表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
121/138

第121話 何処⑤

「なんじゃ?柳也。自分の祖父に向かってその口の利き方は?」

「お前なんか祖父でもなんでもない!今すぐ咲良を解放しろ!」


 柳也さんが惣一郎に詰め寄るが、麗子さんが壁になるよう間に入った。どんな理由で心変わりをしたのか分からない。しかし、無表情で柳也さんを制するその姿は苦しそうにも見えた。


「いけません柳也様。どうか堪えてくださいませ」

「麗子さんも麗子さんだ。どうして連絡してくれなかったんだ?」


 柳也さんの矛先が麗子さんに変わるが、麗子さんは何も言わない。視線は泳ぎ、柳也さんには言えない後ろめたいことがあることは明白だった。


「ほっほっほっ、そう攻めるな。話したくても話せなかったんじゃよな?」

「それは……」


 惣一郎の問いかけに麗子さんは動揺する。彼女が言い淀んでいると、惣一郎は「ま、ええじゃろ」と一方的に話を切り捨て、俺と柳也さんの間をそれが当然のように和室へと入っていった。今の今まで凄んでいたおじさんも、惣一郎には逆らえないのか大人しく座り直していた。


「なにをしておる?お前さんたちも来んか!」


 その声に続いて麗子さんが、少し遅れて男が困った様子で中に入っていった。机を囲むように座り、入口に近い席が空けられている。惣一郎が手が俺たちを招いているところからすると、そう言うことなのだろう。いったい何を考えているのだ。


「さて、よく来たのう。柳也と……北上清隆君」


 惣一郎は、しわくちゃの目で俺を見据えてそう言った。なぜ俺の名前を知っているんだ。予想していなかった展開に心臓が鷲掴みにされたようだ。額に汗が浮かぶのが分かる。


「おっと、驚かせてしまったかのう。北上君のことは咲良からよく聞いてるぞ?」

「おじいさま、それは……」


 咲良が口を出す。その先は言わないで欲しいと縋るような目をしている。しかし、惣一郎はそれを見て口角を釣り上げた。


「言い寄られて困っていると言っていたじゃないか。連絡が取れないように携帯電話を預かったのに、こんな所まで追いかけてくるなんて困った男じゃ」


 なんだってそんなことを咲良が言う必要があるんだ。俺を騙そうたってそうはいかない。俺は惣一郎が話す内容が全て事実無根であることを確認するために咲良を見るが、不自然に視線を逸らされてしまった。


「惣一郎さん、お戯もこれくらいにしませんか?これ以上は時間の無駄です。後は警察にでも任せて、この先の建設的な話をしたいんですが」


 惣一郎と共にやってきた男が口を挟む。俺の親よりもひと回りくらい上だろう。実際のところは分からないが、そう思わせる雰囲気があった。状況的にこの男が兼信だろう。


「せっかく、わしが楽しんでいるのに水をさすなんて相変わらずいけずな男じゃのう。今回の話無かったことにしても良いんじゃぞ?残念じゃが、良い関係が築けないのなら仕方がないのう」

「なっ――」


 和かな雰囲気が一変し、老人とは思えないドスの聞いた声を発する。場に緊張が走り、これまで老人の遊びに付き合っていた兼信の表情も強張った。

 惣一郎からすると今回の件で近藤家と結びつくことで得られる利益は、微々たるものだと言いたいらしい。貰えるものなら貰う。そのためになら家族すらもさす出す。だが、自分にとって面白くないのなら全て無かったことにする。この男にとってお金を増やすゲームでしかない。


「ふ――」

「ふざけるな!」


 俺は、柳也さんよりも早く声を荒げた。たとえ惣一郎が言うように咲良に嫌われていたとしても、俺は声を上げずにはいられなかった。この傍若無人な男を許せるものではない。


 俺の突然の叫びに視線が集まる。しかし、惣一朗は一瞬だけ驚いた様子を見せたものの、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、役者の登場を手を叩いて迎えたのだった。


「おーおー、若い子は元気で良いのう。はて?何をそんなに怒っておる?」

「咲良を……っ!人の人生をなんだと思っているんだ!お前の金儲けの道具じゃないんだぞ!」

「なーんじゃ。そんなことか」


 そう言い放ち笑い出す惣一朗に俺の拳は震える。さらに兼信も惣一朗に追随するように笑い出した。なにが可笑しい。俺と竜也さんの抱いたこの感情は笑われるようなものではないはずだ。


「君の言いたいことは分かるよ」


 兼信が目尻の涙を拭いながら、俺に話しかける。


「じゃあ、どうしてこんなことを!」

「君と私たちでは見ている世界が違うんだよ。会社では従業員を何百人と抱えていてね。その従業員達には家族がいる。家庭がある。それを守るのが私たちの役割なんだよ。高校を卒業してすぐに私の会社で働いてくれている子もいる。私も勤め人ならとっくに定年退職をしている年齢だ。でもね、社長が引退するから会社を畳みますとは言えないんだよ。分かるね?」


 駄々をこねている子どもを諭すような優しい口調だった。理屈をこねているが、結局のところは自分の会社を守るために家族は歯車になれということ。しかし、それが正論であることを心のどこかで受け入れている自分もいる。


「これ、兼信。お前さんの所とわしの所を一緒にするでない」

「も、申し訳ありません」


 兼信は深々と頭を下げる。力関係がここまではっきりしているともはや清々しさすら感じる。俺は、そのやり取りを見ながら、論理的に兼信に反論をしたいと頭をフル回転させている。賢くない頭から絞り出そうとしているのだが、これといった反論が思い浮かばないのだ。


「……なら、僕がやってやるよ。僕だって櫻田家の人間だ。要は櫻田と近藤家で関係が構築できれば良いんだろ?別に俺でも文句はないだろう。元々は俺が継ぐ予定だったんだ」


 柳也さんは最初からそのつもりだったのだろうか。櫻田家が嫌で距離を取っていたが、可愛い妹が家の犠牲になるのであれば、自分が犠牲になる方がマシだと考えたのだろう。でも、それでは根本的な解決になっていないじゃないか。


「分かってないな青二才。私は君は願い下げだね。クライアントが望んでいるものも理解できないようじゃ営業マンとしては落第だ」

「なんだって?」


 これまで黙っていた康介が、自分たちの方が優勢とみて横柄な態度で柳也さんに食って掛かった。そんなことも分からないのか。どうかしているぜ。言葉にはしなくとも態度でそう言いたいのだと理解できる。


「……子どもだよ。親父たちは子どもという楔が欲しいんだ。男と男じゃ愛し合えることはあっても子どもは無理だろ?結婚だけじゃ補償がないだろ?」

 次回更新は、3月25日(土)の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ