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おむすび屋、虎さん。 第19話 よろず屋の少年と、忘れられた味噌



「こっちの通りに、昔からあるよろず屋があるんだ。けどな……」


村の老人は、声を潜めて言った。


> 「あそこの坊主、ずっと笑わねえ。あれは、何かを忘れてる顔だ」




虎さんとルゥナはその“よろず屋”を訪れた。


がらがらと戸を開けると、埃っぽい空気の中に、くたびれた棚と不機嫌そうな少年がいた。


> 「……買うもんあるの? ないなら帰って」




> 「味噌は置いてあるか?」




> 「古いやつしかねぇけど……」




そのとき、ルゥナがつぶやいた。


> 「……なんか、懐かしい匂いがする……」




棚の奥にあった木樽。

中に残っていたのは、表面が乾ききった、古くて小さな“自家製味噌”。


> 「あれ、お前が作ったのか?」




> 「は? 俺じゃねぇよ。母さんが作ってた。もう……何年も前にいなくなったけど」




> 「じゃあ、これは母さんが残した“味”だな」




少年はふてくされていたが、虎さんは黙って味噌を少しだけもらい、屋台へ戻った。



炭火の上で味噌を練り、香ばしく焼き、白米に混ぜて、むすびにする。

香ばしさと塩気が絶妙に合い、握っている間にも、手のひらから優しさが伝わるような感覚があった。


「――よし、持っていくか」



翌朝、よろず屋の前で少年にむすびを手渡す。


> 「は? なんだよ、これ……」




> 「母ちゃんの味、忘れたって言ってたな。だったら思い出せ」




少年はむすびをじっと見つめ、黙って一口。


……次の瞬間、はっと目を見開いた。


> 「……あ……これ、俺が……まだ、小さかったころ……

 母さんが、“手が汚れてもいいから食べなさい”ってくれてたやつだ……」




> 「味噌の焦げが、ちょっと苦くて、それでも……旨かった」




少年の目に、涙が浮かぶ。


> 「……思い出した……母さんが、“これでお腹がいっぱいになるのよ”って……」




虎さんは静かに言う。


> 「記憶は食べ物といっしょに刻まれる。味が心を呼び起こすってのは、本当のことだ」





少年は、その日から少しだけ口数が増えた。

よろず屋の棚に、あの“味噌のむすび”が並ぶのも、そう遠くはないだろう。



---



忘れていた母の味。

焦げた味噌の香りが、冷たかった心を少しだけ溶かす。

それは、過去を思い出す“鍵”のような、優しいむすびだった。






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