人助けをする
地面に寝て凝り固まった体を伸ばしながら起き上がった。辺りはまだ薄暗く、少し肌寒い。
「ふぁ~、おはようホシコ」
「ファ~ン」
「ハハハ、まだ眠いのか?」
トロンとした目を前足で器用にゴシゴシしている。猫みたいな奴だな……
朝食のバルナを用意しながら今日の予定を確認する。
「今日は昨日の続きで、このまま真っ直ぐ進むぞ」
「アンッ」
「昼になっても何も無かったら引き返そう……暗くなるまでには帰れるだろう」
「アン」
そう言ってバルナを食べ終わり用意をして出発した。
相変わらず辺りの景色に変化はなく、日が真上に登り始めた。
「こうも状況が変わらないと流石になえてくるなぁ」
そろそろ引き返すかどうか迷いながらしばらく進むと前方の木々の間にに蜘蛛がいるのを発見し、急いで身を隠した。
蜘蛛はこちらには気づかず何かを糸でグルグルと巻いている。
「狩の途中か?」
辺りを見回しても仲間がいる気配はない……倒せるか?いや……そもそも今まで見てきたハールスパイダーのステータスは今の俺の倍以上ある。
いくら不意を突いたといっても一撃では倒せないだろう……
「やめておこう……」
それが賢明な判断だろう、わざわざ餌になりに行ってやる必要性もない。
そう思いながら一応ステータスの確認をする。
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種族 : ハールスパイダー
生命力 : 214/720
体力 : 375/1070
魔素量 : 105/750
筋力 : 421
技量 : 730
知力 : 650
魔力 : 532
速度 : 799
幸運 : 157
スキル:『操糸』『毒牙』『気配遮断(小)』
魔法:『毒魔法』
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「えっ?」
満身創痍じゃないか! そう思ってよく見ると蜘蛛の体はあちこちに傷があり体液が染み出している。
俺はギュッと槍の柄を握るとホシコに小声で話しかける。
「千載一遇のチャンスだ……やるぞホシコ」
「ァン」
そう言って気配を殺しながら絶賛作業中の蜘蛛の後方へと足を進めた。
こいつらは外殻が硬い、勢いがついた転がりでも岩にも負けないほどだ。背後から槍を突き刺しても石槍ではろくに刃が通らないだろう。
前に追いかけられた時は、全力で投げた槍が目に少し突き刺さり隙を作ることができたがそれでも硬いことには変わりない……
だが俺には1つ考えがあった。
以前ゴブリンが蜘蛛の集団にやられた時の光景を思い出す。あの時、ゴブリンが最後の力で放った土魔法……あれで余裕をこいてた蜘蛛一匹に深傷を負わしている。しかも土のトゲでだ。
「腹だ……」
あれほど硬そうな体に魔法とはいえ土でできたトゲがそう易々と通るとは思えない……
蜘蛛の弱点は腹だと予想をつけ右手に魔素を込めながら蜘蛛の背後へ陣取った。
そして地面からトゲが生えるイメージを乗せ、今制御出来るだけの魔素と今までの恨みを込めたパンチを地面に放った。
「っし!」
ゴツンと鈍い音をした後、魔素が地面を伝わり蜘蛛の腹の下で光が弾ける。
すると勢いよく飛び出た土の刺が蜘蛛の腹に刺さった。
「ギィジィィィィィィィィィィ!」
「うわっ!」
天を仰ぎながら悲鳴を上げ、その大きな身体が京の方に倒れてくる。
迫ってくる巨体とホシコの結界がぶつかり、結界ごと飛ばされて尻餅をついた。
やったか? などとてもじゃないが言えない。俺は急いで『万物視』を発動し蜘蛛の生命力を視る。
死んでない! 生命力は100を切ったぐらいの数値だ。
俺は急いで立ち上がると脇目もふらず蜘蛛の腹に石槍を何度も突き刺す。
「ウラッ! ウラッ! ウラッ! ウラッ!」
やがて生命力が無くなり蜘蛛は完全に動かなくなった。
「はぁはぁはぁ……やったか?」
フラグをバキバキに叩き折ってからの満を辞しての発言はあまりにもダサかったが、どうしても言わずにはいられなかった。
「やったぞホシコッ」
「ァン」
荒ぶる呼吸を整えながら仲間の追撃がないか視線を彷徨わせる。
どうやらこの蜘蛛は単独行動だったらしい。今まで見てきた蜘蛛は少なくとも3~5匹で行動していたので今回はとても珍しい。辺りには糸ボールが3個と糸で巻かれている獲物があった。
「蜘蛛の外殻で盾とか作れないかなぁ……」
ここで解体して糸ボールも回収したら荷物がパンパンどころじゃないな……仕方ない、できるだけ回収したら急いで引き返そう。
そう思って素早く解体作業にかかろうと思った時、糸で巻かれた獲物が蠢き、中から呻き声が聞こえてきた、
「生きたままなのかっ」
どうする……解放されて襲い掛かられても困るし、糸の上からとどめを刺しておくか?
恐る恐る近づき、石槍を背から抜いて構える。すると獲物がさらに蠢き、暴れ出した。
「なんだ!? ……これは、人の声?」
急いで獲物の方に近づき石ナイフで切ろうとするが防刃性のため、ぐにぐにと伸びて全く切れない。仕方ないので、糸を伸ばして小さい火魔法で炙り、糸をちぎることにする。
「んー! んむぅー!」
「むー!」
炙りながらなんとか糸を解いていくと、中から子供が2人出てきた。1人は、肩口まで伸びた、さらっとした金色の髪に小さい角が2つ生えていて、目はクリクリと大きく涙を溜めている女の子。
もう1人は同じ金髪で額に角が1本の短髪の男の子。おそらく兄弟で小学校高学年ほどの年齢だろう。
見た目は人間の子供だが、角が生えているというからには人間じゃないのか?
そんな2人は絡まった糸を短い手足で解こうと暴れている。
「おい、暴れるなよ! 解けないだろ!」
「んむー!」
「わかったから! すぐ解くからちょっと待ってくれ!」
残った糸を解いてやると男の子の方が女の子を庇いこちらに向かって何やら叫んでいる。
「€×÷$〆=\×+×〆\€!!」
うん。当たり前と言えば当たり前だけど何いってるのかわからん。通訳なんて便利スキルは今持ってないのだ。
まぁ一応命の恩人だし落ち着いてからゆっくりとコミュニケーションを取れば……
「÷×$€€×〆○=\\°#€!?」
あれ? ヤバくない? なんか明らかに敵意剥き出しで地面に落ちている石を投げつけてきたよ。
「いて! おいやめろ!」
「$€÷>=<〆€÷+^#!!」
「アン!」
地味に痛いしどうしようと考えているとホシコからスキルを使えとの意思が飛んでくる。
そういえば『意思疎通』のスキルがあったよ。実際今ホシコに使ってるし……
早速、俺は敵ではない事を伝えてみよう。
「俺は敵じゃないよ~ 君達を助けたんだよ」
そう言葉にしながら必死で想いを伝えていく。
「×÷€$÷?」
「俺はこの森に住んでる者だ。大丈夫! 君達が困ってるなら何か力になりたいんだ。」
身振り手振りを交えながら説得を試みるが、突然女の子の方が叫び声を上げた。
「〆×>€~~!!」
「×€々+€!? ÷$〆>>°〆!!」
2人は叫び声を上げながら森の奥へと逃げていく。
「ちょ! 待ってくれ!」
くそ! 俺が何したってんだ! ここで逃げられたら人との交流がまた遠退いてしまう! なんとか話を聞いてもらわなければ!
後を追いかけながら必死で説得を続けるパンツマントの紳士と死の物狂いで逃げる子供達。それを冷めた目で見送る犬が世の不条理さを物語っている様であった。




