遠征の準備
「ホシコ~そろそろ機嫌直せよぉ」
「……ゥワン」
ツンと横を向くホシコ。どうやら自分がいるのに他人に興味が出てる事が伝わり、ご立腹のようだ。
まったく……意外に嫉妬深いというか、子供みたいな駄々のコネかただな……まぁ、子犬か……
豚肉をホシコの前に置いて機嫌を取りながらどうするか考える。
これからの生活を考えると人と会うのは必須だと思っている……どうしても自分一人じゃ手に入らないものが多いからだ。
家はボロだし布団は葉っぱ、いまだに服は下着だ。何故か蜘蛛が見つからない……大移動でもしたのか?
そのため村や町を見つけて、なんとか物資を調達したい。
「ホシコ、お前は大事な家族だ。他の奴が入ってきたってお前への愛情は変わらないぞ?」
「……」
「別に人里にずっといる必要はない。俺たちの家はここだ。ただ圧倒的に物資が足りない……人里が見つかればここでの生活ももっと豊かになるかもしれない」
「…………」
「お前にも貧しい思いはさせたくないんだ……」
少し心に刺さったのかホシコの耳がピクリと動く。
「人里に行くって言ってもこの森を抜けなきゃ始まらない……そのためには強さがいる」
「……ァン」
「協力してくれないか? 一緒に強くなろう?」
「アン!」
こっちを向いて返事をしたホシコの尻尾が揺れていた。どうやら許してくれたようだ。なんだか今まで以上にホシコの気持ちがわかるような気がする。
仕方ないなぁ……そんな感情が伝わってきた。
ピンポーン
《スキル『意思疎通』を獲得しました》
おお! ナイスなスキルだ……これでホシコとのコミュニケーションも捗るぞ!
「ホシコ! 便利なスキルが手に入ったぞ! お前が何を言いたいかわかるようになった!」
嬉しくなってホシコを抱っこし、目を見つめると伝わってきたのは……『腹減った』という感情だった……
「まったく……なかなか現金な奴だな」
「アン」
苦笑いしながら頭を撫でてやる。さっきまでとはうってかわってケロッとしているホシコを見て、今まで以上に愛おしく感じる京であった。
「よし! 豚肉切り分けてベーコンでも作るか!」
「アン!」
そう言って、燻すための木を木材置き場に取りに行った――
ホシコのご機嫌をとってから1週間が経った。朝の日課に身体強化の訓練を追加して多少強くなった感じはある。
そして俺は今、マントを作っている。毎日地道に集めていたハイドラットの皮がようやく使えるぐらいに集まったのだ。
「これで下着生活ともオサラバできるぞ!」
ここ最近、何故かはわからないが、まったくと言っていいほど蜘蛛がいないのだ……そのため、糸ボールの回収はもう諦めた。
仕方がないので、地道に皮をなめして、ネズミの牙を針に加工し、糸はスポブラを解いたものを使って縫い合わせている。
「これで、完成っと!」
ザラっとした灰色の皮に前をとめる用に豚の魔素結晶のブローチを付けた。ついでにフードも付けてある。
やりきった満足感に浸り、手に持っているマントを見てみた。
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《隠鼠のマント》
ハイドラットの皮を縫い合わせたマント。投蜘蛛の糸を使っているため魔素伝導率は高い。魔素を込めると『隠形』の効果を発揮する。 防御力:74 質:良
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「おぉ~!」
素晴らしい出来だ!『隠形』はスキルとダブってるから効果は無いと思うが、防御力も高いし何より初めての質『良』だ。
さてさて着心地はどんなもんだ?
俺はマントを羽織り、前を閉じてからフードを被ってみた。少し肌に当たる感触が気になるが、包まれた感じが安心感を与えてくれてなかなかに悪くない。丈もピッタリだ!
「よし……これで準備は整ったな……」
ニヤリと笑いそう呟く。
俺はこれからこの森の規模を把握するため遠征をしようと思っている。あわよくば地図も作りたい……まだまだ森の魔物には及ばないまでも、今の俺なら比較的安全に探索できるはずだ。
「明日から探索に出かけるぞホシコ!」
「アン!」
「とりあえず2日で戻ってこれる範囲を探索するつもりだ! 覚悟しておけよ!」
「アンッアンッ!」
そうホシコに言い聞かせると、任せておけという感情が伝わってくる。ホシコの頼もしさに嬉しく思いながらそっと立ち上がり、明日からの事に想いをはせた。
恐らく厳しい道のりになるだろう……でもホシコと2人ならなんとかなるはずだ!
肉体的にも精神的にも少し成長した京の姿はまさに戦いに赴く戦士のそれだ。
「ホシコ! 頑張ろうな!」
ただ、風になびくマントからチラチラ見えるブリーフがその全てを台無しにしていた。
「…………」




