犬飼颱の暴走Ⅳ
「お前が人間界に来る前、警察に捕まっていただろ?」
警察――幽霊を幽閉する刑務所。
ゴーストプリズン。
「ああ、そうだったな」
「残念なことに、人間界であんまりドンパチやらかすと、またあの刑務所に連行されるぞ」
「……ほう?」
「あんまり霊体も現身も殺しすぎないほうがいいぞ。この世でもそうだろ? 大量殺人犯の行く末は絞首台だ」
あくまでも日本の場合である。
国によって死刑方法は異なるのだ。
「そうか、それはそれは」
ステージ上で交渉を続ける萬門。
出来れば話し合いを引き伸ばして、相手が冷静になるまで待ちたかったが、
「がはっ……。ぐっ……うっ。く……苦しい」
部僂是武舞が呻き出した。腹を押さえて、苦しそうに転げ回っている。
【犬飼颱の仕業か? でもなんでこんなひどいことをするんだ? もう興味は失せたはずだろう?】
「なにをした?」
とだけ。
たったそれだけ、訊いてみる。
「なにって、みての通りだろ? まあ酸素は無味無臭無色透明だからわからないかもしれないけど――。酸素をたくさんくれてやったんだよ。要は『酸素濃度』を高めてやったわけ」
だから自分でも、なんで部僂是武舞が苦しんでいるのかがわからない。
と。
犬飼颱はそんな風に言い訳をした。
【酸素濃度を変えた。まあそれくらいは容易だろう。空気を操れるのだからな。しかし問題は――】
「気圧もコントロール出来るのか?」
「気圧?」
出し抜けにいわれたせいか、地縛霊は驚いた反応をみせた。
気圧――気体の圧力。
「さあな、わかんねーよ。つーか気圧ってなんだ? 天気予報のあれか? 高気圧、低気圧の、意味わからんあの天気図か?」
「それはそうとだな……」
彼の無知さを受け流し、萬捫は思考する。
【気圧のほうは無意識にコントロールしていたのだろう。こじつけるようだが、そうすれば、今回の現象のつじつまは合う】
【気圧と酸素濃度】
【気圧×酸素濃度=酸素分圧】
「酸素中毒。またの名を酸素酔い。これは酸素分圧が問題で発生する。まさしくお前がやったようなことだ」
そういって。
萬捫は犬飼颱に、命令を下す。
というか。
お願いをする。
「過度な酸素配分をやめてくれないか? 俺の仲間が苦しんでいるようだ」
口先だけでは仲間をいたわり、いつくしんでいるようだが。
現実はちがう。
部僂是武舞に対して、『恩を売った』と。
萬捫はそれくらいにしか考えていない。




