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おむすび屋、虎さん。 第17話 幻の米と、最後の一粒



「この先に、炊いてはならぬ“禁米”がある村がある」


旅の途中、そんな噂を耳にした虎さんとルゥナは、深い霧に包まれた山あいの村を訪れた。


村の名前は**〈幽籟ゆうらい〉**。

そこでは、数十年に一度しか収穫されない“幻の米”があるという。


だが、村人たちはその米を一切口にしない。

炊くことも、食べることも、触れることさえ――“祟られる”と恐れていた。



「これは……見た目は、普通の白米と変わらん」


虎さんは供物殿に置かれていた壺の中を覗き込む。

中に眠っていたのは、真珠のように白く輝く小さな米粒。


> 「これは“雪虚米せっきょまい”と呼ばれています」




村の巫女が語る。


> 「これは、“死者に喰わせる米”。生者が口にすると、夢と現の境が曖昧になるのです」




> 「それで、誰も食わないまま……祀ってるのか」




> 「でも、村には“一粒だけ炊いてよい日”があると伝わっています。

それは“忘れられた者が帰ってくる夜”。……今宵が、その夜です」





その夜、虎さんは火を起こし、小さな羽釜に水を張った。

静かに、そっと――“一粒だけ”の雪虚米を入れる。


炊き上がると、米は銀のように光を放ち、夜の空気が震えた。

その炊き立てをそっと握り、小指ほどの“むすび”が出来上がる。


> 「おむすびってのは、“人と人を結ぶもの”だ。

だったら、死者だろうが記憶だろうが、握ってつなげてやる」




村の広場にむすびを置く。

すると――


霧の中から、一人の少女が現れた。


> 「……おかえりなさい。お姉ちゃん」




巫女は震える手で、むすびを掴む。

そして、その場に崩れ落ちた。


> 「……ずっと……会いたかった……あの日、先に逝かせてしまって……」




白い霧の中、少女の姿はふわりとほどけ、月明かりに溶けていった。



翌朝。


村人たちは初めて、禁じられていた“雪虚米”を一粒ずつ握り、

亡き人に、むすびを捧げたという。


それは“供える”のではなく、“結ぶ”ためのむすび。


> 「味はどうだった?」




巫女は微笑み、涙を拭いながら答える。


> 「……少し甘くて、あたたかかった。……まるで夢の味でした」




虎さんは、夜の霧を見つめて呟いた。


> 「人の記憶ってのは、時に禁じられても……それでも、呼ばれちまうんだな」





---



一粒の米に込めた想いは、時を越え、命を越えて、誰かに届く。

それが“むすび”の本当の力かもしれない。





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