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前世がリハビリ専門職の令嬢は、絶対安静を許さない〜いつのまにか堅物公爵令息の甘い視線を独り占めしていました〜   作者: キヨミズ


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14/26

《14》

ある日、セラフィーのもとに1通の招待状が届いた。

差出人はリリアーナ・ローゼン公爵令嬢。この国の5大公爵家のひとつだ。

ローゼン公爵は国の内政の重鎮であり、娘を溺愛していることで有名だ。


招待状にはこう書かれていた。

『機能回復法のご活躍、社交界でも大変な評判でございます。ぜひ一度お話を伺いたく、お茶会にご招待申し上げます』


(機能回復法の噂が広まっているんだ)


セラフィーは素直に嬉しかった。

興味を持ってくれる人が増えているなら、それだけ手助けできる人が増えるかもしれない。

セラフィーは意気揚々とペンを走らせた。


お茶会の日。

セラフィーが案内されたのは、ローゼン公爵家邸宅の花が咲き誇る美しい庭園であった。

豪華絢爛を体現したようなその敷地は、ドラヴェン公爵家の佇まいとはあまりに違う。

その光景に、彼女はいたたまれないほどの居心地の悪さを覚えた。


セラフィーが侍女に案内され東屋へ入ると、令嬢たちの視線が一斉に集まる。

ローズピンクの髪を結い上げた美しい女性、リリアーナが立ち上がって迎えた。


「セラフィー様、ようこそいらっしゃいました」

「お招きいただきありがとうございます、リリアーナ様」

「どうぞ、こちらへ」


案内された席に着くと、紅茶が運ばれてきた。

リリアーナをはじめ、そこに座る令嬢たちは華やかな面々ばかりだ。

顔を知っている程度で、こうして面と向かって言葉を交わすのは初めてだった。


最初は流行りの菓子やドレスの話題で、和やかな雰囲気でお茶会は進んだ。

セラフィーの緊張がほぐれてきた頃。

リリアーナが隣に座る令嬢に目配せすると、その令嬢が扇で口元を隠し、セラフィーに向けて冷ややかな微笑を浮かべ、目を細めながら話を切り出した。


「セラフィー様、最近ヴァレン・ドラヴェン様とよくご一緒されているとか」

「はい、お仕事でお世話になっています」


セラフィーは屈託のない笑顔で答えると、問いかけた令嬢はあざ笑うように、くすりと笑った。

その場にいる他の令嬢たちも一斉にセラフィーに目を向けると、扇の陰で嘲笑を交えてひそひそ囁き合う。


「病院でお働きになっているんですって?令嬢がそんなことするかしら?」

「患者さんのお役に立てることが嬉しいので」

「まあ、奇特な方」


トゲのある言葉に、セラフィーは一瞬だけ瞳を揺らしたが、すぐに微笑みを浮かべた。

すると、別の令嬢が口を開く。


「でも不思議ですわね。どうやってヴァレン様に取り入ったのかしら」

「いえ、そんな……エレオノーラ様の機能回復訓練をお手伝いさせていただいたご縁で──」

「エレオノーラ様の機能回復訓練?」


令嬢が怪訝そうに眉を上げた。

他の令嬢たちも顔を見合わせ扇の後ろで驚きを隠せない。


「つまりドラヴェン公爵家に出入りしているということ?」

「……はい」

「まあ」


セラフィーが控えめな声で答えると、令嬢たちが大げさに声を上げ騒めいた。

理不尽な悪意を前にセラフィーの顔に暗い影が落ちる。


「婚姻前の令嬢が公爵家に出入りするなんて、ずいぶん大胆ですこと」


別の令嬢はにこりと微笑みながらも、蔑むような眼差しでセラフィーに容赦のない言葉を重ねた。


「セラフィー様はご存知ないのかしら?リリアーナ様はヴァレン様の婚約者、最有力なのよ」


セラフィーのエメラルドグリーンの瞳が大きく見開かれ、激しく揺らいだ。


(婚約者……?)


「で、でも……ヴァレン様にはそういう方はいらっしゃらないって──」

「そんなの建前ですわ。リリアーナ様とヴァレン様は幼いころからご縁がありますの。誰もがリリアーナ様がドラヴェン公爵家に嫁がれると思っていましてよ」


セラフィーがリリアーナの方を窺うと、扇をゆっくり揺らし、自信に満ちた笑みを見せていた。


「まあ、そのような話は……私からは何とも申し上げられませんわ」


リリアーナは否定せず、セラフィーの動揺をどこか楽しむように見返した。

周りの令嬢からは黄色い歓声が上がっている。

セラフィーの胸の中に、どんどん冷たいものが広がっていく。


(知らなかった。ヴァレン様には、もうお相手が……)


「あら、セラフィー様、お顔の色が優れませんわね」

「そんなことはありません……少し疲れているだけです」


力なく引きつった顔で、セラフィーが小さな声で答えると、「そう」と、令嬢がにっこりと笑った。


「なら良かった。ヴァレン様には、リリアーナ様のような美しい方がお似合いですもの。公爵令嬢で、社交界でも評判が高くて……侯爵令嬢とは、やはり格が違いますわね」


「その通りですわ。未来の公爵夫人が決まっている邸宅に、身の程知らずな女が出入りしているなんて、考えただけでもゾッとしますわ──リリアーナ様のお心に影を落とされるのは、どうかと思いましてよ」


容赦なく突き刺される現実に目を背けるように、セラフィーの脳裏にヴァレンと過ごした温かい日々が蘇ってくる。

令嬢たちが賛同し頷く中、リリアーナが「ふふふ」と、口元に慈しむような微笑を浮かべながら、その瞳の奥でセラフィーを冷徹に見下ろした。


「まぁ、みな様。そのあたりになさいませ。私のことを心配される方たちばかりで嬉しいわ。令嬢がヴァレン様に憧れを抱くのは当然のこと。あんなに素敵な方ですもの。セラフィー様も素敵な殿方と出会われることを切に願いますわ」


──どのようにして、その場を辞したのかは覚えていない。

馬車の扉が閉まり、座席に崩れ落ちるように座った瞬間、涙が溢れ出た。


(分かっていたじゃない……私には一生関係ない人だって──)


ネックレスにそっと触ると、氷青の石が指先を冷たくする。

胸の中に、ずっと蓋をしていたものが、じわりと滲み出てきた。


──私、あの人のことが好きなんだ


あの優しい瞳に見つめられることが嬉しかった。

時折見せてくれる笑顔が心を温かくして、もっと一緒にいたかった。

叶うはずのない恋だと突きつけられて初めて、自分の想いに気づくなんて、あまりにも悲しすぎる。


(この気持ちには固く蓋をしよう。もう二度と開かないように……)


セラフィーの想いを乗せた馬車は静かに走り続けた。


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