第20話 最高神、語り部を制す
「まさか、あいつが味方だったなんて思わなかったよう」
「バロッ、テネブリッ、バッジョーッ……」
天地のひっくり返るような悲鳴をあげてぶっ倒れましたヘラ女神、さて彼女は一体、何を目にしたのでしょうか。
そうです、正解です、物分かりのよろしい読者さんがた。
まさに、あなたがたの予想した通り、ヘラ女神が目にしたものは、「死によってその魂が抜けて硬直し、一時的に以前に増して恐ろしい形相となったメドゥーサの首」だったのです。
「え、あれ……? どうしちゃったの?」
困惑する勇者ペルセウス。その足許をヘルメス神がかすめ、神々ですら見るに堪えないほどのメドゥーサの首をさらっていきました。
「あれ、ヘルメっち。たしか君は、あすこで野獣に襲われてたはずじゃ?」
「だーれが野獣じゃいっ」
さすがはヘファイストス神。磨きのかかったダミ声でのツッコミは、ベテラン芸人そのものです。
「黙りゃっしゃい、語り部っ」
ごめんごめん。でも……、
私が黙ったらお話が進んでいきませんのでね。そうなったら、あなたがた登場キャラクターはみんな、ここで気絶している哀れなヘラ女神のように固まって、一歩たりとも動けなくなっちゃいますのでね。
もっとも、石になったわけではないので、ヘラ女神はいずれ動けるようになるとは思われますが、それもまあ、語り部である私次第でございましょうね、へっへっへ。
と、語り部である私が調子に乗っておりますと……
「おい、語り部。調子にのるなよ、コンチキショー」
六・七・五音という字余りのフレーズで私を脅してきたのは、まぎれもなく、最高神ゼウスその人だったのでありました。ひええーっ……、でございます。
「よくぞやってくれた、忠実なるヘファイストスよ。それにヘルメス、見事だったぞ、HNナンバー30、ザ・ミガワリ。あれを使いこなし、ヘファイストスの言に従い、我が妃ヘラに気づかれることなくすんなりとあの場を離れるとはな。……おい、語り部」
はい、なんでしょう。
「先を続けろ」
は、ははあ……、オーセの通りに。
こほん。
第18話で、ヘファイストス神が最高神ゼウスについて、「ヘラ女神の策略でダナエにうつつを抜かし、使い物にならんようになっている」という説明をしましたでしょう。しかし、あれは真っ赤な嘘だったのでございます。私は語り部という立場上、ヘルメス神のように嘘を吐くのはあまりよろしくないかと思いまして、事情を知っているヘファイストス神にお任せした、というわけなのです。
ヘファイストス神は、表向きは母親であるヘラ女神の忠臣であるふりをしておりましたが、実は密かに、父親であるゼウス神と意を通じていたのでございました。
我が妃め、くだらぬことを企みおって。いいか、ヘファイストスよ。お前はあやつに忠実なふりをしていろ。そうしてあやつの敵を追い詰めて、たっぷり笑顔を作らせてやれ。あやつが悪事を楽しんでいる間、私もあやつの悪どい美貌をしばし楽しむこととしよう。しかしだ、時が来たら、この悪ふざけにもピリオドを打たねばならん。我が妃にはしかるべき罰を与え、ペルセウスには、我が娘アテナが望む通りの栄誉を与えてやろう……
「おい、語り部」
は……、はいい?
「私の声真似が下手だ」
いえ、そんな……、ゼウスさまのお声をそのまんま真似るなどという畏れ多いことはできませんで……(ということにしておきます、はい)。
「うむ、聞こえたぞ。そういうことにしておいたほうが身のためだ」
え……?
……ええと、はい。
そんなこんなでですね、ゼウス神は、ペルセウスに栄誉を授けるべく、
「ケートスをねだったことで海の神ポセイドンの逆鱗に触れ、監禁されているアレスを助けに行くのだ」
と、勇者ペルセウスに命じたのでございました。
「まあ、まずは、アテナの傷が癒えてからだな。こやつ、アレスと聞いて目つきが変わりおった。はっはっは……」
さて、次回。勇者ペルセウスは、新たなる冒険へと旅立つのでありました。
……でも、メインのメドゥーサ退治も終わり、ヘラ女神も気絶して、目が覚めたらゼウス神からの適度な制裁と、甘ぁいお赦しを賜るのみであり……
すなわち冒険という冒険が、勇者ペルセウスを待ち構えているとは思えないのですがね。
「おい、語り部。今日はおしまいだ、風呂でも入れ」
あ、はい……。
「へっへーん。語り部さん、騙されたね。『今日はおしまいだ、風呂でも入れ』」
「やっぱりヘルメスは、父上の声真似がうまいねえ」
「ありがと。でもね、君の芸人魂には敵わないと思うよーう」
「う……、ヘルメスてんめーっ」




