おむすび屋、虎さん。 第21話 ひと粒の涙、ひとくちの未来
その夜、屋台にひとりの青年がやって来た。
まだ若く、旅装束のまま、どこか急いでいるような足取りで。
> 「……おむすびを、ひとつ。ひとくちでいいんです」
ルゥナが驚いて見上げると、青年の目は少しだけ濡れていた。
> 「できれば、優しい味がいい」
虎さんは黙って頷き、炊き立てのご飯をそっと手に取った。
選んだ具材は――さけのほぐし身。
ふんわりと炊き上げた鮭を、ほんの少しの醤油と酒で香ばしく仕上げ、
炊き立てのご飯で、ふわりと包む。
包み込むように握る。それはまるで、誰かの背中をそっと支えるような動きだった。
> 「はい、“ひとくち”のおむすびだ」
小さく、指先ほどのむすび。
青年はそれを手にとると、深く頭を下げて、その場を去ろうとする。
> 「……ありがとう。これで、前に進めそうな気がします」
◇
翌朝、村に届いた報せ。
> 「あの子、村長の息子さんなんだってさ。
村を出てからずっと連絡もなくて、心配されてたみたい。
……でも、今朝、村長の家に“おむすびと手紙”を置いていったんだとよ」
手紙には、こう書かれていたという。
> 『父さん母さん、ごめんなさい。
俺、ちゃんと歩いていくよ。
あの味が、もう一度心に灯ってくれたから』
◇
「むすびってのは、腹を満たすだけじゃない。
気持ちを、誰かに“つなぐ”もんなんだよな」
虎さんの言葉に、ルゥナは頷いた。
> 「小さくても、心に届く味ってあるんだね……」
> 「ああ、ある。ほんのひとくちで、未来を変える力がな」
ほんのひとくちの温もりが、
迷いを晴らし、背中を押す。
それもまた、おむすびの魔法。




