禁断の症状
男子たる者、一度くらいはラッキースケベイベントに憧れるものだ。
世の中の主人公の皆さんは、そういった経験が豊富だと伺い聞く。
俺も人生二十六年、我が人生の主人公として、一度くらいは体験したいと常々思っていた。
……これ、ラッキースケベで良いのかなぁ……
眼前に広がる光景は、さながらヴァンパイアがお嬢様を襲っていると言うところか。
しかし、ヴァンパイア役が、つい最近まで普通のOLしてた中二病な女性で
襲われているお嬢様役が、非日常の権化のような『金色の魔王』様と言うのがシュールだ。
「俺、忘れ物したから一時間後くらいにまた来るわ」
「ま、待て! ユキト!! お前は何か重大な勘違いをしてしまっている」
「そうれすよぉ……きりしまさん……いっひょにのみまひょ……」
「大丈夫。俺は勘違い等していないよ。あれだね……そっちの路線で売り出す感じなんだよね。
判ったよ。俺は……もうちょっと地味な感じで行くから。邪魔にならないように」
「どっちの路線だっ!? そんなシフトチェンジはしないぞっ!?」
さて、全く状況が理解出来ん。どうしてこうなったんだ?
ちょっと本当に一回おウチに帰って状況を整理してから出直しても良いだろうか?
それとも本気で路線変更ならば、俺はもう家に引き篭もっていた方が良いだろうか?
交流魔術戦の事とか、元の世界に戻す事とか全部無かった事にして。俺の中で。
「は、話を聞けっ! 別に私達は変な事をしていたわけでは無いっ!」
これが変な事じゃなかったら、変な事とはどこの世界に存在するのだろうか。
少なくとも現代日本において、女の子同士で首筋を噛み合う等と言うスキンシップは聞いた事が無い。
最近の女子高生の流行とかに詳しいわけでは無いが、トゥイッターとかで流行ってるの?
「ちゅうちゅう……」
「み、ミツキ! も、もうやめ……あっ……」
どう見ても変な事です。本当にありがとうございました。
完全に観月さんは、泥酔状態だ。昨日、魔力回復のためにレヴィアの血を飲んだ時も
若干酔ったような感じになっていたが、今日はその時の比では無い程酔っている。
それこそ、初めて焼肉屋で出会った時と同じくらいではないだろうか。
レヴィアは何とか観月さんのホールドから逃れようとしているが、何時ものように力が使えないのか、観月さんに手を出すのに気が引けるのか。
どちらにせよ完全に押さえ込まれ、息を荒くしている。
「……本当に俺帰らなくて大丈夫か?」
「はぁはぁ……べ、別にやましい事をしているわけでは無いと言っているだろうっ!」
本人がそう言うんだから、これはやましい事では無いようだ。
ならば、俺が近くで見学していても良いんだなっ!
「こ、これは……ただの魔力の補給だ……昨日もやっただろう」
「昨日はここまでじゃなかった気がするんだが……なんで急に観月さんが吸血鬼みたいになってるんだよ」
「ちゅうちゅう……はぁ……ち、ちがうんれす……わ、わらひは……」
全然呂律は回っていない。今の観月さんに何を聞いても満足な回答は得られない気がする。
「そういえば! きめまひたっ! きのうのあれ……『蛇皇碧炎法』って……」
そう言えば、酔うと心の中学二年生を隠さなくなるんだったなこの人……
あの傍若無人な藤野さんがドン引きしていたくらいに……
そして、案の定会話に前後の繋がりも何も無い。酔っ払いは放置だ。
今の彼女に話しかけていても、中二ワールドに誘われるだけで、何も見えてこない。
「あれぇ~ 聞いてますぅ~ わらひのナイスネーミング~」
「ホントにどうしてこうなったんだレヴィア……」
「う、うん……どうも私と観月の魔力の相性が良すぎたみたいで……」
「そう言えば昨日もそんな事言ってたな」
「あいしょうバッチリ~」
ようやく血を吸うのに満足したのか、レヴィアの首筋から口を離した観月さんは
大きな玉座の上でレヴィアに抱きつき頬擦りをしている、レヴィアは迷惑そうな顔をしているが
魔力を使って強制排除しないところを見ると満更でも無いのかもしれない。
これ動画撮影しておいて冷静になった観月さんに是非見せてあげたい。
自分じゃ充電出来ないから、余り使いたくないのだが、俺は携帯を動画モードにして……
「さ、撮影は禁止だっ!!」
「やましくないんじゃなかったのか」
「それとこれは問題が別だ。 肖像権の問題だ」
こんなファンタジー魔王様に肖像権の事を言われるとは思ってもみなかった……
仕方ないね。魔術があってもこの世界のベースは日本に近いわけだし……
これ以上、冗談でもやると『光の柱』が飛んで来そうなので、携帯はしまう事にする。
「とにかくだ……話を戻すと……み、ミツキくすぐったい!」
「お肌すべすべだねー」
「全然話戻ってないんすけど、ずっと明後日の方向に爆走してるんすけど」
そして、女性に免疫の少ない僕が直視するには、刺激強すぎるんすけど。
「だ、だから! 私とミツキの魔力の相性が良すぎたから……ミツキの魔力が増大してしまい……かつ垂れ流し状態になってしまった……」
「なるほどな」
平静を装うために『混沌の支配者』モードで頷いてみたが、ど、どういう事だ……?
魔力と魔術の関係や深い知識は俺にはまだ全然備わっていない。
教科書をパラ見したが、全く頭に入ってこないまま現在に至っている。
そういう現象が有るといわれれば、それで納得するしか無い訳だが……
「まさか、朝とは言え……この私を押さえ込む程の魔力になるとは思っていなかった。虚空の姫君の力を私も侮っていたようだ……」
「フッ、彼女の力を侮ったレヴィアのミスだな」
「う、煩い……」
どうやら、本当に観月さんの魔力はかなり上がっているようだ。
レヴィア自身が驚嘆する程に……
「それにしてもここまで吸血鬼みたいになるもんなのか?」
「禁断症状……」
「はぁ?」
「魔王の血を飲んだ者は、その味に魅了される……」
「酔う以外に中毒性まであるじゃねーか!」
「ま、まさか私もここまでされるとは思ってなかった!!
私の魔力が完全に馴染むまで、毎日少しずつ血を分け与えていれば問題無いはずだった!」
こうなったのはレヴィアにとっても想定外だったと言う訳か。
あの時は、ああするしか無いと思っていたが、素直に医者に行った方が良かったのかもしれん。
「観月さんは大丈夫なのか? 人格がちょっと……いや、大分変わってる気がするが……」
「今は酔っているせいだ……朝はもっと酷かったけど……起きたらいきなり襲い掛かられたんだぞ……」
「そ、そうか……大変だったな」
「朝から色々有りすぎて本当に疲れた……」
「わらひはぜっこーちょーですよ!」
珍しく本当に疲労した表情を浮かべるレヴィアと異様にハイテンションな観月さん。
この二人の間に起きた出来事を、その場で少し見たかったと思ってしまう。
レヴィアへ何時か仕掛けようと思っていた寝起きドッキリを図らずとも観月さんがやってくれたわけだ。
まぁ、勝手に人の部屋に無断侵入しまくってたコイツは、自業自得だろう。
「これだけ私の血を摂取すれば、当面は禁断症状は起こらないとは思うが……」
「お前はどうなんだ? 思いっきり噛みつかれてたけど」
「ふん、取って付けた様に私の心配もしてくれるんだな」
「そ、そういうんじゃねーよ! ふ、普通に心配くらいするわ!」
駄目だ。今日は、その気になっても全然『混沌の支配者』モード維持できない。
「案ずるな。この程度はただの献血みたいなものだ」
首筋からする献血なんて俺は嫌だけどな……
とは言え、おおよその事は判った。恐らく昨日、観月さんがいきなり魔術が使えるようになったのも
レヴィアの血の影響を受けたせいなのだろう。これで名実共に観月さんも魔術師と言う訳だ。
それも、散々力を見せ付けて来た『金色の魔王』を押さえつける程のポテンシャルを持った……
レヴィアがどれだけ本気で振り解こうとしたかは判らないが、それでも普通の魔術師のレベルで収まる器では無いだろう。
昨日感じた不安が、また俺の胸を過ぎっていた。なるべく考えたくないな……
「ところで、そんな副作用あるもん俺にも飲ませようとしたのかよ」
「あ、あの時のは冗談だっ!」
「もしも、俺が飲んで、観月さんみたいになって襲い掛かってたらどうしてたんだよ」
「『光の柱』で原子まで分解した後に、残った原子もブラックホールで彼方に消し飛ばしたかな」
「ひでぇ……」
この扱いの差。いや、判ってるけど! 判ってたけどっ!!
「きりしまさんっ!」
「は、はい!?」
「きりひまさんは……わらひの事をいたいっておもってまふよね……」
「いや、そんな事無いよっ!? ちょっと中学生の魂を持ち続けてるって思ってるだけだよ!」
「そーいうのですっ!!」
「ミツキは絡み酒みたいなんだ……」
「何とかしてくれレヴィえもん」
「私にだって……出来ない事も有るんだ……」
平日の朝からお酒(レヴィアの血)に酔って、周りに絡みまくるって思った以上に残念な観月さんに俺とレヴィアはこの後も、絡まれ続けたのだった……
まぁ……酔ったオッサン上司に絡まれるのよりは、数百倍は楽しかったのは、観月さんの名誉のため追記しておく。




