碧い炎の目覚め
多くの人間が一度は患うとされる病……それが中二病だ。
中二病に至る原因や症状は多岐に渡る、その中でもある意味で一つの到達点と言えるだろう。
『腕から珍しい色の炎を出す』と言うやつは。
腕に巻いた包帯を外して黒い炎とか出した日には小中学生のハートはイチコロだ。
そんなキャラの真似をしては、黒歴史を作っていく。まさに黒歴史量産キャラ……
今、俺の目の前では、社会人になっても中二病の完治に至らなかった子が、まさに一つの到達点に達してしまっていた。
人間、妄想を捨てずに一途に信じ続ければどこかで叶うものなのかもしれない。
「ど、どど……どうしたら良いんですか??」
しかし、到達点に達したはずの観月さんは、両腕に碧い炎を燈らせながら涙目だ。
やはり、観月さん程の人でも、いきなり手から火が出だしたら狼狽するのか。
てっきり、「我が腕に宿りし、碧き炎に灼かれなさいっ!」とか言い出すもんかと思ってた。
「それ消せないの?」
「き、消えません……」
そう言いながら観月さんは必死に腕をぶんぶん振り回してた。何それ、カワイイ。
しかし、燈された碧い炎は、一向に消えてくれる気配は無い。
「まずは落ち着こう。それ、熱くは無いんだよね?」
「多少腕に熱は感じますが……本当に火に触っているとか、火の傍に居るって程の熱さでは……」
まぁ、そうだとしたら、平静に喋れてるわけ無いよな。
観月さんは、俺とは違いこの世界に来た最初から魔力が有った。
学べばこの世界の連中と同じように魔術を使う事は可能なのは予想していたが
まさか、唐突に使えるようになるとは思っていなかった……
「でも、良かったね」
「よ、良くはないですよ!?」
「いや、目覚めたのが、尻から炎が出る魔術じゃなくて……」
「…………桐嶋さん、タッチしますよ」
「も、燃えるからやめてっ!」
「もう……変な想像しないで下さい」
「ご、ごめんなさい……」
だって、ミエナイブログには、レベル2の魔術として記載されてたし!
あれのやり方は確か……いや、今はそんな事思い出している場合じゃない。
それはともかく本能的に燃えると感じたが、実際にあの炎は物体を燃やす効果があるのだろうか?
熱は持っているし、可能性は高いと思うけど……
「気を取り直して、ちょっと実験してみない?取り敢えずその炎の性質を調べよう」
「実験ですか……」
「別に難しい事は、俺にも観月さんにも判らないし。まずはそれが普通の炎と同じかを試そう」
俺はポケットティッシュを取り出す。これが燃えれば普通の炎と同じだろう。
それに何らかの物体を燃やす事で、魔術の効力が終了する事も期待出来る。
ティッシュを手渡しすると、俺にまで燃え移りかねないので、一枚だけ床に置いた。
「……拾おうとすると床が燃えないですか?」
「確かに……その魔術の威力が全然判らないから、学校全焼したら拙いな」
そう言っても、ここは魔王レヴィア様が、学校の教室に細工を施して異空間と繋げている異質な世界だ。
ペーペー魔術師の炎くらいでどうにかなるもんとは思わないが、念のため危険は避けたい。
「じゃあ、投げるからキャッチしてみて」
「はい……」
俺はポケットティッシュをまるごと、観月さんに向かって放り投げた。
それをキャッチしようと観月さんが手を伸ばした……瞬間、碧い炎は蛇のように伸びると獲物に食いつくが如くポケットティッシュに絡みついた。
そしてたかがポケットティッシュに対して大げさな程の炎の渦を作り、あっと言う間にその痕跡全てを焼き尽くしてしまった。
「…………ぜ、絶対にタッチしないでね」
「善処します……」
思った以上に、魔術だった。
しかも、ポケットティッシュを燃やし尽くしたにも関わらずその碧い炎はまだ爛々と輝いている。
「…………」
自分に突然芽生えたその魔術の性能に観月さんも驚愕を隠せないようだ。
言葉無く、考え込んでしまっている。
「……その魔術の名前とか考えて無いよね?」
「か、考えてないですよっ!?ど、どうやったら消せるかなーって……」
非常に怪しいところではあるが、今は追及しないでおこう。
変に追求して燃やされたら困る。
「ほ、ホントですから……信じてますよね?」
信じてるから手をこっちに向けないで欲しい。
何時、あの炎が伸びて俺に纏わり付くかと考えたら気が気じゃない。
とにかく、あれは近付いた物をオートで補足して、燃やす炎の魔術と言う事が判った。
「次は、普通に水につけてみるか……」
「そんなんで消えて良いものなんでしょうか?」
「まぁ、消火の基本だからね。幾ら魔術とは言え、火である以上消えるんじゃない?」
幸いにもこの魔王室に、水が通っているのは先程食事をした時に確認している。
俺は両腕のふさがっている観月さんに代わり、キッチンの蛇口を捻り水を出した。
この水……果たしてこの異空間にどこから注がれているのか判らないが……今は気にしない。
排水口を塞いで、貯められるだけ水を貯めた後に、観月さんを促した。
「それじゃあ……行きます……」
彼女が、水に手を伸ばすと、碧い炎は先程同様に水を攻撃対象と判断したのか
その手が触れる前に、水へと襲い掛かった。そして碧い炎の蛇は、水に触れるとあっさり消えた。
そのまま両の手が貯めた水に浸かると、腕に纏わっていた大本の碧い炎も、すっかり勢いを無くして消えてしまった。
意外と弱いな炎!!攻撃演出が割と派手だった割りに、ただの水で消えちゃったよ!
やはりこれはせいぜいレベル1とか2の魔術なんだろう。
「き、消えました!」
「ああ、良かった。それで何て名前にしよう」
「そうですね。この魔術の特性から碧炎蛇…………そんなの考えて無いです」
良かった。本当に消えてくれて良かった。
これでさっきの炎に焼き尽くされる心配も無く、観月さんを弄る事が出来る。
「絶対に帰ったら観月さん、ノートに書くんだろうなぁ……」
「な、何をですか!?書かないですよ!?何で遠い目してるんですか!」
「まぁ、冗談はそれくらいにして」
「本当にもうそれくらいにして下さい……」
「何で急にそんな事出来るようになったの?」
「判らないんです。何か腕がちょっと熱いと思ったら突然……」
今日の昼間発生した、記憶の時間遡行、あの時から観月さんの中で何かが変わり始めている?
もはや、ただの中二病では無い。ついに実績が伴い始めている。
こうなって来ると、果たして観月さんが、元の世界に戻したいと思うのかが微妙だ。
今、それを確認する勇気は俺には無い。流石に、一人になるとキツイぞ。
「私達で考えても多分……判らないですよね」
「レヴィアも寝ちゃったし、明日それとなくレヴィアに聞いてみるしかないか」
「判りました。今日はこれで解散して、明日またここに集まりましょう」
「じゃあ明日は、朝から集まろう。レヴィアもこの時間から寝るなら明日は朝も起きてるだろう」
「はい、それじゃあ、おやすみなさい!」
こうして俺達は、ようやくレヴィアが用意した部屋への直通転移魔法陣でお互いの部屋に戻った。
部屋に戻った俺は、布団に入り、観月さんがくれたクッキーを眺めながら今日の事を考えていた。
観月さんが魔術が使えるようになったのは、きっと元の世界に戻るために役立つはずだ。
その一方で、彼女もこの世界に染まってしまうのでは無いかと言う不安がどうしても消えない。
結局のところ、俺は魔力0で、この世界にはどうやっても染まれそうに無い。
この世界の空気を読む事が出来ない。何時までハッタリが持つかも判らない。
本当に……ここがただの十年前だったら最高だったのにな。
そんな事を考えながら、その日の俺は眠りに落ちて行った。
次の日、俺は朝食を取り、そのまま自室の転移魔法陣より魔王室に向かう事にした。
時間は午前九時三十分。正確な時間は決めなかったが、もう観月さんは来ているだろうか?
レヴィアもまだ寝ているのだろうか?朝食がまだならば、昨日カップ麺ご馳走になっているし
あいつはウチの母親の料理が結構気に入っていたようなので、昼食用の弁当でもわけてやろう。
俺が思考している間に辺りの景色は俺の部屋から魔王室の玉座に変わっていく。
いい加減、この転移にも少し慣れてきた。そして、転移が終わった俺が最初に見た物は……
「う、うっ……だ、駄目だミツキ……そんな激しく……」
え?
「あっ……ら、らめ……」
「何してるの君達……」
レヴィアの首筋を甘噛みしてる観月さんと、玉座に腰を下ろしながらも体を震わせ悶えているレヴィアの姿だった。
俺の思考回路はショート寸前。今すぐ帰りたいよ。




