後悔と責任
酒、それは人を惑わせる禁断の飲み物。
俺も社会人になり立ての頃は、空気を読むスキルを悪い方に作用させてしまい……
「いけるっすよ! 俺、結構酒強いっすよ!!」
「藤野さんの酒ならどんだけでも飲みますよ!」
みたいな感じで、いけないハッスルをしてしまった事も一度や二度ではない。
結果として、深夜三時に知らない公園のトイレで目覚めたりとか、独身寮の廊下で寝てたりとか、色々な経験をしてきた。
酒は呑んでも、呑まれるな。 まさにその通りだと思う。魔王の血も飲んでも良いけど、飲まれちゃ駄目だ。
うん、何か魔王の血に飲まれると言うと、何だか血に抗ってる格好良い感じのように聞こえるけど
今回の場合は、『酒』と『魔王の血』と言う単語はほぼ同じ意味で、別に格好良くも何でも無い話と言うのが悲しいところだ。
「今度こそ……私死にます……」
魔王室の片隅で体育座りしながら、落ち込んでいるのは、つい昨日『蛇皇碧炎法』と言う格好良い魔術を編み出た僕等のアイドルの『碧き光を纏いし虚空の姫君』 こと、観月エリナさんである。
そんなに付き合い長いわけでも無いのに、もう何度も凹みモードの観月さんを目撃している気がする。
あれから約一時間、俺達は観月さんのハッスルに付き合う事となった。魔王の血はアルコールよりも酔う時間は短いらしく、一時間が過ぎ、段々と平静になって行く観月さんは、見ていて逆に可哀想になってくるレベルだった。
判るよ。気まずいよね。記憶無くす程お酒に酔ってハッスルした後に会社に行くのって。課長のヅラとか剥ぎ取って頭ペシーンとかしてたらどうしようって思うもの。女性社員にセクハラしまくって訴えられたらどうしようとか……俺はそんな経験は無いよ?ホントに……
「本当に激しかったからな……ミツキは……」
「あーあーあー!! レヴィア! もう言わないで……あれは違うの……」
必死にレヴィアの口を塞ごうとする観月さんだが、この場に居る俺もレヴィアも君の痴態ずっと見てたから、今更取り繕っても仕方が無いと思う。
「い、言い訳して良いですか?」
「うん、もう大丈夫だよ。 観月さん……俺達ちゃんと判ってるから」
とびっきりの優しい笑顔で観月さんを慰めてみる。これで俺の好感度うなぎ登りじゃない?
「う、胡散臭いですっ! その優しい笑顔やめて下さい! 可哀想な子を相手にするみたいな感じ出さないで下さいっ!」
おおう。好感度うなぎ登りどころか、胡散臭いとまで言われてしまった……中々人を慰めると言うのは難しいもんだ。まぁ、あんまり慰める気も無かったんだけど。
「言い訳しても良いけど……責任は取って貰うぞ……」
「あうう……ごめん。 レヴィア…… 本当にごめん……」
絶対にレヴィアの奴も遊んでやがる。視線を観月さんから逸らしながら、口元が邪悪に笑ってる。怖いよ魔王様!
ついさっきまで、酔っ払いの絡みにつき合わされたんだから、俺達のささやかな復讐くらいは観月さんには笑って受け取って欲しい。
「本当に……朝起きたら私が私じゃないみたいで……記憶もあやふやで……気付いたらレヴィアの部屋に居て……」
必死で弁明する観月さんだが、色々とあやふやだ。先程のレヴィアの解説によれば、レヴィアの血で魔力がブーストされたせいで、暴走してしまったようだが……
「わ……私、大丈夫なんですかっ!?」
堪りかねたように観月さんが叫ぶ。そう叫びたくなる気持ちも判るが……いきなり知り合いの家に朝方に忍び込んで、血を吸う人は余り大丈夫な人では無いだろう。少なくとも、俺の二十六年間の知り合いの中では観月さんだけだ。
「このまま……吸血種になってしまうんじゃ……」
本気で不安そうだ。そろそろ弄るの止めてフォローに入った方が良いだろうか……
「ふん、安心しろ……中途半端に私の血に触れたせいで魔力暴走が起きただけだ。 『虚空の姫君』たるお前がそんなに取り乱すものじゃない」
「レヴィア……責任どう取ったら……」
「あ、あんなの冗談だ! 冗談だけど、そうだな……お昼くらいはご馳走して貰おうか」
「うん! する! 学食で良い?」
「学食……そうだな。 それで良い」
あれ、俺がフォローする前に二人の間でこの件、片付いちゃったよ。元々、本件は俺は関係無いっちゃ無いんだが……
「そろそろ、十二時だし、早速学食行く?」
「ん……そうだな」
何だか仲良し度が、段々とこの二人上がっていっているような。俺取り残されてない?
昼食にママンの弁当持って来ちゃった俺は、一人寂しく魔王室で弁当つついてる感じ?
「ユキト、何をしている。 貴様も来い」
「追いてっちゃいますよ桐嶋さん」
……両手に花で学食。俺、そろそろ死ぬんじゃないか?
どう考えても、今までの人生でこんな展開になる事は無かった。
これは罠かっ!? 十年前の世界に俺を留まらせるための。
いかん、このまま普通にこの世界で過ごすと、交流魔術戦で智成君に殺されかねないのに。
最近、俺の決心を鈍らせるようなイベントが多発過ぎている気がする……気のせいだよな?
「行かないのか?」
「行きますともっ!!」
色々考えるのは止めて、どっかの月の民の兄貴が必殺魔法を放つ時のように俺は良い返事をした。
◆◆
「あれ……レヴィア・アリスフィードじゃね?」
「お、おい……」
「代表選手三人だ!」
俺たちが学食に入るとざわめきが起きた。
そう言えば、最近学校関係者と言えばレヴィアと観月さんとしかまともに会話していなかったが、俺達三人は、代表選手であり、それなりに有名人なのだ。
元々の高校時代は、空気のような存在だった俺が、甲子園出場ピッチャーみたいな扱いになっているのは、はっきり言って全然慣れない。
授業に余り出たくない最大の理由がコレだ。俺は基本的に静かに平凡に生きて行きたいタイプなのだ。
それに、実力が伴っていれば気持ち良く賞賛も受けられたかもしれないが、今の俺は魔力0なのに持ち上げられている状態だ。居心地悪い事この上無い。
「丁度良い……あそこのテーブルが空いているな」
俺達は空いているテーブルを確保した。
昼食時だと言うのに、十人は座れるであろうテーブルを三人で独占している形だ。
当然、俺達が座ったテーブル以外は、満員御礼だ。何コレ、ここまで腫れ物扱いなの俺達!? クラスでは、もうちょっと暖かい扱い受けてた気がするんだけど……
「『金色の魔王』だ……」
「シッ!目を合わせるな……何されるか判らんぞ」
「あれが魔王……」
……あ、これ完全にレヴィアのせいだ。
レヴィア自身は、まるで意に介している風は無いが、明らかに周りの生徒はレヴィアを恐れている。
どうやら俺や観月さんとは、また違った扱いを受けているようだ。
「レヴィア、何食べる?」
こちらもまるで意に介していない感じの観月さんは、立ち上がりセルフサービスの食事を買いに行こうとしている。ウチの研究会の女性陣は強いっすね。俺は向けられる好奇の視線にもう負けそうなんだけど……
「どこに行くんだミツキ?」
「え?食事取りにだけど……」
「?? 店員が持ってくるものじゃないのか……??」
……元々ウチの学食はセルフサービスだった。ただ、この世界では色々変化があるためどうなっているのか判らない。
辺りを見回すと、やはりセルフサービスのようで、生徒達は食堂のおばちゃんから料理を受け取っている。
良かった。魔術で運ばれてくるシステムじゃなくて。
「レヴィア……お前、学食来た事無いのか?」
「…………。 あ、あるぞっ! べ、別に私は……ちょ、ちょっと勘違いしただけだっ!」
間違い無い。 こいつは……ボッチだ。
まぁ……苛められていると言うよりは、皆ビビッて近付いて来ないと言う方が正しいのだろうが。
ちなみに俺はボッチじゃないからね! 高校卒業してから連絡取ったのは片手で数えられるくらいだけど……
「一緒に行こっかレヴィア」
「う、うん……し、仕方ないから付き合ってやる……」
「桐嶋さんは?」
「あー、俺は弁当有るから」
「それじゃあ、すいませんけど、席取っといて下さいね」
「りょーかい」
まっ、『金色の魔王』様が陣取ってる席を奪いに来る奴は居そうに無いけどな。
「おや?桐嶋君じゃないか」
良く通る凛とした声が、一人になった俺に話しかけてきた。
後ろを振り返ると、そこに居たのは、生徒会長・真理川マナだった。
「ここ、良いかい?」
「は、はぁ……」
観月さん、レヴィア早く戻って来てくれ!
俺は中途半端な知り合いの人と、仕事以外で軽快なトークするのは苦手だ!




