犬飼颱の暴走Ⅲ
「どうした?もう終わりか、もうおわかりか」
そんな言葉を受け。
意識も切れ切れに、
意識も途切れ途切れに。
『部僂是武舞』は逃げる。
肘で、身体を無理矢理引きずるようにして。
「まあいいや。くれてやるよ」
すっかりスリーパーホールドから解放されていた犬飼颱は、首をぐきぐきと鳴らしながら、冷静にそういった。もう食いしん坊に対しては興味が失せたとでもいうように。
「ぶはっ……。ぜはー、ぜはー」
今まで潜水を続けていたかのように、酸素を渇望していたかのように。
全力で息継ぎをする部僂是武舞。息継ぎというか、本当にただただ息をしているだけなのだけど。
それが息継ぎに思えるくらいに、必死に呼吸を行っていた。
た……助かった。
そうこぼしてしまえるくらいには、回復していた。
「ふーん」
そんな光景を目の当たりにして。
萬捫は犬飼颱の能力を推察する。
こんな状況下でも推理をする。
【地縛霊のやつはたしか『風使い』だったはずだ。風使い――そよ風であれ、なんであれ、とにかく空気を動かす能力】
【空気を動かすということは――気体を動かすということ】
【気体といえば――窒素、酸素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、クリプトン、水素、キセノン…………】
【たしかそんな感じだったはずだが、もしもこれらを操れるならば――否、操れるようになったならば】
【話はややこしくなってくる】
【わかりやすくいえば酸素。酸素を操れるなんて、結論からいってしまえば、まるで無敵じゃないのか?】
【鬼に金棒、虎に翼のたとえじゃないけど――】
【いくらなんでも、強すぎる!】
【強い弱いのレベルですらない】
【同じ霊体であることを差し引いても、地縛霊のやつは本物の化物だ!】
「おい、いい加減にしろよ?」
もうこうなったら、ハッタリしかない。
萬捫は博打にうって出た。
すでに勝つことは不可能ではあるが、負けないだけなら、もしかしたら出来るかもしれない。
「あんまり調子に乗ってると、人間界から帰れなくなるぞ」
「……あぁ?」
食いついた。
とても不機嫌そうな顔で。
犬飼颱は食いついたし、噛みついてきた。
「どういうことだ? とっとといってみろ!」
「とっととではなく、訥々(とつとつ)といってやる」
「滔々(とうとう)といえ!」
「――わかった」
冗漫な話を中断し、相手の意見を承諾してから、嘘八百を頭の中で組み立てる。
事実と虚偽を頭の中で、組み替える。
そして淡々とよどみなく説明していく。




