第66話 郊外にて②
カップル、カップル、ファミリー、カップル、着ぐるみ、ファミリー、カップル。様々な形の幸せがここにある。
男2人組なのは俺たちくらいなものだ。何かイベントでもあるのだろうか。よく見れば、柳也さんと靴が被っている。さりげないペアコーデのようではないか。周囲の目が気になって落ち着かない。
一方、柳也さんは気付いていないのか、気にしていないだけなのか分からないが、真っ直ぐ歩いていく。目的の店があるのだろう。
「清隆君。まずはあの店に行ってみようか」
「は、はい!スポーツ用品店……ですか?俺も運動は得意って訳ではないんですけど」
「とりあえず行ってみようか」
柳也さんも運動が苦手だと言ったばかりじゃないか。ほんの少しの不安を抱え込んで入店すると、いかにも運動ができそうな細身の店員が接客をしていた。
「これとかどうかな?」
「動きやすそうですけど、ファッションとしてどうなんでしょう?」
「意外とアクセントになって悪くないと思うよ。ジャージっていうとダサいイメージがあるけど、組み合わせ次第ではなかなか良い感じになるよ。ほら試しに羽織ってごらん」
「あ、すみません」
早速、渡されたジャージを羽織ってみる。なるほど、これは動きやすい。一丁前にポーズなんか決めてみたりして、周囲に俺の美貌を見せつけてみたり。店内の鏡に映る俺ってイケてるってやつなのでは?
「あー、うーん。ちょっと違ったかな?」
「え!?ど、どこがですか!?」
「休日のお父さん感……ごほんごほん」
「え?なんです?よく聞こえなかったんですけど」
「いや、なんでもないよ。ちょっとジャストサイズすぎたかも。次はあっちのキャップも試してみようか」
ジャージを脱いで元の場所へ戻して、柳也さんの後を追う。流石、大手メーカーのジャージだけあって着心地が良かった。だが、今日のお目当てではない。俺は咲良と遊びに行くための服が欲しいのだ。
「はい、これ被ってみて」
「こんな感じですか?」
思い切って後ろ被りをしてみる。やんちゃさをセルフプロデュース。大人になるに連れて減少していくこの要素をちょい足しだ。これで気になるあの娘もメロメロって寸法よ。
「それはそれでありだけど、今日は普通の感じでいってみようか」
「あ、はい」
妙な圧を感じて帽子を被り直す。ふざけている訳ではないのに伝わらなかったようだ。
「お!なかなか良いんじゃない?」
「そうですか?普段あまり被らないから、よく分かりませんけど」
「うん。似合ってる。似合ってる」
人にそう言われると嬉しくなるのが人情だ。もちろん財布の紐も緩くなる。さて、あとは値段だ。母さんからの軍資金と日々の頑張りで、いつも頼りない俺の財布は厚い。買う予定がない帽子の1つや2つ余裕だ。どれどれ……
「げっ。帽子ってこんなにするんですね……」
「キャップもブランド物って色が強いからかもね。ノーブランドだと安かったりするけど」
「そこは服と同じですね……。この帽子の値段で今着ているTシャツ2着買えますよ。予算外で買うにはちょっと」
「そうかぁ。よし、じゃあ次に行こう」
2人で次から次へと店を巡る。ナチュラル系、アメカジ系、ストリート系、DJ風、ホスト風、ゴスロリ風、まるで着せ替え人形の如く服を着替える。俺も段々と楽しくなってきた。新しい扉が開きかけている。そんな様相を呈す昼下がり。
「はぁ……これだけ見ても、これだっ!って服には巡り会えないものなんですね」
「出会いは何だって一期一会。そういう時もあるさ」
すっかり歩き疲れてしまって、フードコートで休憩中。お昼のピークも過ぎて、空席が目立っている。来た時にあれだけいた親子連れは、少なくなっていた。
俺は柳也さんに奢ってもらった飲み物を飲み干して意気消沈。あれだけ見て回っても俺が気にいる服は見つけられなかった。もちろん、中には普段着ているようなものもあった。母さんが言ったとおり生地の質感は良かったが、流石に値段が倍以上ともなると買う気が起きないものだ。ありがたい注告があろうとも人は簡単には変わらない。
「欲しいのは、咲良とのデート用の服なんだろう?そこまで真剣に考えてくれていると僕も嬉しいよ」
「その通りなんですけど、はっきり言われると恥ずかしくなります。ここに連れてきてくれたってことは、柳也さんも最初からその気だったんじゃないですか?もしかして、そんなに俺ってダサいのかなぁ。自信失くすなぁ」
「はははっ、そんなことないよ。俺が清隆君を誘ったのは、君との親睦を深めたかったからってだけ。そろそろ季節も変わる頃だし、僕も服が欲しかったんだよ。本当だよ?」
「その割に俺の服ばっかり選んでくれてたと思いますけど」
「それは、あれだよ。選ぶついでに自分の分も見ていたんだけど、いろいろ着せ替える方が楽しくなっちゃって」
もしかして、着せ替えパート後半戦は、悪ふざけも含まれていたのか。ハイになっていたのは俺だけではなかったようだ。いや、似合わないジャンルがはっきりしただけ良しとするか。
「さて、僕はもうちょっと回りたいけど……清隆君はまだ無理そうだね」
「もーちょっと休んでから考えます。もう、くたくたですよぉ。普段から結構歩いているつもりでしたけど、ここ広すぎますって。柳也さん体力ありますね」
「営業で歩き回っているからね。じゃあ、ここで待っててよ。気になる店があったなら、見てきても良いし。僕が戻ってきて君がいなかったら電話するからさ」
「分かりました」
この何処ぞの町よりも広そうなワンダーランドへ柳也さんは再び旅立った。付き合っていただきありがとうございました。せっかくここまで連れて来てもらったんだ。もう少しだけ休んだら、せめて1着だけでも買っておきたい。
そのためにも念のため念のため……ポケットからスマホを取り出して、休憩時間中に交換した電話番号が登録されているか、もう1度確認をしておいた。ここで逸れたら一巻の終わり。目の前には田園風景が広がっていて、電車が通っている様子は無い。つまり、俺には帰る手段がないのだ。生殺与奪の権は握られている。
次回更新は、10月13日(木)の予定です。




