ぴかぴかの一年生登場
五日目――。
犬飼颱が、人間界に来てから、五日が経過した。
もしも風来坊のいうことが正しければ、ここにいられる期間の半分が過ぎ去ったことになる。
本当にあっという間であった。
何もかもが一瞬のようで、どれもこれもが夢のようだった。
「おはよう、颱。芸妓さんは?」
「知らねーよ」
「あれれ? いっしょじゃないの?」
「ちげーよ、そんなんじゃねえ」
犬飼颱は、通学路の途中にあるコンビニエンスストアで、コロッケパンと焼きそばパン、雨印のコーヒーを買っていた。
「へー、彼氏彼女じゃないんだね。ということは、私にもチャンスがあるってわけだ?」
出美亜丹も彼に合わせるかたちで、メロンパンと美味しい牛乳を手に取る。
「好きにしろ。俺は蛇亜丹なんかとは、付き合えねーけどな」
「蛇亜丹? あいかわらずネーミングセンスが皆無ねえ」
「うっさい」
清算を終え、レジ袋を提げて、学校へと向かう。
出美亜丹はバイトがあるらしく、道の途中で別れてしまった。
「やあ、地縛霊くん」
低く、小さな声。
それが――耳元でぼそっとささやかれた。
驚いて振り返ると、家々の間にある狭い小路に、声の主はいた。ちょうど電信柱の陰にかくれるようにして、こちらをうかがっている。
「なんだよ? 隠れてねーで出て来い」
「あいにくそれは出来ない相談だよ。なぜなら僕は極度の対人恐怖症だからね」
「嘘をつくな。対人恐怖症が外なんか出歩けるか」
そういって――。
颱は相手の顔をみようと、電信柱に近づく。
「わあっ!」
しかし残念ながら、相手はそのままごみ回収ボックスのなかに飛び込んでしまった。
どうやら対人恐怖症は本当らしい。
ごみ回収ボックスの蓋がパカッと、少し開いた。
「僕は婀崇姆出嫗朱。通り名は不器用な恋愛感情。よろしくね」
「よろしくって、それが人にあいさつをする態度か?」
「そんなに責めないでよ。怖くて怖くて、泣きたくなってきたじゃんか」
「なんだそれ、面倒くさいやつだな。小学生かよ」
「そうだよ、小学生だよ。真っ黒のランドセルに黄色い帽子をかぶった、ぴかぴかの一年生だよ」
「どんな一年生だろーが、べつに構わねーけどよ。そんなとこにずぅっと入っていると、かぴかぴの一年生になっちまうぞ」
「ぎゃー、いやだー! そんなのやだ、怖いー!」
「わっはっは。嫌なら出て来い」
「たいへん恐れ入りますが、うちの子どもをいじめないでいただけますでしょうか?」
背後から声がした。
そういえば、いつもいつも背後から声をかけられている気がするが――なぜなのだろうか。
颱は、意味のないことを疑問に思うタイプである。
ちなみに後ろから声をかけられる理由については――メタ要素が目立ってしまうが、そのほうが演出しやすいからである。




