自暴自棄の笑みにも見えたし、見方によってはこの状況を楽しんでいるようにも見えた。
そんなニーナにゆっくりとヘカトンケイルは近づき……
そして倒れた。
静まり返る闘技場。
そして……
「勝者、ニーナ!!!!」
ニーナの勝利が決まった。
それと同時にニーナは倒れた。
本当は敗北させたかったんですが、ここはぐっとこらえました
面白いと思って頂けたら、ptとブクマ等を入れていただけると嬉しいです
評価項目のところをクリックするだけで、作者のモチベーション向上に役立ちます




