おむすび屋、虎さん。 第18話 ルゥナ、むすぶ。初めてのおにぎり
「今日は、あたしが握ってみる」
静かな夜の屋台。
虎さんが風邪で寝込んでしまった夜、
ルゥナはひとり、かまどの火を前に立っていた。
湯気の上がる羽釜。
ぱち、ぱちと炭の音が耳に心地よい。
> 「……こんなに、難しいんだ」
虎さんのように上手くは握れない。
手のひらにくっついた米粒に、戸惑いながらも、ルゥナは少しずつ形を整える。
◇
そんなとき、屋台に影が差す。
「……まだ、やってるかい?」
現れたのは、若い旅の女性だった。
薄い外套をまとい、肩で息をしている。
「ご、ごめんなさい、今日は虎さんがいなくて……。でも、あたしでよければ!」
そう言って、ルゥナは最後まで迷っていた“具材”を取り出す。
それは、今日の朝、虎さんから教わった「卵のそぼろ」。
> 「これ……優しい味って言ってた。
じゃあ、きっと、今のあなたにも合うと思う」
言葉より先に、むすびを差し出す。
旅の女性は驚いた顔をし、ゆっくりと口に運んだ。
> 「……あっ……なつかしい」
> 「え?」
> 「幼いころ、母が作ってくれたお弁当。毎週、遠足でもないのに持たされてたの。
“誰にでもご飯を分けなさい”って言って……変な親だって、思ってたのに」
女性の目に、涙が浮かぶ。
> 「……でも、あの人の気持ち、今ならわかる気がする。
あなたも、そうやって誰かに“結んで”るんだよね」
ルゥナは、思わず恥ずかしそうに笑った。
> 「……うん、あたしも、虎さんに教えてもらったから」
◇
その夜、虎さんの寝床にそっと一つのむすびが置かれていた。
小さくて、少しいびつで、でもどこか温かい。
虎さんは目を細めながら、それを見つめる。
> 「……お前も、握れるようになったんだな」
◇
翌朝、ルゥナは嬉しそうに言った。
> 「あたし、もっと練習するね!
今度は“誰かの記憶”じゃなくても、心に残る味を作れるように!」
虎さんは照れ隠しのように、むすびを一口かじりながら答えた。
> 「……十分、うまかったぞ」
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誰かのために握る。
それは、思いやりであり、祈りであり――未来へ向けた約束。
ルゥナは初めて、自分のむすびに“想い”を込めた。




