さらに続く波乱の予感
「そのゴミ箱のなかに、うちの子どもが軟禁されているんですよね」
「はあ?」
颱はとんだ誤解に、思わずすっとんきょうな対応をしてしまった。
「なんで俺が、かぴかぴの一年生をゴミ箱にぶちこまなきゃなんねーんだよ」
「かぴかぴではありません。ぴかぴかの一年生です!」
母親と思しきその女性は、ロングヘアーを後ろで束ねた髪型をしている。服装はカットソーにパーカーを羽織り、スキニーパンツをはいている。年齢は 二十代前半といったところか。ずいぶんな若妻だと、犬飼颱は推測する。
「ママー。怖かったよー!」
「だったら俺に声をかけるな」
颱がゴミ箱に向かっていい返すと、
「えっ……。まさか、地縛霊さん?」
女性は明らかに驚いた表情をみせた。するといきなり友好的な笑顔をふりまき、
「私は辺流負壊寤唹瘻と申します。通り名は妖艶家政婦でございます。不肖な身ですが、なにとぞよろしくお願い致します」
「いや――なにをお願いすんだよ?」
すると――ごみ回収ボックスのなかから、黄色い帽子に黒のランドセル、カジュアルなファッションをみにまとった小学生が出て来た。
「なにって、そんなの決まってんじゃん」
偉そうに腕を組んで、口元に笑みを浮かべる小学生。
「なんだと、ベルフェゴール! 親がいると、やけに強気だな」
颱がすごんでみせると、
「辺流負壊寤唹瘻は、私ですけど……」
と、若妻のほうが反応した。妖艶家政婦である。
「あれ、じゃあこのガキは……」
「婀崇姆出嫗朱だよ、バーカ!」
「うわー、むかつく野郎だ」
ぶんぶんと肩を回して、「そのなめた面に一発かましてやらねーと、わかんねーみたいだな」
颱はバカという言葉に、過剰に反応していた。ぶん殴る気満々で、ずんずんと婀崇姆出嫗朱に近づいていく。
「おやめください! お願いしたいことがあるのですから……」
辺流負壊寤唹瘻がなだめるのを無視して、
「お願いなんざ、聞いてやる義理もねえ」
「あなたの彼女が、絡んでいてもですか?」
「…………なんだと?」
「彼女が子犬ちゃんに餌をやっていたところを、拉致監禁させていただきました」
「…………。お願いってなんだ?」
「怒れる獅子――嗟嘆を殺して欲しいのです。序列の問題ではありません。このまま生かしておくと、悪魔界は遅かれ早かれ滅びてしまうのです」
「どういうことだ?」
「理由なんかありません。ただ――彼は今、すごく荒れています。だから鎮めて欲しいのです」
「そんなの食いしん坊や、最上級の才色兼備に任せればいいんじゃねーのか?」
「食いしん坊――部僂是武舞の力はすでに及びませんし、最上級の才色兼備こと畄嗣覇阿は、気まぐれで地獄界でも天使界でも、好きなところに逃げるに決まっています。ですから――頼れる人は……」
畜生!
食いしん坊のやつでも、勝てねーようなやつにどうやって挑めっていうんだよ?
「ああ、わかった。とりあえずバトッてみる。どこにいけば良いんだ?」
「廃校の旧体育館――そこに君の彼女はいるはずだし、地縛霊くんに稽古をつけてくれる先生もいるよ」
「それってまさか……」
「そのまさかじゃないけど――部僂是武舞と萬捫が待っているはずだよ」
食いしん坊と欲張り詐欺師。
「おもしれー。それじゃあ案内してくれよ」
不器用な恋愛感情――婀崇姆出嫗朱。
悪魔界序列第五位。
続いて、
妖艶家政婦――辺流負壊寤唹瘻。
悪魔界序列第六位。
非戦闘員の彼らは、敵か味方か。
そして、
萬捫の策略とは――なんなのか。
謀略渦巻く、悪魔界トップセブンの頂上決戦が、始まろうとしていた。




