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第67話 郊外にて③

 これ以上は限界というところまでストローをガジガジと噛んでから、ようやく重い腰を上げた。

 柳也さんはまだ戻らない。同じ暇ならブラブラしなきゃ損ってやつ。せっかくだし、イベントスペースにも足を伸ばしてみるか。


 目的地に近づくに連れて、次第に人が増え、活気があふれている。ついさっきまでいたフードコートとは大違いだ。ここにはファミリーもカップルも多い。ついでにこのアウトレットモールのマスコットであろう鳥型の着ぐるみもいた。

 賑わいのある屋外ブースは屋台を模した様々な店が置かれている。お面に射的に綿飴もある。さながら小さな夏祭りだ。

 1番人気は水ヨーヨー釣りか。子ども用のプールに色とりどりの水ヨーヨーが浮かんでいて、何とも涼やかだ。小さき者たちが頼りないこよりで必死になっている姿は、非常に可愛らしく心が洗われる。昔、俺が挑戦している姿を見ていた親達もこんな気持ちだったのかな。その後、車の中で水ヨーヨー割っちゃって、泣くほど怒られたんだけどね。それもまた思い出か。


 親子連れとカップルに混じって、歩くほどに昔の記憶が蘇る。夏の終わりの匂い、夜の冷たい風、大きな花火の音に耳を塞ぐ幼い俺。

 夏祭りの雰囲気を感じるだけで、今まで記憶の書棚に置かれていたものが次から次へと押し寄せてくる。こうして深呼吸するだけで、俺の心は幼かったあの日へタイムスリップ……と思われたが、不意に襲った小さな衝撃で我に返った。咄嗟に「あいてっ」と口から言葉が飛び出てしまったが、6歳くらいの女の子が申し訳なさそうにこちらを見ていた。髪がクルンクルンで可愛らしい。


「ご、ごめんなさい……」


 どうやら、抱え込んだお菓子に夢中になって走っていた女の子が俺にぶつかってしまったらしい。怒られると思ったのか不安そうな顔をしている。しゃがみ込んで目線を合わせて「大丈夫だよ。気をつけてね」と優しく語りかけると安心したようだ。無邪気な笑みが眩しい。女の子は「うん!」と元気に返事をすると、また走って行ってしまった。


 辺りには他にも何かの景品であろうお菓子が沢山詰まった袋を抱き抱えて歩く子ども達がいる。どの子も幸せが詰まったそれを大事そうにしていた。あの様子だと家に帰るまで待ちきれずに、車の中で中身の確認をしてしまうのだろう。

 自分の好きなお菓子、嫌いなお菓子、食べたことがなくて恐る恐る口にして意外と美味しいことに気付くお菓子。あちらこちらで必死に写真を撮っている親御さん達も知らない小さなドラマがあって思い出になる。あの感覚だけは、誰に共有できるものではないのだ。


 開催が迫る夏祭り。俺は彼女にその感覚を感じてもらえるだろうか。記録には残らない大切な記憶。俺にはスポーツカーで走る景色は見せられないけど、ママチャリで走る景色なら見せられる。ゆっくり走ることでしか見えないものだってあるはずだ。これは半ば俺の願望でもある。


 兎にも角にもそのための衣装が必要だ。幸せを掴むための戦闘服。ブランドはよく分からないから、同年代っぽい人達が集う店に突撃していけば、それなりの出会いは期待できよう。

 お祭りの予行練習はここで終わり。本来の目的を達成するために旅立たねば。


 

 何店舗か回った末、シャツとジャケットを購入してフィニッシュ。なんだかんだ言いつつ。結局いつもの服装に落ち着いてしまうあたり、根っこからおしゃれに無関心な人間であることを自覚させられる。ここ数年間の服装遍歴を写真で並べても区別がつかなそうだ。当たったら金メダルをあげても良い。


「さてさて、すっかり遅くなっちゃったな。柳也さんから電話は来ていないから、待たせてるってことはないだろうけど」


 遅くなった理由を正当化するために口に出してみる。スマホの電源が切れて電話ができなくなったとか、連絡ができずに待たせてしまっていないだろうか。買い物に夢中になってしまったことを若干後悔しつつ、いよいよ人が少なくなってきた施設内をやや急いで歩いた。

 ようやくフードコートに戻ったが、柳也さんの姿はない。もしかして、まだ買い物中なのだろうか。1度も見かけなかったが、どこで何をしているのやら。

 電話をかけてみるが繋がらない。あきらめてクレープを買ってみた。チョコとバナナがたっぷり入っていて美味しい。夕食の時間帯になってきて、フードコートは再び賑わいを見せ始めていた。


 1時間経過。まだ戻ってこない。ラーメンや丼物の匂いに囲まれて、俺はバニラアイスを食べている。両サイドから脂の乗ったお腹が空く匂いが漂ってくるのだが、ここで食べてしまうと柳也さんに申し訳がない。

 まだ戻ってこないようなら探しに行こう。トイレで倒れていたら、流石に洒落にならん。少し想像しただけでゾッとする。やはり、すぐに行くべきか。それとも館内放送でもしてもらおうか。

 その前にもう1度電話をしようとスマホを耳に当てたタイミングで、柳也さんがフードコートに入って来るが見えた。大きな袋を抱えている。


「いや〜ごめんごめん。店員さんに捕まってじっくり選んでいたら、こんな時間になってしまった」

「心配しましたよ……いくら待っても戻ってこないんですもん。今から探しに行くところでした」

「ははは、心配してくれてありがとう。お詫びに夕御飯は僕が奢るよ」

「そんな、毎食は申し訳ないですから、自分の分くらいは出しますから」

「いいっていいって。これでも僕って結構もらってるんだぜ?清隆君が働き始めたら返してくれれば、それで良いよ。どうせなら、違うところで食べて帰ろう。ほら、行くよ」


 柳也さんは、合流するやいなや今来た道を引き返していく。俺は、残っていたアイスを一気に頬張って後を追いかけた。冷たさが歯に染みるぜ。

 次回更新は、10月16日(日)の予定です。

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