スパイスパラダイス
「よし、忘れ物はないな! 行くぞホシコ!」
「アン!」
この日のために色々準備してきた。燻したベーコンもどきや芋を練って乾燥させた団子など思いつく限りの必需品を蓋ができる大きめの竹かごリュックに詰めた。
川で拾った剣を研いでももはや元には戻らないほど朽ちていたので置いていく事にする。いつか鋳つぶして鉄で何か作れる様になればいいが……
今回は豚がいた草原の向こう側を探索するつもりだ。豚がいれば狩ろう……持ち歩けないから素材がもったいないが……今回の目的は人里を見つける事と強くなる事、豚には申し訳ないが尊い犠牲となってもらおう。
そう思ってホシコを頭に乗せ、森へと入って行く――
2時間程かけて草原に着いた。辺りを見回すが豚はいない、巣穴に引きこもっているのだろう……
仕方がないので本来の目的通り草原の向こうを探索しよう。
草原を直線に突っ切って行く。邪魔な草木がないので思ったより早く反対側の森にたどり着いた。ここからは未知の領域だ。今よりも慎重に進もう……
しばらく進むと様々な小さな実をつけた若木が群生している地帯へ辿り着いた。
「なんだこれ?」
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《エンの実》
エンの木から取れる実。中身を細かく砕けば良質な塩になる。 食用:可
《コウの実》
コウの木から取れる実。香り高い実で香辛料としてよく使われる。 食用:可
《カイラの実》
カイラの木から取れる実。辛みがある実で香辛料としてよく使われる。 食用:可
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なん……だと? 塩に……これはコショウ!? こっちはトウガラシか!?
その他にも色とりどりの実がそこら中に実っているではないか!
なんだこのスパイスパラダイスは!? 塩は生活に必須だ。今までは甘じょっぱい芋でなんとか凌いできたのだ。だがスパイスがあれば料理の幅もぐんと広がるぞ!
「うぉぉ、っむぐ!」
「……ァン」
叫び出しそうな俺にホシコが頭からずり落ちてきて口を塞いできた。
そうだった……叫んだりしたらまた魔物に見つかるところだ。まったく……何回繰り返したらわかるんだ俺は……頼りになる相棒がいてくれてよかった。
ホシコを撫でながら出来るだけ実を集めて行く。こういう時のために竹の入れ物を作って持ってきたのだ。抜かりはない。
実を集めている最中、ふと右隣の木の上を見ると実に群がっている拳大のアリがいた。
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種族 : スパイスアント
生命力 : 450/450
体力 : 467/500
魔素量 : 250/250
筋力 : 245
技量 : 186
知力 : 217
魔力 : 164
速度 : 221
幸運 : 129
スキル
『酸弾』『連携』
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あまり強くない……1匹だけなら楽に倒せるだろう……だが数が多すぎる!
1本の木に50匹程のアリが群がっていて、その下には動物の骨が散乱している。下手に刺激したらえらい事になるだろう……
あまりお近づきになりたくないので、そっと木から遠ざかり森へと引き返した。
「ふぅ……この森にいる魔物は厄介な奴ばっかだな……」
まぁ実はある程度回収できたから良しとするか……次取りに来るまでにあいつらが全部食ってなきゃいいけど……
「さて……ホシコ、どっちに行ったらいいと思う?」
「……ァン」
俺の相談を聞いたホシコが地面を嗅ぎまわり一鳴きした。
「右か……まぁどっちに行けばいいかわからんし、ホシコに任すとしよう」
ホシコの顔が向いた方向に進路を変えて俺たちは進んでいく。しかし行けども行けども代わり映えのしない森が続いていて、次第に日が暮れてきた。
「ふぅ……今日はここら辺で夜を明かそうか」
「アン」
少し開けた木々の隙間に腰を落ち着けると、持ってきた保存食を取り出した。
「フフフ、今日はご馳走だぞホシコッ」
「ァンッ」
魔物に見つからないようにマントに隠れながらベーコンを火魔法で軽く炙る。そして芋団子に少し水をかけてふやかしたものを乗せて、採ったばかりのエンの実とコウの実をナイフで砕いて振りかける。
それを近くにあった大きめの葉っぱを水で洗い、皿代わりにして乗せた。同じようにもう一皿作り、ホシコの目の前に置いてやる。
「さぁ食べようか」
「アン!」
でも犬にスパイス食わしても大丈夫なのか? まぁうまそうに食ってるし、仮にも聖獣だ……大丈夫だろ。
嬉しそうに尻尾を振りながら肉にかぶりつくホシコを見ながら自分も木のフォークをベーコンに突き刺し食べてみる。
「ッ! うんまぁ~」
ピリリと効いて鼻から抜けるコショウの香り、口の中で豚の脂と濃いめの塩分が混ざり合い疲れた体に染み渡る。
久しぶりの濃い味の食事に、無我夢中であっという間に食べ終わってしまった。
「ふぅ……まだ食いたいけど……食料にも限りがある。今日は我慢しような」
「アンッ」
明日、帰りがけにまだ食料が余っていたら豪勢に食べ切ろう……そう思い、マントにつけた魔素結晶に手を当てる。
前を留めるために便利だと思って魔素結晶をブローチとしてつけたが、試しに使っているうちに面白い効果がわかった。
俺は結晶に魔素を送り込んで行く。すると淡く光り出して『隠形』の効果が発動した。魔素結晶が電池の役割を果たし、マントの効果を発揮し続けるのだ。これで寝ている間も魔物に見つからずにいられるってわけだ。
偶然だけど付けといてよかったな……無かったら徹夜で見張りをしなければならないところだった。
「これぐらい魔素を込めれば大丈夫だろう……今日はもう寝ようホシコ」
「アン」
ホシコを包み込もうとマントをガバッと開きブリーフ一丁の体を見せつける。
ビクッと体を震わせたホシコを疑問に思いながら優しくマントに飲み込み、横になった。
「ホシコはあったかいなぁ……おやすみ……」
「…………」
仕方なく素肌に身を寄せる賢い犬と無自覚変質者の夜はこうして開けていくのであった。




