医大生と破滅の懐妊(前)
進路は国公立大学の法学部に決めた。
出美亜丹はもともと、それなりに頭が良かったということもあり、スタディーサポートや模擬試験、過去問題も再三再四に渡って反復練習を続けたところ、ほとんどの問題が解けるようになっていた。もはや頭よりも身体で覚えたといって差し支えがないほど、その勉強ぶりはすさまじかった。
通学通勤中でもむさぼるように参考書に食らいつき、学校にいるあいだは食事すらせずに勉学に邁進し、バイトの余暇さえも利用して、とにかく――勉強、勉強、勉強、勉強、勉強と熱心に問題を解き続けた。
解き続けた。
――間髪いれず、ただひたすらに。
しかし、それによる代償も――それなりだった。
当たり前のことだが人間にはどうしても限界がある。
彼女は過度なストレスと、重度な疲労のため、ついにぶっ倒れてしまったのだ。
倒れて――入院を余儀なくされてしまった。
本当にもう、八方ふさがり。受験は来年に持ち越しだ――。
常人ならばそう判ずるところも、出美亜丹はちがった。
「やった。良かった。これで――勉強に専念できる」
と。
さらに拍車を掛けて、馬車馬のように……勉強を、やり続けたのだった。
ようやく退院が決定したとき、彼女は衝撃的な死の宣告を受けることになる。
聞いたことのない病名ではあったが、
「余命は長くても、あと1年2年がせいぜいでしょう」
という診断が下されたのだ。
衝撃だった。
自分の努力が、ほぼ無駄に終わったことがではない。
こんなことなら勉強なんてしなければ良かったなどと、世迷い事を考えたのではない。
ただ――純粋に。
『彼に申しわけがない』
そう――思った。
だから彼に電話で報告をするときは、感情に左右されず、言を左右にすることのないように。
感情を押し殺して、機械のようにそのことを伝えた。
「そうか……」
彼は不機嫌そうに答えた。もしかしたらレポートの提出とかなにかで忙しかったのかもしれない。
「うん、それだけ。それだけだから――」
まくしたてるようにいって、電話を切った。
だが――特筆すべきは。
まくしたてるようにではあったが、抗弁する隙は与えたつもりだったというところにこそある。
怒らせたり悲しませたり、喜怒哀楽を引き出す間をそれでもしっかりと用意したはずだった。
はずだった――が。
彼は、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。
なにも感じさせず……。
なにも感じてないかのように……。
「わかった、それだけだな」
と、反復した。
あるいは復唱だっかもしれないし、確認だったかもしれない。
ともかく。
なんの心配りもなんの思いやりもなく、そう呟いたのだった。
「『それだけ』だな」
それだけという言葉。
なめらかに、すみやかに発せられた、台詞。
『それだけ……』
短切であるがゆえに、これ以上はないくらいに適切な言葉であった。
適切で、適当で。
的確で、確実な。
放棄によく似た、酷薄な言葉。
それが彼女の心に――冷たく突き刺さり、過去編の中核をになう出来事へと変化していく。
あえて物語に即したかたちを選ぶと――悔恨となったのだが、もちろんこれだけでは終わらない。




