表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きっと咲く~桜の舞う頃に~  作者: オリンポス
怒れる獅子(対策編)
PR
73/105

嗟嘆の恐怖⑳

「楽しませてくれたお礼は、やっぱり雑魚が相手でもしておくべきだろうな」

 親しき仲にも礼儀あり。

「喧嘩するほど仲が悪い、俺と貴様の間にもやはりマナーは必要だよな」

 跳び箱にもたれかかり、ぐったりと力なく意気消沈している犬飼颱を前に、嗟嘆はサディスティックな笑みを浮かべた。

「…………」

 まあなんだかんだいっても。

 臆病太郎がなんのかんの、臆病風がどうのこうの、ほざいてもらったところで。

 形勢が逆転するわけねえわな。

 ピアノの旋律が、死を連想させる。

 着実に死を運んでくるように感じる。

 だけど――ピアノが鳴っているということは。

「舞子はまだ存命だな。良かった」

「良かったな、雑魚」

 嗟嘆の顔が、犬飼颱と同じ顔の高さに出現した。

 それは――嗟嘆が屈んで、彼の顔をのぞき込んだからではなく。

 犬飼颱の首根っこをつかまえて、その高さまで持ち上げたからにほかならない。

「……………………っ!!!!!」

 ぐはっ。

 ごほっ。

 と、それっぽい台詞を吐けるものなら、むしろ望んで吐きたいくらいではあったが、しかしそれは叶わない。

 なぜなら怒れる獅子は――地縛霊の(のど)を。

 喉仏または声帯を――親指で圧して。

 空いたもう一方の片腕で、アゴを押さえつけていたのである。

 そのせいで。

 口すらもろくにあけられないので。

 鼻からヨダレが垂れる。鼻水といっしょに流れ出る。

 痛い――。

 なんというか、これはこれで地味に痛い。

 鼻からご飯粒が出てくるとき――地味に痛いけどあんな感じ。固形物じゃなくて流動体だからまだマシだけど。

 でも、地味に辛かった。

 鼻の粘膜を傷つけられているような、綿棒を突っ込まれたような。

「…………げほっ」

 首を圧迫する緊張がとけた。

 瞬間――身体が宙に浮く。

 ふわっと。

 だがすぐに身体は床面へとぶつかり、うつ伏せに倒れるかたちとなった。

 要するに用具庫から放り投げられたわけだ。

「がはっ……。ごほっ……」

 苦しいから切ないからというよりは。

 意識的にわざと唾を吐き出す目的で咳き込んだ。

 大丈夫、呼吸器に損傷はない。

 そんな犬飼颱(かれ)のことなど歯牙にもかけず、嗟嘆はライトを用具庫から引っ張り出した。べつにそれを投げつけるわけではなく、邪魔だからどかしたという程度のことだったようだが。

 ライトをどけて、バスケットボールが収納されているカゴを持ってきた。

「さてさて、雑魚にとっては辛いだけのバトルパートではあるが、それでは観客が楽しくない。だから遊び心を加えてやろう」

 嗟嘆がふざけている暇に、犬飼颱は立ち上がっていた。それでも立ち上がっただけで、立ち向かったわけではない。まだそれほどに心身とも回復してはいなかったのである。

「遊び心……」

 袖手傍観する、婀崇姆出嫗朱。

 終始傍観する、部僂是武舞と萬捫。

 この三人のうち、食いしん坊――部僂是武舞が眉をひそめていった。

「奴がもっているのは遊ぶ心じゃなく(もてあそ)ぶ心。まずい話だ」

「ああ、そうだな」萬捫も相づちを打つ。「早くしねーと、やべーわ」

 彼はちらりと婀崇姆出嫗朱に視線を向けた。だがいつの間にやら、ぴかぴかの一年生は眠りについていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ