我武者羅な武者修行
一方的な試合だった。
試合というか――もはや戦いの様相は呈していなかった。
「くっ……ぐはっ。…………ごふっ!」
犬飼颱は、後ろ手に縄で縛られている。その状態のまま、部僂是武舞と戦っていた。
「がはっ……。くっ……ぶふっ……」
カ……カマイタチを使わねーと、勝てねえ。
意識を集中させて狙いを定めるが、ハーフパンツにタンクトップ姿の部僂是武舞には、照準が定まらない。
「うーむ、これはうまい話なのか……」
さきほどまでは手加減をして殴っていたが、今度は全力でぶん殴る食いしん坊。
犬飼颱は紙のように吹っ飛び、ぶっ倒れる。
「ねえ、萬捫さん」
アザだらけの犬飼颱をみかねて、桜乃舞子は口を出さずにはいられなかった。
「こんな修行になんの意味があるんですか?」
しかし萬捫は、真剣に勝負の行方をうかがっており、舞子のことなど眼中にないようだった。
代わりに妖艶家政婦――辺流負壊寤唹瘻が応じる。
「舞子ちゃん、不安なのはわかるけど邪魔しないであげて。これは肉体的な修行じゃないの、精神的な修行よ」
「精神? だったら滝修行とかでいいんじゃないんですか?」
「そんな甘いことじゃダメなの。せめて、死の恐怖を味わい続けても平気なくらいの、壊れたメンタルをつくらないと、嗟嘆とは戦うことさえ出来ないわ」
「…………?」
嗟嘆の能力をまるで知らない舞子は、なにもいい返すことができなかった。
「おい、舞妓はん。よけいな心配してんじゃねーよ。たかだかこれくらいの攻防でくたばる俺じゃねーからよ」
颱は強がってみせてはいるが、立ち上がる際に、顔をしかめる機会が多くなってきた。おそらく身体中が痛むのであろう。
「もういいから、私のことはどうしたって構わないから、こんな修行はやめてあげてよ」
「ふざけるな! これは俺が望んでやっていることだ。女は黙ってみていればいい」
ふらふら、と。
グロッキーでもなお立ち上がり、
「まだまだ稽古をつけてくれよ」
犬飼颱はいう。
何度でも、何度でも。
手首を後ろ側に縛られたまま。
圧倒的に不利な状況で。
格上を相手にバトり続ける。
ただし――その修行が奏功するとは限らない。




