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前世がリハビリ専門職の令嬢は、絶対安静を許さない〜いつのまにか堅物公爵令息の甘い視線を独り占めしていました〜   作者: キヨミズ


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13/26

《13》

「レイズ、病院の視察に行く。馬車の手配を頼む」

「かしこまりました。──ちなみに、今回で今月3度目でございますね」


さらりと告げられた事実に、ヴァレンの手が止まった。


「……それが、何だ」

「いえ、何も。ただ、単純に興味深いなと思っただけです」


レイズは涼しい顔で、手元の予定表をめくっている。

その様子に、ヴァレンは眉をひそめた。


「病院の事業が拡大している。視察の頻度が上がるのは当然のことだ」

「そうですね。ヴァレン様のおっしゃる通りです」


レイズは深く頷いたが、その口の端は、明らかに笑いを堪えている形をしていた。

その彼の姿をヴァレンは恨めしそうにみつめた。


「……何か言いたいことがあるのか」

「いいえ、なにもありませんよ」


そう言いながらも、レイズは机の上の報告書を、そっとヴァレンの方へ差し出した。

不備はないはずだ。

ヴァレンは報告書にチラリと視線を落とすと、すぐさま彼に向き直った。


「ただ、こちらの視察報告書、セラフィー様のことに対する内容が多いようです。ガレットさんについては微々たるもの……もっと他にも目を向けられてはいかがでしょうか?」


ぐ、と喉の奥で言葉が詰まる。

反論しようにも、言葉が出てこない。


「──馬車を出せと言っている」

「かしこまりました」


レイズは恭しく一礼すると、扉に向かいながら、独り言のように呟いた。


「セラフィー様も、お喜びになるでしょうね」

「誰が、セラフィーのために行くと言った」

「申し訳ございません、私の勘違いでした」


まったく悪びれる様子のない謝罪に、ヴァレンは眉間の皺を深くしたまま、足早に部屋を後にした。

残されたレイズは、その背中が見えなくなってから、ようやく声を殺して笑った。


「──本当はヴァレン様がお会いしたいんですよね」

─────────────────────────────────────


その日、ドラヴェン公爵家の馬車が病院の門をくぐった。今月に入って3回目である。

エルヴィラは紅茶のカップを持ったまま、執務室の窓からそれとなく外の様子をうかがうと、ヴァレンがセラフィーに何か話しかけている最中だった。


セラフィーが嬉しそうな表情をすると、ヴァレンが視線を逸らしている。

(わが弟ながら可愛らしいこと)

耳を赤くする弟に、エルヴィラは口の端を上げた。


しばらくすると、ヴァレンがエルヴィラの執務室に顔を出した。


「病院の運営状況を確認しに来た」

「そう」


エルヴィラは書類から目を上げずに答えた。

にやける顔を隠しきれる自信がないからだ。


「今月何回目かしら」

「……視察は定期的に行うものだ」

「そうよね──以前は半年に1度来れば良い方だったのに」

「病院の事業が拡大しているからな」

「ふうん」


姉のからかいを含んだ言い方に気付いたヴァレンは、それまでの穏やかな顔を消し、あからさまに眉をひそめた。

彼の機嫌がどんどん悪くなっていくのが分かる。


2人の激しい温度差のなか対面していると、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。

すると、すぐに執務室に強めのノックが響いた。

エルヴィラが入室を促すと、そこにはジークとガレットが立っていた。


「おっ、ヴァレン様」

「よっ、ヴァレン!久しぶりだな」

「……なぜお前がここにいる」

「ガレットの所に装具のメンテナンスに来たんだ」


眉間に皺を寄せるヴァレンに対し、ジークはそんな彼の圧をものともせず、あっけらかんと答えた。

ガレットも以前とは違い、ヴァレンに無駄に緊張することなく、その口元に笑みを浮かべている。


きっかけに、こんなことがあった。

ヴァレンは、ガレットとセラフィーの仲を密かに気にしていた。

しかし、その疑念はジークとエルヴィラの手によって打ち砕かれている。


「ガレット、お前セラフィー嬢と妙に仲良しだけど、特別な感情はないのかよ?」

「バカ言え!あれでも侯爵家のご令嬢だぞ?そうでなくても、10歳も離れたお子さまに興味なんてねえよ!」

「貴方はうちのセクシー看護師と良い感じだもんね」

「エルヴィラ様、なんで知ってるんだよ!?」


と、身に覚えのない場所から恋路を暴露され、盛大に狼狽える出来事があったのだ。


エルヴィラに完璧に振り回されるガレットの姿を、幼いころからの自分に重ねたヴァレンは、彼を心から気の毒に思った。

そうして、日ごろのうっ憤を晴らすためジークを含めた3人で酒を飲み交わすうちに、彼らは身分を越えた友情を育んでいたのである。


「セラフィー嬢のネックレス、見たぜ。『ヴァレン様からいただきました』って頬を染めちゃってさ」


ジークがセラフィーの真似をして言うものだから、ヴァレンの苛立ちがどんどん積もっていく。


「しかしヴァレン様も、毎回セラフィー嬢が帰る時間に合わせて来るよな」

ガレットが笑いをこらえているのが丸わかりだった。

「偶然にしては出来すぎじゃないかしら?」

「偶然だ」

「3回連続で?」


ヴァレンは何も答えないが、窓の外に視線を向けた彼の耳が赤かった。

エルヴィラとジーク、ガレットが目を合わせ、3人同時に口の端が上がった。


「偶然、ね」

「偶然だな」

「そうか、偶然か」

「うるさい」


ヴァレンはふんと、静かに鼻を鳴らし、彼にしては珍しくドサッと長椅子に腰を掛けた。


(偶然ではない。それくらい分かっている)

自然と足が向いてしまうのだ。

(困ったな)


少しして、執務室に業務を終えたセラフィーが現れた。

その顔を見るとヴァレンの顔も穏やかになっていくのであった。


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