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第46話 缶詰パーティー②

 大我が火から下ろしたメスティンを黒いケースへ仕舞い込んでいる。おいおい、それは今から食べるんじゃなかったのか?

 そんな俺の心配など気にしない様子で、ガス缶とその上部に取り付けた器具が収納されていた円柱のケースをリュックから取り出した。


「もう片付けるのか?」

「こっからが本番だよ」


 大我は、円柱のケースに勢いよく水を注ぎ入れると火にかける。アウトドアだけあって、荷物を少なくするためにコンパクトにまとめているらしい。水も蛇口からどばどば出せるんだけどなぁ。


「それ鍋だったんだな。中からいろいろ出てきてマトリョーシカみたいだ」

「ストッキングってやつだな!」

「スタッキングな。望、ボケてないで何個かテキトーに缶詰取ってくれ」

「ストッキングもスタッキングも同じようなもんだろ。ほらよ」

「さんきゅー。それが同じなら、あんことうんこも同じになるだろうが」

「お?それもそうだな」

「それで納得するんだ……」


 望のボケに付き合っているうちに水が沸騰したようだ。炎天下と熱湯の組み合わせなんて正気の沙汰じゃない。ここでコーヒー豆を挽き始めたら、全力で遠慮するぞ。


「時に大我君。その熱湯はどうするのかな?」

「どうするって、今日は缶詰パーティーなんだから缶詰を温めるんだよ。美味いんだなこれが」

「焼き鳥缶温めていいかー?入れるぞー」


 望がテーブルに広がられた缶詰の中から焼鳥をチョイスして、大我の後ろに忍び寄る。

 正直に言うと、俺、これ苦手なんだよな。冷えて固まったタレで塊になった鶏肉が、脳内でイメージされる焼鳥の味と一致しなくて混乱するんだ。

 それに実家から送られてくる支援物資の中に紛れ込んでくることがあるから、食べてないやつが結構あるんだよな。


「ちょっ!今火を消すから待てって!そのまま温めたら爆発するから!」

「え!?それは困るからやめて。敷金戻ってきて欲しいから!」

「そんなすぐ爆発する訳ないっしょ?ほれ」

「うわっちぃ!!」


 ぼちゃんと鍋の中へ缶詰がダイブする。その勢いで飛び跳ねた熱湯が大我を襲い、下界でも灼熱地獄の如き惨状が繰り広げられることになった。


「大我!火!火を止めて!俺の敷金が!」

「むりむりむりむり!み、水!」


 パニックに陥る2人を横目にひょいと鍋を持ち上げる望。室内へ鍋を持ち込むと他の缶詰もいくつか放り込む。満悦の表情だ。

 仕事を終えた望は、ビニール袋の中から水滴の付いた細長い缶を取り出すと大我の傍によって、赤くなった頬にそれを押し当てた。


「つめたぁ!」

「冷やさないといけないから我慢しろって」

「誰のせいだと思ってんだぁ!!」


 大我の声が近所中に響き渡ったのは言うまでもない。隣の住人が壁を叩いて注意を促すが、俺にはどうすることも出来ないのだ。

 当の本人達は、缶ビールを頬に押し付け合い我慢比べをしていた。どちらがより我慢できるかで優劣をつける気らしい。俺は1人缶ビールを開けて、その光景を酒の肴に飲み始めるのだった。

 


「なぁ……もう諦めたら?」

「まだまだ!勝負はここからだろうに!」

「望から始めたんだ。先に辞めるわけにはいかないよ」


 あれから数十分。すっかり温くなった缶ビールを押しつけ合う2人がいた。ふっくら炊き上がったご飯との感動の対面もそこそこに

温まった缶詰を割り箸で突き合う男達。なんだこれ。


「どう?清隆?缶詰を温めると美味しいでしょ?」

「めっちゃビールに合う!焼鳥も冷たい時のプルプルしたやつがなくなって、変な臭みもないし、これ良いな!」


 キッチンの棚の中に眠っている焼鳥缶の美味しい食べ方を閃いた。ただ温めて美味しくなるなら、親子丼にしても良いんじゃないか?機会を見て試さなければ。


「うめー!鯖の味噌煮うめー!米にも合うなー!」


 望は、片手で器用に鯖の味噌煮と白米をつついている。どうやら鯖の味噌煮缶は彼が買った物のようで、大我にその美味しさを見せつけているようだ。


「この焼鯖の缶詰も企業努力の結晶が感じられる味で最高だ!美味しい美味しい!」


 大我も望に対抗して、自分が選んだのであろう焼鯖のプレゼンを繰り広げている。学部内でも成績優秀で知られている彼の子どもじみた反論が見れるのは、ここだけだ。


「鯖鯖鯖鯖って鯖ばっかりじゃないか。よし!なら、温めてはいないけど、俺のとっておきを出そうじゃないの。みんなで食おうぜ」


 くだらない争いを繰り広げている2人もこれを食べれば仲直りするはずだ。たぶん。

 そうでなくとも、いつの間にか開戦した鯖合戦を繰り広げるのであれば、俺のとっておきも見せつけておかなければ、参加してもないのに負けた気分になる。


 キッチンの1番高い棚から、黄色のパッケージで彩られた缶詰を取り出す。流石に支援物資の中に毎回は入っていないが、親への感謝の気持ちを思い出させてくれるアイテムだ。それくらい俺が好きな物を振る舞ってやろうと言うのだ。この思いを汲み取ってくれ。


「さぁさぁさぁ!ここで真打の登場だ!」

「鯖味噌!」

「焼鯖だって!」

「いや、俺の話も聞けし」


 部屋に戻っても鯖論議は続いていた。まだ参戦していない俺のことなど眼中にないようだ。くそ、今に見てろよ。


「俺もこの戦いに参戦させてもらおうか!」


 2人の間に缶詰を半ば叩きつけるようにして置いた。カツンとテーブルと缶がぶつかり合った音は、さながら裁判官のガベルの音のようだ。


 場に静寂が訪れた。2人とも俺が出した缶詰の様子をうかがっている。自分の推しよりも美味しいものか気になって仕方がないらしい。


「これが俺のとっておき。鯖のオリーブオイル漬けだぁ!」


 決まった。これでこのくだらない争いに終止符が打てる。和で攻め立てる両名に対し、洋のもので違うベクトルからのアタックだ。望も大我も顔を見合わせて、なす術もないと言ったところか。


「これは……なぁ?」

「あぁ……そうだな」

「ゔぇ!」


 こいつら結託しやがった!

 和の鯖缶連合軍によって、俺の両頬に生ぬるいビール缶が押し付けられた。汗か油か分からないが、若干ぬめっとしているのが不快感を高めている。

 そっちがその気なら、とことんやってやろうじゃないの!

 次回更新は8月27日(土)の予定です。

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