表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

おむすび屋、虎さん。 第11話 海辺の姉弟と、昆布の記憶



アサヤの港町は、海風と陽射しがまぶしい場所だった。


波止場にはカモメの声が響き、浜辺には干された網と魚の匂いが漂う。

そんな場所に、今日から屋台《おむすび屋、虎さん。》は店を構えることになった。


> 「ここ、魚も豊富だし……きっと、いい具材が手に入るよ」




ルゥナが収納袋を覗きながらそう言った。

その袋の中には、今日も不思議な品が入っていた。


――干し昆布。甘辛く炊いたもの。

――細切りにされた人参。

――小さな帆立の貝柱。


「よし、今日は“海のおむすび”でいくか」


◇ ◇ ◇


開店してすぐ、一組の姉弟が店先にやってきた。


姉は長い黒髪を後ろに束ね、痩せた体に大きなマフラーを巻いている。

弟は少しぶっきらぼうな目つきで、姉の手をずっと握っていた。


> 「……おむすび、ひとつ……ください」




姉がかすれた声でそう言った。


> 「姉ちゃん、ムリすんなよ……」




弟がそう言いかけたのを、彼女はやさしく止める。


> 「あたたかい匂いがして、食べたくなっちゃったの」




俺は黙って頷き、昆布と人参、そして貝柱を混ぜた“海の炊き込み”を握った。


ふわりとした塩の香りに、昆布の甘みが絡む。

それを受け取った姉は、目を閉じて一口――


> 「……あ……」




手が止まり、しばらく動けなくなった。


> 「この味……昔、よく作ってくれたの。父さんが」




弟の目が見開かれた。


> 「……覚えてるの? 姉ちゃん」




> 「うん……お父さん、港の番人でね。仕事帰りに、よく昆布を炊いてくれたの……」




彼女の目に、涙がにじむ。


> 「もう、あの頃の記憶は夢みたいに曖昧で……でも、この味だけは、体が覚えてたみたい」




弟は小さくうなずいた。


> 「……よかった。姉ちゃんが、思い出せて」




> 「……君が連れてきてくれたんだよ。ありがとう」




俺は、空を見上げながらそっと言った。


「味ってのは、体の奥に眠る“鍵”みたいなもんだな。開けるのは、いつも“誰かの手”さ」


姉弟は肩を寄せ合って、波の音の中に立っていた。


その姿は、風に揺れる小舟のようで――

だが確かに、同じ岸を目指していた。



---



昆布の甘みは、やさしい記憶の味。

鍵となる味が心を開けば、忘れていた“家族”の風景が戻ってくる。

握られたむすびが、またひとつ、絆をつなぐ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ