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おむすび屋、虎さん。 第20話 思い出のむすびと、ありがとうの味



「今日は、風が気持ちいいなあ……」


草原の丘に、ぽつんと屋台がひとつ。

虎さんとルゥナは、青空の下でおむすびの準備をしていた。


ふと、老夫婦が通りかかる。

腰を曲げた男と、背中に編み籠を背負った小柄な女。


> 「よかったら、ひと休みしてってくださいな」




ルゥナの声に、老夫婦は驚いたように笑った。


> 「まあまあ、おむすび屋さんなんて、珍しいこと」





ふたりは長旅の途中だった。

昔、一度だけ訪れた草原を“もう一度見に来た”のだという。


> 「若いころ、わたしが夫に作った“初めてのお弁当”が、ちょうどこの丘だったのよ」




> 「中身は何だったかって? ふふふ、梅干しと高菜のおむすびだけ。でもな、それがいちばん旨かったんだ」




> 「今でもあの味が忘れられなくてねぇ」




虎さんは小さく笑った。


「……じゃあ、再現してみましょうかね。

今日は“記憶のむすび”じゃなく、“ありがとうのむすび”を握らせてもらいますよ」



梅干しは塩気を和らげるように少しだけ焼き、

高菜は刻んで、ごま油で軽く炒めてから混ぜご飯に。


ご飯は少し硬めに炊き、冷めても崩れぬようしっかりと結ぶ。


老夫婦の目の前で、虎さんはふたつのむすびを、丁寧に包んだ。


> 「さあ、どうぞ。

あの頃と、変わらない味になっているかどうか……お確かめください」





一口、二口。


老夫婦は無言でむすびを噛みしめ、

やがて笑った。涙を浮かべながら、穏やかに。


> 「……まるであの日に戻ったみたい。

あなた、きっと“時間”までむすんでくれたのね」




> 「ありがとう、虎さん……ありがとう」





風が吹いた。草原が波のように揺れる。


ルゥナはその背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。


> 「“ありがとう”の味って、あるんだね……」




虎さんは答えた。


> 「あるさ。心から出た“ありがとう”は、ちゃんと味になる」






記憶だけでなく、感謝もむすぶ。

それが、おむすびの不思議な力。






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