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第64話 積み重ね④

 テーブルいっぱいに並べられた料理の数々。食卓に野菜があるだけでこんなにも彩り豊かになるものなのか。俺の好きな玉子焼きもしっかりとその存在感を放っている。ああ、この光景懐かしい。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます。これだけ品数がテーブルの上に乗るなんて、いつぶりだろう」


 久しぶりの家族との食事。交通費がもう少し安ければ、長期休暇の度に帰っても良いが、なかなか厳しい懐事情なのである。決してハロファクに注ぎ込んでいるのではない。全ては学費のためなのだ。


「父さんは元気?」

「髪の毛以外は元気そのもの。最近、毎朝鏡で後頭部をチェックするのが日課になっちゃって、その姿がちょっと可愛いのよ」

「俺もそうなるとしたら、結構深刻な話なんだけど……」

「あらそう?人が変わるわけじゃないんだし、気にしすぎよ」

「そうかなぁ」


 たわいもない世間話をしながら食事は進む。どうやら父さんの薄毛は進行する一方らしい。通販で取り寄せたお高い育毛剤の効果も薄いようだ。薄さのダブルパンチである。


 久しぶりの母さんのご飯は美味しかった。普段食べているものも不味いということではないのだが、食べ慣れた味とでもいうのだろうか。自然と体に吸収されていく。そんな感覚だ。1人で食べるよりもゆったりと流れる時間が心地良い。

 

 食後のお茶を飲んでいると母さんが鞄から何かを取り出した。


「ほら、これあげるから頑張りなさい」

「……何これ?」


 母さんから受け取ったのは、可愛い犬のイラストが描かれたポチ袋。子どもの頃にお年玉を貰って以来だから、久しぶりに見かけたぞ。


「それでデート用の服でも買いなさい。いくら無地の服でも、安い物は生地の感じで分かるんだからね」

「えー別に大丈夫じゃない?この服も安かったけど着心地良いし」

「じゃあ、私が青春時代に愛用したバブリーな格好で隣を歩いていたら、どう思う?」

「……それは勘弁してほしいかな。耐えられそうにない」

「そういうことよ。おしゃれは自分のためだけじゃなくて、相手のためでもあるんだから。相手がいてこその自分磨きよ」

「はい。気をつけます」


 クローゼットの中身はここ数年変わり映えしない。ここぞという時に着ていく服も最近よれてきた。もちろん咲良と会う時に着る服もバリエーションはない。これだけ回数を重ねてくると、『またこの服着てる……』とか思われていないか不安になったことは1度ではない。そもそも服のジャンルなんて分からないし、着たいものを着ている状態なのだ。今度、望にでも付き合ってもらうか。できることなら、全身コーディネートしてもらいたい。


「それと、長いお休みの時は帰ってくること」

「それはちょっと金銭的に厳しいものがありまして……」

「馬鹿ねぇ。それくらい払える余裕はあるわよ。めったに連絡も寄越さないし、元気な顔見せるくらいの親孝行してくれたって良いじゃない。今回だって、仕事がなければお父さんも着いてくる予定だったんだから」

「げ、まじ?」

「げって何よ。帰ってこないから私達寂しくて寂しくて……およよ」


 わざとらしく泣き真似をしているが、ツッコんだら負けだ。レトロトイマニアの父さんの目的は、俺よりも仲間が集う専門店巡りの方のような気がしてならない。俺が引っ越した時に手伝いという名目で来たのは良いが、帰る時に荷物が倍以上になっていた男だ。そこは揺るがないだろう。


「あ、そうだ。くーちゃんが久しぶりに会いたいって言ってたわよ。隣町の大学に通っているみたいだから、どっかで会うかもしれないわね」

「会っても気付かないって、名前すら覚えてなかったのに。当時の姿ならまだしも、お互い大人になったしなぁ」

「そうだと思って、ほら、これが今のくーちゃん。どう?美人じゃない?」


 母さんのスマホに表示された画像データには2人の女性が写っていた。1人は母さん。もう1人の若い女性がくーちゃんなのだろう。スタイルが良い。それに利発そうで所謂高嶺の花という表現がぴったりだ。記憶の中に微かに残るくーちゃんは、もう少しぽてっとしていた気がするが、どうだったろうか。記憶とは曖昧なものである。


「ま、まぁ昔に比べたら可愛いくなったんじゃない?」

「あらぁ照れちゃって。でも、清隆には咲良ちゃんがいるしなぁ。ちょっぴり再会からのラブロマンスを期待していたのに」

「息子の人生をドラマ代わりにしないでよ……。それに彼女とは付き合ってる訳じゃないって、何回も言っているでしょ?」

「私としては、どっちが娘になっても良いんだけど。モテる男は大変ね」

「……これまでの会話のどこに俺がモテてる要素があったのかなぁ」


 人生には3回モテ期が来るという。まだ1回も実感がない俺だが、今がそうなのか。いや、違う。モテ期というものは、普段の生活の積み重ねの結果が現れているだけで、何も行動に移していない俺に訪れるものではないのだ。

 何気ない挨拶。何気ない気遣い。何気ない会話。それらが縁の結び付きを強固なものにしていく。全ては積み重ね。それをどこまで積み重なれば良いのか分からない。少なくとも俺にはモテ期という結果を実感したことがない。


 話が尽きたところで、俺達は寝る準備を整える。どこもかしこも掃除が行き届いている。お風呂場もピカピカ。咲良を困らせた空缶空瓶も姿を消していた。これも全ては咲良の手伝いがあってこそ。言葉では足りない感謝を君に伝えたい。

 

 翌日、母さんは冷蔵庫に大量の作り置きを残して帰っていった。最後まで、俺が咲良をお祭りに誘ったか確認することはなかった。それは俺を信頼している証なのか。それとも最初からからかっていただけなのか。その答えを知る術はないが、咲良と夏祭りに行くことが決定したのは確かな情報だ。さて、何を着たものか。

 次回更新は10月9日(日)の予定です。

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