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第11話 ハッピーハロウィン③

「咲良さん1週間もほったらかしにされて可哀想に」

「ぐぬぬ……」


 それは責められても仕方がないことだという自覚はあるから、こうも真正面から突き付けられると何も言えなくなってしまう。逆の立場なら、考えすぎて熱が出そうだもの。自分に落ち度があったんじゃないか。とかとかね。

 もしかして、自分の不甲斐なさが彼女を傷つけている可能性があるかもしれない。そう思うとますます落ち込んでしまう。


「落ち込むのはその辺にしておいて、しゃんとする!候補くらいは決まってるんだろ?」

「決まらないから、ハロファクの力を借りようとしていたんじゃないか」

「あー。もう1回そのカード見せてもらってもいいか?というか見せて」

「ほらよ」


 付箋が貼られたままのカードの束を望へ渡す。無論投げ渡すようなことはしない。元々箱推しスタートなのだ。びっきーのカードを抜いているとは言え、他のメンバーも蔑ろにするはずがない。

 その辺りは望も承知しているようで、恭しく受け取ると1枚1枚丁寧に確認していた。付箋をめくってハロファクメンバーのご尊顔を拝見することも忘れていない。そのにやけた顔、分かるぞ。さっきまでの俺と同じ顔をしているな。


「きりんちゃんさんは、やっぱり可愛いなぁ」

「可愛いのか?かっこいいんじゃなく?」

「確かに見た目はイケメン寄りよ?ただ、清隆も知ってのとおり、歌声は高めだし、普段のポンコツっぷりも含めて可愛さが総合優勝しているってわけ」

「なるほどね。なんか分かる気がする」


 たしかに何もないところで転んだり、物をよく落とすってのは序ノ口だしな。その反面、ステージ中でも常にカメラの位置に気を配っていて、キメ顔のタイミングが完璧だし、どこを切り取っても絵になる魅力がある。いわゆるギャップ萌えってやつか。いかん。脱線しそうだ。


「それで、お前から見てどうよ」

「どうよって……みんな可愛い。プレミア付くだけのことはあるわ。後でびっきーのも見せて」

「いいけど……そっちじゃねーよ。付箋の方」

「怒るなよ……軽い冗談じゃないか。まぁ無難すぎるけど大きな間違いはないんじゃないか?」


 俺は、ほっと胸を撫で下ろす。良かった。方向性は間違っていないようだ。でも、大きな間違いになるような場所ってどこだよ。純粋無垢な俺には、とても思いつかない。


「ただし、これはおすすめしないな」

「どれどれ……映画?天気に左右されないし、薄暗くて良い雰囲気になるんじゃないの?」


 恋愛映画なんか見ちゃって、薄暗い中で手なんかつないじゃってさ、ご飯食べながら感想会も開催しちゃってさ、そのままゴールインとかありえるんじゃないか?え?何その顔、ありえないの?


「映画を見ている間は、お互い話せないし、そもそも趣味が合わなかったら最悪だぞ。少なくとも今の段階では微妙じゃないかな」

「そういうものなのか……?」

「そういうものなの」


 たしかに。貴重な時間の内2時間もの間、咲良さんの顔も見れないし声も聞けない。そう考えるとそれは嫌だな。それに咲良さんの好きな映画のジャンルは分からない。好きな俳優とかいるのだろうか。シチュエーション優先で、相手を楽しませる視点が抜けていたのかもしれない。今後に活かそう。


「あと、これもちょっとどうかなぁ」

「……夜景見に行くのいいじゃん。観光名所も何箇所かあるみたいだしさ」


 ロマンチックなロケーションの代表と言っても過言ではないだろう。見渡す限りの眩い光。まるで暗闇の中に輝く宝石箱。気になるあの娘も落ちること間違いなし。観光誌に必ず載っている定番中の定番。お金があれば、ヘリコプター遊覧コースを提案したいところだ。


「いきなりハードル高いって。たぶんカップルだらけだぞ……耐えられる?」

「……たぶん無理かも」


 いちゃいちゃしているカップルに囲まれた光景を考えると気まずすぎる。ステップアップしてから推奨されるプランだったかもしれない。今の俺には荷が重い。


 夜な夜な考えた案が否定されてがっくし。でも、百戦錬磨の彼が言うなら間違いないか。それに全ての案が否定された訳ではないのだ。まだ救いはある。たぶん。


「逆におすすめのプランってある?」

「そうだなぁ……もう1回見てみるから、ちょっと待ってて」

「何卒よろしくお頼み申す。その間にお茶のおかわり淹れてくるよ」

「おう。砂糖入れてくれな」

「はいはい」


 再びカードと向き合った望を横目に小ぶりなキッチンへ向かう。電気ケトルに水を入れているとシャッター音が聞こえてきた。状況から推察するに、あいつきりんちゃんさんのカードの写真撮りまくっているな。その気持ちはよーくよーく分かるが、本当に信じて大丈夫か?


「ほれよ。さっきと同じやつだけど」

「さんきゅー。砂糖入れた?」

「入れた入れた。いつもどおり、たっぷりだ」


 部屋へ戻った俺は、2人分のマグカップを机に置く。ふわっとお茶の良い匂いが鼻腔をくすぐる。テストの結果発表前のように落ち着かない俺の心を鎮めてくれ。


「それでどうだろう?良い案ある?」


 なるべく平静を装って聞いてみると、望は「うーむ」と唸りながら腕を組んだ。

 え?そんなに悩むことなの?さっきは無難って言ってたじゃん。ってか、今考えてないか?さっき写真撮ってただけじゃないよな?


「よし、仕方がない。急に押しかけた俺に対して、優しくしてくれた君のために一肌脱いであげようじゃないか」


 おい、やめろ。ジャージのポケットをまさぐるな。いくら後で洗濯するとは言え、ぶらぶらしているものが布に擦れているのは、持ち主としてあまり気持ちの良いものではないぞ。


「じゃーん!」

「じゃーんって……」


 何かを取り出した彼の手に握られていたのは、スマートフォン。そして、数回操作した後、それを耳にあてた。コール音がかすかに漏れて聞こえている。


「どこに電話してんの?」

「咲良さん」


 開いた口が塞がらない。涼しい顔して何を言っているんだ。この人は。

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