嗟嘆の恐怖21
「急いでくれよ、婀崇姆出嫗朱」
そんな言葉をどこかに向けて呟いて、欲張り詐欺師は目線を移して、犬飼颱VS嗟嘆戦の行方をうかがう。
「ぐわあ……」
情けなく逃げ惑う犬飼颱。四方八方からは無数のバスケットボールが飛び交っている。もちろん投てき手は嗟嘆である。傍らにボールカゴを置いて、愉快そうに愉悦にひたってバスケットボールを投げつけていた。
マシンガンのように発射される豪速球を紙一重で躱しながら、犬飼颱は逃げ回る。
このゲームは簡単に説明すればバラドッジである。バラドッジといっても、避球ほどメジャーではないので簡単な解説は、それでも必要になってしまうのだろう。
バラドッジ――ルールはドッジボールとほぼ同じである。ただしかなりマイナーなのでローカルルールが加味されることもある。
ドッジボールとの相違点はいくつかあって、まずは内野と外野がいないということが挙げられる。つまり選手は際限も制限もなしに、動きまくることが可能なのだ。ただし――遠くに行き過ぎたり、逃げてばかりいると、今度は逆に狙われたりするのでそこの駆け引きも重要となる。そして救済ルールについてだが、ドッジボールはたとえ捕球が苦手でも外野で活躍が出来るが、バラドッジにおいてそれは不可能である。捕球に失敗したら、それで失格である。
もちろん地域差はあるし、プレイヤーの力量によってもルールはすこし改変されたりする。
そして――現在行っているバラドッジとは。
ルールなしの、ゲームと称する、ただのいじめであった。
ボールはバスケットボールを用いて、アウトはなし。何度投げても、何度当たってもOKで、ゲーム終了条件は飽きたときである。
「はあ……。はあ……」
冗談じゃねーぞ。
なんなんだよ嗟嘆の規格外の強さは。
犬飼颱はよろよろとよろめきながら、壁に手をついてすこし休もうとこころみたが、しかしそれは失策だった。
それこそ相手の思う壺だ。
壁に跳弾して跳ね返ってきたバスケットボールが、彼の顔面部に命中したのである。しかもそれは一個ではなく、何個も何個も、何度も何度も、であった。
それは。
顔に、頭部に、首に、肩に、肘に、背中に、腹に、鳩尾に、股に、太ももに、ふくらはぎに、膝に、アキレス腱に。
まんべんなくぶつけられた。
しかも一球一球が重い。巨大鉄球をクレーンに吊るして、それをぶつけられたみたいな衝撃。
一発一発の攻撃が、嘘みたいに危機一髪である。
犬飼颱は黒ひげ危機一髪の、あのタルに入っているおっさんの気分を味わっていた。
「くそ……。なにか打つ手はねーのか」
そこら中に転がっているバスケットボールを拾って、恨みがましく、嗟嘆に狙いを定めて投げつけてみた。




